【藤原さと氏】ハイ・テック・ハイのPBLから得るヒント

PBLを主体としたカリキュラムを実践している米国のチャータースクール「ハイ・テック・ハイ」。その実践をひもときながら、今後どのような学びをもって社会を描いていくべきなのかを示した藤原さと氏の著書『「探究」する学びをつくる』(平凡社)が、多くの教育関係者から注目を集めている。同校のPBLの設計から見えてきた、日本の教育へのヒントに迫った。(全3回の最終回)

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ハイ・テック・ハイのPBLは日本の先生も取り入れやすい
――『「探究」する学びをつくる』では、ハイ・テック・ハイでの探究的な学びについて書かれていますが、どんな学校なのでしょうか。
ハイ・テック・ハイの教員や子供たちにヒアリングを重ねてきた

2000年に開校した、米国の西海岸サンディエゴにあるチャータースクール形式の公立校です。さまざまな人種、経済的なバックグラウンドを持つ生徒が集まっていて、約半数が低所得層の子ですが、96%の生徒がカレッジ以上の大学に進学するなど、進学率や学力面でも高い実績を残しています。

最大の特徴はPBLを主体としたカリキュラムを実践していることです。一日の授業の大部分が、プロジェクトをベースにした学びです。

ちなみに、日本ではプロジェクトベースの学びは「プロジェクト型学習」と言われ、プロブレムがベースの学びは「課題解決型学習」と言われることが多いようです。

どちらが正しいPBLということではなく、プロジェクト型の場合は「何かをつくる」ことが中心となり、課題解決型の場合は「解決する」ことが中心となります。このどちらにも共通する根底の概念が、「探究」なのです。

――どのようにハイ・テック・ハイに関わるようになったのですか。

14年から3年間、家族の仕事の都合で米国に滞在していたのですが、16年に同校を描いた教育ドキュメンタリー映画『Most Likely to Succeed』を観て、ここで行われていることは、これからの日本の教育にも応用できると直感しました。

その後、18年に岩瀬直樹さん(当時は東京学芸大学大学院准教授、現在は軽井沢風越学園校長および園長)らと共に、同校を訪れました。

実際に授業の様子を見させていただき、子供たちから話を聞いたり、教員からプログラムなどについてヒアリングしたりしました。そして、日本から視察に行ったメンバー全員が「同校の取り組みは日本の新学習指導要領の目指すところにも合致している」「日本の先生の能力があればできる教育だ」と感じたのです。

――今や『Most Likely to Succeed』が全国各地で上映されるなど、日本の教育関係者が同校の取り組みに注目していますが、どうしてだと思いますか。

ハイ・テック・ハイでは、PBLを「生徒たちが発表成果物・制作物・出版物を作って一般公開するまでの一連のプロジェクトを、デザイン・計画・実行することで得る学び」と定義しています。

PBLを「コンセプトから考えろ」と言われると、「難しそう」と構えてしまう人もいます。でも、同校のプロジェクトの多くは、成果物というアウトプットから考えていきます。これは、現地に視察に行った先生方もおっしゃっていましたが、日本の先生にも受け入れやすいやり方なのだと思います。

なぜなら、日本には学芸会や運動会といった行事があり、先生たちはそれに向けてつくり上げていくような経験をこれまでもしてきているからです。

もちろん、ハイ・テック・ハイのPBLが全てなのではなく、あくまでいろいろなやり方のうちの一つです。自分にフィットしそうだと思ったら、取り入れてみるといいと思います。

また、ハイ・テック・ハイで何よりも大切にされているのが、「公正」を実現するためのプロジェクトであるということです。この公正とは、「誰もが、人種や性別や、性的な意識や、身体的、もしくは認知的能力にかかわらず、同じように価値ある人間だと感じることができる」ということです。

これは、日本の先生も当たり前のように大事にしてきたことだと思うのです。同校の在り方は、「これまでやってきたことを、これからもやっていけばいいんだ」と自信を持たせてくれるものではないでしょうか。

