【教育クリエイター】 巻き込まず、つなぎ合わせる

教員、教委関係者、教育系YouTuber、予備校講師、保護者……。教育クリエイターの鈴木健太郎氏のもとには、教育分野の多種多様なキーパーソンが集う。デジタルコンテンツ制作のパイオニアである「チームラボ」で活躍した鈴木氏は「批判しながら変えようとするよりも、新たな選択肢を提示して、おのおのが自分の意思で選び取る方がスムーズ」と語る。多様な教育関係者をつなぎ合わせるハブ的役割を担う鈴木氏に、教育の現在地について聞いた。(全3回の第2回)

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変えるより、新たな選択肢の提示を
――鈴木さんは、そもそもなぜ教育に携わるようになったのですか。
教育クリエイターの鈴木健太郎氏

もともと学校が好きで、漠然と教師になろうと思っていました。学生時代は教育実習にも行きましたし、教員免許も持っています。ただ、大学院を卒業する時期になって、「一回、企業に就職してみよう」と思ったんです。社会に出て、とにかく成長できそうな環境、面白い人たちと面白いことに挑戦できる環境に身を置きたいと考えました。そこで出会ったのが、チームラボでした。

チームラボが教育と全く関係ないことは、承知の上でした。当時は「本当に自分が教育に携わりたかったら、どんな形であれ、いつかやるだろう。やらなかったとしたら本当にやりたいことではなかったのだ」と考えていました。入社後はとにかくがむしゃらに働こうと決めて、新規事業の立ち上げや、いろいろなプロダクトづくりに関わりました。

7年後に独立して、個人の名前で仕事をするようになりました。その後も、数多くのことを手掛けてきましたが、面白いことに私の提案・企画するイベントは全て教育に関わるものばかりでした。やっぱり教育をやりたいんでしょうね。思えばチームラボ時代も、新卒採用で学生のキャリア相談に乗ったり、社内研修を担当したりと教育に関わってきました。

ありがたいことに、企画するイベントの反響は大きく、このまま仲間が増えて、もっと大きな規模になっていったら、もしかしたら日本全体にいい影響を与えられるのではないかと感じています。特にここ2年ぐらいは、教育系の事業やコミュニティーをつくること以外の仕事はしていません。

――教育をどう変えたいと思っているのでしょうか。

正直、変えたいとは思っていません。学校現場に立たずに教育に携わる人が「日本の教育を変える」といった趣旨で発言されているのをよく耳にします。それを否定するわけではありませんが、私のスタンスは違います。

「変える」と言うと、どうしても現状の否定から入ってしまいます。すると現場から反発を生んでしまい、物事が何も前へ進まないのではないかと思います。実際に教育を巡る状況を見ていても、反発ばかりが目立ってしまい、子供たちのプラスにつながることが難しい状況になっているように見えます。

批判して反発を生むより、新たな選択肢を提示したいと語る

問題を解決するためには、何かを批判しながら変えようとするよりも、新たな選択肢を提示して、おのおのが選び取る方がスムーズなのではないでしょうか。

建設的に議論ができているか
――では、鈴木さんは今の学校教育をどう見ているのでしょうか。

みんな、学校や教育を語るときに論点がめちゃくちゃになっているように思います。

例えば「YouTubeやグーグルで検索したら、何でも分かるから、学校なんていらない」という主張があります。理解できる部分もある半面、学校に行かなければ勉強に取り組まない子がいること、家庭に問題があり、学校が居場所となっている子がいることも事実です。

もしかすると、学びの追究という機能面から見ると、今の学校の形が最善ではないのかもしれません。でも、学校の福祉的な要素を忘れていないでしょうか。既存の学校の福祉的な要素を、オンラインや民間が代替できるかと言えば現実的ではないでしょう。学校は、読み書きや計算など社会に出るまでに最低限必要な能力を獲得することも含め、教育福祉の役割も担っているのです。

そうした福祉面の役割と、学びを探究するなど学習面の機能を混ぜて考えてしまうがために、建設的な議論がなされていないように思えます。

――そのように考えるきっかけがあったのでしょうか。

私が企画したイベントで、特に反響が大きかったものの一つに「ロマンティック数学ナイト」があります。数学が大好きな数学愛好家が集まって、数学好き同士だから分かる数学の面白さや美しさについて語り合うものです。こういったコアなイベントには、「ギフテッド」と呼ばれるような、小中学生ですでに大学数学を研究している子供たちも参加しています。

中学生ですでに大学数学を学んでいた子は、母親と共に私のイベントに参加し、登壇者となってくれました。日常生活で、その子は自分と対等に数学を語れる大人とはなかなか出会えませんが、同じ登壇者の数学研究者や大学教授と数学についてとても楽しそうに語り合う姿が印象的でした。

しかし、そうした子供たちやその保護者の方から、学校になじめないという相談がよく寄せられます。

学校に行っても、授業中に先生に難しい質問をしたり、一人でどんどん先の単元に進んでしまったり、自分を抑えられないようです。

当たり前ですが、どんな学力の子供にも対応できる教師は存在しません。私が出会った世間から天才と呼ばれるような子たちの教育について、現状の公教育が受け皿になれるかというと、それは難しいでしょう。

