【教育クリエイター】 想像を超える教育の魅せ方を

教師や教委関係者、教育系YouTuberなどが集結したオンラインイベント「これからのみんなの授業展」、ツイッター上で数学の難問を解きながら参加者同士で交流する「数学夏祭り」――。これら話題のイベントはどれも、教育クリエイターとして活躍する鈴木健太郎氏が企画したものだ。業種を問わず多様な人々を仲間に迎えながら、斬新なイベントを次々に生み出す鈴木氏は、どんな思いを持って教育に携わっているのか。謎に包まれた教育クリエイターの本音に迫る。(全3回の第1回)

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教育クリエイターの定義とは
――鈴木さんは「教育クリエイター」と名乗り、活動されています。教育クリエイターの定義を教えてください。
教育クリエイターの鈴木健太郎氏

「私が教育クリエイターだ!」と偉そうに主張したいわけではなく、教育に携わりたい全ての人が気軽に使える肩書きになればいいなと思いながら名乗っています。

教育に携わる人、教育者と言えば、真っ先に思い付くのは「教師」です。では、教師だけが教育者かと言えば、そんなことありません。例えば、昨今注目を浴びている教育系YouTuber。何万人もの子供たちが彼らの授業動画で学び、学習面だけにとどまらず、日々の悩みを相談するなど交流を深めています。また、塾や予備校の講師も、教育に関わっています。さらには、中高生に宿題を教える先輩や、高校生や大学生の進路相談を受ける志望校のOB・OGなども含め、広い意味で「教育」と言えるのではないでしょうか。

このように年代や職業を問わず、コミュニケーションを通して誰かに肯定的な影響を与えている人は、全て教育者と呼べるように思います。ただ、教育者というと、少しお堅く、敷居の高いイメージを持ってしまいがちです。だから、もっとフラットに「自分は教育に携わっているよ」と言える名称として、「教育クリエイター」という肩書きがあれば、教育を通して子供に関われる人が増えるんじゃないかなと期待して使っています。

チームで、まだ世の中にないものをつくる
――具体的にどんな活動をしているのですか。
「これからのみんなの授業展」や「数学夏祭り」などさまざまな教育イベントを企画する

学校や授業の設計に携わったり、教育系のイベントを企画したりするなど、教育を楽しくできる仕組みづくりをしています。実は私自身、学生時代は教師を目指しており、教員免許も持っています。今は自分のつくるイベントや仕組みを通して、子供や教員、大学教授、YouTuberなど年代も職業もバラバラな人が出会い、寺子屋のように教え合い、学び合うコミュニティーを生み出しています。

例えば、コロナ禍でオンライン授業が一気に広まった昨年5月には、オンライン上で「これからのみんなの授業展」を実施しました。教師をはじめとする学校関係者や教委関係者、教育系YouTuberらがウェブ上で一堂に会し、Zoomを使って双方向の模擬授業や対談を繰り広げるイベントです。児童生徒や保護者も多数参加し、ZoomとYouTubeのライブ配信の総参観数は5000人以上に上りました。

同じくコロナ禍で多くのイベントが中止になったことを受け、昨年8月にはツイッターで完結するイベント「数学夏祭り」を開催しました。ツイッター上に数学の難問を次々と公開して、誰が一番に解答できるか競い合ったり、問題を拡散して一緒に考えたり、解説動画を見て理解を深めたりと、とにかく数学を味わい尽くすイベントでした。イベントのツイッターアカウントは開始数日で1万5000フォロワーにまで達して、小学生から大人まで幅広い年代の方が参加してくれました。告知や解説動画に元予備校講師で、数学・物理分野で日本トップの教育系YouTuberのヨビノリたくみさんや、大阪大学の学生でありYouTuberでもある「積分サークル」の皆さんが協力してくれたことも、大きな反響を呼びました。

――こういったイベントを企画するとき、どうやってアイデアを生み出しているのですか。

コンセプトや内容ありきではなく、人ありきで考えるようにしています。「このメンツだと、どんな面白いことができるだろう」とか「この人たちだからこそできることは何だろう」といった具合にです。その上で、「まだ世の中にないものを生み出す」ことをモットーとしています。つまり、チームだからこそできて、世の中にまったくないものを生み出すことが絶対条件なんです。

先ほど紹介した「これからのみんなの授業展」や「数学夏祭り」も、教師や大学教授、教委関係者、YouTuber、お笑い芸人など多様な人々に協力してもらいました。どのイベントも、私を含め一人ではできない、チームだからこそ実現したものばかりです。

