【教育クリエイター】 創造性が生まれる学校のつくり方

「これからのみんなの授業展」をはじめ、数々の教育イベントをプロデュースする教育クリエイターの鈴木健太郎氏。新卒でデジタルテクノロジーを開発する「チームラボ」に入社し、数年後に独立するなど、ユニークな経歴を持つ。そんな鈴木氏はこれからの教育について、「共に創造する『共創(きょうそう)』」がキーワードとなると指摘する。さまざまな教育関係者とタッグを組みチャレンジし続ける鈴木氏に、これからの教育や学校の可能性を聞いた。(全3回の最終回)

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求められる「共創(きょうそう)」教育
――鈴木さんの考える未来の教育とは、どのようなものでしょうか。
教育クリエイターの鈴木健太郎氏

これから世界規模で、ますます「教育」がトレンドになると思います。というのも、インターネットが発達し尽くし、今はAIやロボットがどんどん発達しています。すでにAIが考えて、ロボットが作業する時代に差し掛かっています。それがもっと加速して当たり前の現実になったとき、「人間が何をするのか」は、全世界で同時に生まれる課題です。中国でも、シリコンバレーでも、サウジアラビアでも、日本でも、30~50年後の社会の在り方を考えたときに、最も分からないことの一つが教育なんです。

そうした状況で注目されているのが、創造性やオリジナリティーを育むことです。日本でもSTEAM教育やリベラルアーツなどが広がりつつありますが、これからはますますクリエーティブ面での教育が重要視されていくように思います。

――創造性を育む教育とは、具体的にどんなものなのでしょうか。

共に創造する「共創」がキーワードになると思います。これはチームラボが編み出した言葉で、メンバーが最も大切にしていることです。ただスペシャリストがいるだけでなく、それらスペシャリストたちが共に創ることができるから、新しいものを生み出せるという考え方です。

創造性を育むのは、新しいものに出合い、新しい情報を取り入れることから始まります。次にいろいろな人と対話し、インプットとアウトプットを繰り返すことで、「自分とこの人はここが違う」と、他人との違いを把握します。その違いこそが探究のタネで、創造性やオリジナリティーに変化していくのです。

新しいものに出合い、いろいろな人と話して違いを知り、自己を認識する。自分のことを知らないと、創造はできません。まず個人のオリジナリティーを出し、その後にチームで思考し、個人では出せないオリジナリティーを磨いていきます。

30年後には、今ある多くの仕事はなくなっていると言われています。人間がAIやロボットと大きく違う点は、他者と共に創造的な活動をして、世界をつくってきたところです。「共創」の体験こそが、今の子供たちに必要なのだと思います。

テクノロジーで開かれた学校に
――それを学校に落とし込むとしたら、どんなものになるでしょうか。
テクノロジーを活用して、子供たちの出会いを増やす学校設計を構想する

今、空間づくりとしての学校を仲間と共に研究しています。私は、人間はもともと能力には大した差はなくて、身を置く環境によって大きく変わると考えています。学校という空間が変わると、いろいろな可能性が見えてくると思います。

理想は、さまざま人や情報が行き来する学校です。都会、地方問わず、全ての子供が十分に多様な人や情報に触れ合える環境を整えなければいけません。現状は地方、特に過疎地域の子供が触れる人間や情報に限りがあります。

こういった課題の解決策として、「地域に開けた学校づくりをする」「移住者を増やす」などといった方策が上がります。私は別の視点から、デジタルテクノロジーを学校に取り入れることが効果的ではないかと考えます。

図書室は公共図書館に、家庭科室はキッチンスタジオに、美術室はアトリエに……。子供たちが学ぶだけの場所だった学校の中に、大人が楽しめる空間を取り入れます。そして、誰でもスマホのアプリで施設予約できたり、スマホをかざすと鍵を開けられたりするなど、テクノロジーを活用して手軽に使えるようにし、セキュリティーを担保した上で、学校自体を人が集まる場所にします。大人たちは町内会の催しを学校で開くなどして、地域と学校の接点を生み出せます。