――では、彼らの教育はどこが担うべきなのでしょうか。

例えば、自身も数学愛好家で、ドワンゴ創業者である川上量生氏は、数学に長けた中高生向けに「数理空間トポス」という無料の教室を運営しています。中学・高校で学ぶ範囲を超えた現代数学に興味を持つ中高生が、数学を自由に楽しく学べる場所です。顧問には東京工業大学理学院数学系の加藤文元教授が就き、チューターとして理数系の大学院生などが参加しています。

これは一例ですが、公教育ができること、できないことを切り分けて考えることが大切なのではないでしょうか。米国のようにギフテッドスクールを国の仕組みとしてつくろうとしても、実現するのに10年以上はかかるでしょう。それでは、今、目の前で困っている子供はどうなるのか。その視点を忘れてはならないように思います。

今、目の前の子供をどう救うか
――確かに、「今、目の前の子供をどう救うか」という視点は大切ですね。

誰でも大きなことは言えますが、具体的にどうするかとなると、誰も解決策は持っていません。

それを思い知ったのが、「これからのみんなの授業展」で、つくば市立みどりの学園義務教育学校の毛利靖校長と対談させていただいたときです。

「コロナ禍の学校現場はどう変わっていくか」というテーマの中で、毛利校長は次のように語られました。

「コロナ禍において『学校は早くオンライン化するべきだ』とか、『1人1台端末を早く実現させるべきだ』とか、みんないろいろ言います。どうぞ好きに言ってもらっていいですが、私たちは今、目の前に子供がいて、明日も授業をし続けます。端末があろうがなかろうが、現場は今、目の前にいる児童生徒にやれることをやるしかない。教員と学校は、今この瞬間にベストを尽くすしかないんです」

その言葉を聞いて、改めて現場の先生方の苦労や覚悟を知り、外から勝手に批判するだけでは何にもならないのだと思い知らされました。

――鈴木さんは、とにかく現場視点を徹底している印象です。

主催イベントに参加してくれる現場の先生と話していると、本当に児童生徒のことを考えている様子が伝わってきます。ただ、個々の実践や目の前の児童生徒に対しては良かったとしても、全体で見たときにうまくいっていない現状があるのも事実です。

そうした現状に対し、誰が悪いのかと犯人捜しをしたり、「既存の教育をひっくり返す」と批判したりしても、分断が生まれる上に、かなりのコストと時間がかかります。それよりも新しい選択肢を分かりやすく提示して、「そっちの方がいいよね」と納得感を持って、自分自身で選び取れる環境をつくる方が、長期的に見て良いと思います。

チームラボの「カタリスト職」にヒントが
――そうやってさまざまな立場の仲間を巻き込んできたんですね。
チームラボ時代の働き方にヒントがあったという

「巻き込む」と言うと、私がグイグイ引っ張っているイメージですよね。でも、決して「巻き込んでいる」のではなく、むしろ「つなぎ合わせている」と言った方が近いように思います。

現在、私は個人の活動と並行してチームラボの教育系のプロジェクトにも関わり、「カタリスト」という職種に就いています。これはチームラボ独自の職種で、「触媒」という意味です。情報化社会が進展し、モノづくりや組織は複雑になっていて、一人の人間が全てのプロジェクトで指示や管理をするのが難しくなっています。カタリストはプロジェクトごとに一人一人のスキルを見極め、化学反応が起こるメンバーを編成し、より良いアウトプットを生み出せるようなチームをつくる役割です。

例えば、チームラボで言えば、エンジニアでもスマートフォンのエンジニア、3DCGのエンジニア、音響のエンジニアなど多様な人材がいます。そうした状況では、一人が全てのプロジェクトで指示を出すのが最善のように思われますが、決してそうと限らないのです。

今の学校教育の構造も同じだと思います。教育は全て学校で行われているわけではないし、教育に携わっているのは教師だけではありません。一口に教師と言っても、校長、教頭、主任など役割はそれぞれあります。学校に通う子供たちも、学力や個性、家庭の経済状況などは実に多様です。

そんな複雑な状況がある中で、自分のやり方を貫いて周りを巻き込んでも、全員の合意を得るのは無理です。それよりもみんなの「やりたいこと」をつなぎ合わせて、化学反応が起きるような方向性を提示できれば、あとはそれぞれのスペシャリストが自由に動いて、成果を生み出してくれるように思います。

(板井海奈)

※新型コロナウイルス拡大防止のため、感染防止対策をとった上で、写真撮影時だけマスクを外しています。

【プロフィール】

鈴木健太郎(すずき・けんたろう) 北里大学理学部卒。デジタルアートなどで世界的に活躍するチームラボに新卒一期で入社したのち独立。独立後は、教育を楽しく出来る仕組みをつくる教育クリエイターとして、日本最大の数学イベント 「ロマンティック数学ナイト」「MATHPOWER」「数学夏祭り」や、不登校生向けの修学旅行プラットフォーム「新世界への修学旅行」、日本最大のオンライン授業展「これからのみんなの授業展」などの立ち上げを行う。世界最大のSTEM教育コミュニティーFIRSTの日本統括ディレクターも務め、現在は公立の小中学校の設計にも携わるなど、多方面で活動中。最近は教育クリエイターフェス「SCHOOL」の事務局長として全体統括を行っている。


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