日本の探究学習のルーツをひもとく
――同校の取り組みから、PBLを実践していく上でのポイントはどんなことだと思いますか。
「PBLは複数の教員で協働しながら行うべき」と藤原氏

押さえるべきポイントは数多くありますが、まず決してPBLを一人でやろうとしないことです。

例えば、同校では50人ぐらいの生徒を必ず複数の先生で見るようにしています。国語や歴史など人文系の先生と、理科や数学など理科系の先生のペアが基本で、そこにアート系やマルチメディア系の先生も加わり、協働しながらプロジェクトのプランを考え、進めていきます。そうすることで、プロジェクトは自然と教科横断的になります。

また、PBLに取り組んでいると、「これでいいのかな?」と思うことがたくさん出てきます。「全然、うまくいかない」と思うことも多々あります。でも、先生がそう感じることは、子供たちが深い学びを得るためには大事なことです。

そうして悩んだときに、何より大切なのは「何かこのやり方はモヤモヤするんだけれども、これでいいのかな?」と周りに相談することです。

ハイ・テック・ハイでも、プロジェクトを検討する「プロジェクトチューニング」というワークをやっています。「これでいいのかな?」と思ったときに、周りの先生からプロジェクトをより良いものにしていくためのフィードバックをもらったり、自分が想定していなかったような問題点を指摘してもらったりするのです。

国内でもすでに軽井沢風越学園やかえつ有明中・高等学校などで取り入れられていますが、PBLの質を高める上でも、非常に有効なワークだと感じています。

――これから自身が「探究」していきたいことはありますか。

これまでハイ・テック・ハイなど、海外の事例を紹介することが多かったのですが、日本の教育の歴史についても深く学んでいきたいと思っています。

「今後は大正自由教育など、日本の探究学習の歴史をひもといていきたい」と話す

例えば、「大正自由教育」からは、日本の探究学習のルーツを見いだすことができます。実は、ハイ・テック・ハイの実践と大正自由教育の考え方は、重なる部分が多いのです。

つまり、日本では100年も前から探究学習をやっていたわけで、今になって新しい学びが導入されたわけではなかったのです。それが途切れてしまっていたのは、なぜなのか。そうしたことをもっと学んで、みなさんに伝えていきたいと思っています。

自分には「教育」というフィールドが、すごく合っていると感じています。私は計画性がないので、先々のことまで考えないタイプです。そんなこともあって、過去はわりと職を転々としてきたのですが、これからは教育というフィールドで一生やっていきたいと、明確に思っています。

――教育のどういうところが、そう思わせたのでしょうか。

まず、私自身が「学ぶ」ということが好きなんです。この世界に入ってから、仕事がすごく楽しくなりました。もちろん、以前の仕事も楽しかったのですが、どちらかというと「世の中のことを知りたいから関わっていた」という感覚が強かったんです。でも、教育の世界に入ってからは、「学び」について考えること自体が、とことん面白いと感じています。

何より、私が主宰している「Learning Creator’s Lab」で、探究する学びを自ら経験しながら変化していく先生たちの姿を見ることで、その面白さに取りつかれてしまいました。先生が変化すれば、その人たちが関わっている子供たちも、やがて変容していくでしょう。こうしたつながりを感じながら、「学び」を共に考えていけることは、何ものにも代え難い喜びです。

(松井聡美)

【プロフィール】

藤原さと(ふじわら・さと) (一社)こたえのない学校 代表理事。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。コーネル大学大学院修士(公共政策学)。日本政策金融公庫、ソニーなどで海外アライアンス、新規事業立ち上げなどを経験。仕事をしながら子育てをする中で「探究する学び」に出合い、2014年「こたえのない学校」を設立。小学生向けの探究型キャリアプログラムを実施するほか、16年から学校教育に携わる教師と学校外で教育に携わる多様な大人が出会い、チームで探究プロジェクトを実施する「Learning Creator’s Lab」を主宰。18年、経産省「未来の教室」事業の採択を受け、世界屈指のプロジェクト型学習を行う「High Tech High」の教員研修プログラムの日本導入に携わる。著書に『「探究」する学びをつくる』(平凡社)。

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