学校をコミュニティーの核に
――そうなれば、子供たちは学校にいるだけでいろいろな人と出会うことになりますね。

これまでの学校では触れる機会のなかった、大人たちの日常的な営みや地域の活動との接点をつくることで、子供たちは数多くの「出会い」を体験できます。

さらにネット上で学校の施設などを予約する仕組みが整えば、イベント情報を集約できます。町中にデジタルサイネージを置いて、それらの情報を発信すれば、「地域の情報が集まる場所」として、学校の捉え方自体が変わるように思います。

子供が人生を歩む上で、何十万人もの人との出会いが必要かと言えば、そうではありません。人口1万人以下の小さな地域だとしても、その中には興味深い職業の人や外国人など多様な人がいます。子供にとって一番身近な場所である学校が町のコミュニティーの核となれば、それこそ渋谷や新宿に負けないぐらいの出会いを生み出せるのではないでしょうか。

教育や学校を通した町づくりと子供が学ぶ環境の整備は、両輪で考えられるように思います。

「メール禁止」の学校
――その他には、どんなアイデアがありますか。
共に創造する「共創」が求められる時代が来ていると話す

「共創」するために、学校空間に必要なものをチェックリストにまとめる作業も進めています。

多様な出会いを生めて、情報の共有がしやすい空間をつくるためのノウハウを蓄積しているんです。「固定された座席は禁止」「休憩スペースをつくる」など、現時点で210項目ぐらいたまっています。

例えば、何かを共に創るためには、情報共有がしやすい空間づくりが大切です。具体的には壁を透明にし、チームで話し合う席にはディスプレーとモニターを置き、あえて外から見たときに何をしているか分かる環境を用意します。

物理的な空間だけでなく、オンライン上の空間も大切です。学校と社会をつなげるとき、多くの人がオフラインの在り方を見直しますが、デジタル空間をシームレスにすると、さらに多様な人との出会いを生み出せます。例えば、チャットツールのSlackを導入し、Slackにいろいろな人をゲストに迎え、外部とのコミュニケーションを生む手法があります。

コミュニケーションにおいてメールは禁止です。これにもちゃんとロジックがあって、送信先を特定の人に指定できるメールだと、偶発的な出会いが生まれません。公開されているチャット上で共有することで、そのアイデアが多様な人の目に触れ、新たな考えが生み出されます。

こういうノウハウをどんどん蓄積してアップグレードし、実際の学校現場で取り入れられたり、参考にできたりするものにまとめたいと考えています。

――最後に、学校関係者へのメッセージを。

大変なことはいろいろとあると思いますが、とにかく考えるべきことは「目の前の子供にとって良いことは何なのか」だと思います。「校長が」「保護者が」「教委が」と周りはとやかく言うかもしれませんが、子供の未来にとって良いと思う選択をし続ければ、それが全部正解になっていくように思います。

「日本の教育は」「学校は」と評論する人が多いですが、「日本の教育とはどれ?」「学校とは、どこの学校のこと?」と疑問を感じます。そんな声は気にせずに、現場の先生はとにかく目の前の子供にとってより良い選択をし続けてほしいですね。私自身は、そんな先生の助けになるような、新たな選択肢を提供し続けたいと思います。

(板井海奈)

※新型コロナウイルス拡大防止のため、感染防止対策をとった上で、写真撮影時だけマスクを外しています。

【プロフィール】

鈴木健太郎(すずき・けんたろう) 北里大学理学部卒。デジタルアートなどで世界的に活躍するチームラボに新卒一期で入社したのち独立。独立後は、教育を楽しく出来る仕組みをつくる教育クリエイターとして、日本最大の数学イベント 「ロマンティック数学ナイト」「MATHPOWER」「数学夏祭り」や、不登校生向けの修学旅行プラットフォーム「新世界への修学旅行」、日本最大のオンライン授業展「これからのみんなの授業展」などの立ち上げを行う。世界最大のSTEM教育コミュニティーFIRSTの日本統括ディレクターも務め、現在は公立の小中学校の設計にも携わるなど、多方面で活動中。最近は教育クリエイターフェス「SCHOOL」の事務局長として全体統括を行っている。


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