教育の「あったらいいな」を実現させる
――「まだ世の中にないものを生み出す」というと、かなり過酷な作業のように思えます。

そうですね。でも、こういった誰もが初体験のイベントは、多くの人を魅了します。

例えば、「これからのみんなの授業展」は、オンラインで授業についてのイベントをやること自体、当時は珍しいものでした。中でも一番の目玉企画は、神奈川県立川崎北高校の柴田功校長と、教育系YouTuberとして活躍する葉一さんの対談です。公立学校の校長先生とYouTuberが対談するなんて、少し前の教育現場では考えられなかったことではないでしょうか。

柴田校長は政府の有識者会議の委員を務め、以前は神奈川県教委でICT推進担当として、県内の高校のICT化に尽力された方です。これまで公教育の関係者の多くは、YouTubeで授業をすることにどちらかというと懐疑的でした。そんな公教育側の柴田校長と、教育系YouTuberの第一人者である葉一さんが対談して、今の学校教育や子供たちについて対話を深めるなんて、誰も想像できませんでした。

第2回では柴田校長と葉一さん、さらに文科省や経産省、教委の関係者にもオンラインでご登壇いただき、対談しました。誰も見たことがない、史上初めてのキャスティングです。

――SNSでも話題になっていましたね。
教師が「1人ではできない」と葛藤していることを解決したいと話す

別に「バズらせたい」わけではないんです。ただみんなの「あったらいいな」や、「やりたいけど自分1人だとやれないな」ということを実現させたいんです。特に教育業界では、「やりたいけどやれない」ジレンマを抱えている人が多いのではないかと思います。

例えば、教師がYouTuberと対談したいと思っても、教委や管理職、同僚、保護者など周りに理解してもらうことのハードルは高く、言い出すことすら難しいように思います。一方のYouTuber側も、教員と接点を持ちたいと思っても「うちの動画に出ませんか」とはなかなか言えません。そうした状況がある中、私のような「つなぐ役割」が間に入ることで、実現することができます。

一つ一つのアイデアは私がアウトプットしているように見えますが、元をたどれば教育に携わるみんなの「あったらいいな」という隠れた願望を表面化させているだけなんです。

不登校×宿で生まれた「新世界への修学旅行」
――確かに、教育業界では「あったらいいな」という声が、くすぶりやすい構造になっているのかもしれません。

2019年の12月にリリースした、「新世界への修学旅行」というサービスがあります。約20万人と言われる不登校の子供たちに、全国各地の宿泊施設で体験ツアーをしてもらうものです。宿のスタッフにサポートしてもらいながら、子供たちはご飯をつくったり、自然の中で遊んだりします。居場所がなくて苦しんでいる子供たちに、「新しい世界を見に行く修学旅行」として楽しんでもらい、実は居場所は日本中にあるのだと気付いてもらうことを目的としています。

実を言うと、私は教育に携わる傍ら、東京の檜原村でゲストハウスを運営しています。そこでの活動を介して、全国にゲストハウスや宿を運営する仲間ができました。彼らの多くは、学校に行かない子供に対し、「社会はもっと自由だし、行かなくてもいいじゃない」と肯定的に捉えているばかりか、中には「自分たちの宿に泊まりにくればいいのに」と言う人もいます。確かに地方の宿泊施設は土日にお客が集中して、平日は空いていることが多いんです。「人が来なくて寂しいよ」という声をよく聞きます。

一方で、学校に行かない子供自身も悪いことをしているわけではないのに、どこか後ろめたさを感じながら日々を過ごしています。

子供の居場所をつくりたい宿泊施設と、学校や家庭以外の新しい世界を見たいと思っている子供たち。その両者をつなぎ合わせてできたのがこのサービスです。

教育現場にかかわらず、日本の社会自体、それぞれの人は思いやりや優しさを持っています。でも、それを表に出すチャンスがなかなかない。私はそうした表面化されていない優しさに気付き、解きほぐしたり、つないだりしながらイベントや仕組みづくりをしているのだと思います。

(板井海奈)

※新型コロナウイルス拡大防止のため、感染防止対策をとった上で、写真撮影時だけマスクを外しています。

【プロフィール】

鈴木健太郎(すずき・けんたろう) 北里大学理学部卒。デジタルアートなどで世界的に活躍するチームラボに新卒一期で入社したのち独立。独立後は、教育を楽しく出来る仕組みをつくる教育クリエイターとして、日本最大の数学イベント 「ロマンティック数学ナイト」「MATHPOWER」「数学夏祭り」や、不登校生向けの修学旅行プラットフォーム「新世界への修学旅行」、日本最大のオンライン授業展「これからのみんなの授業展」などの立ち上げを行う。世界最大のSTEM教育コミュニティーFIRSTの日本統括ディレクターも務め、現在は公立の小中学校の設計にも携わるなど、多方面で活動中。最近は教育クリエイターフェス「SCHOOL」の事務局長として全体統括を行っている。


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