【工藤校長×仁禮代表】 子供を当事者にするためには

「未来の社会をつくるのは教育であり、その教育を描くのは一人一人の教師だ」――。教育新聞では2月7日、横浜創英中学・高校の工藤勇一校長と、小中高生に起業家プログラムを提供する民間企業TimeLeapの仁禮(にれい)彩香代表をゲストに迎え、読者限定のオンライン対談を開催した。テーマは、「与える教育からの脱却~社会の当事者を育む~」。子供を当事者にするためには、大人を含めた社会全体が当事者意識を取り戻すことが不可欠と強調する両者。そのために、教師には何ができるのだろうか。二人の対話を基に、ヒントを読み解く。全3回の第1回。

(司会・教育新聞記者 板井海奈)

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子供たちに実践を経て学べる環境を
――仁禮さんは今回、初めての対談イベントの登壇です。読者に自己紹介をお願いします。

仁禮代表

仁禮 はじめまして、仁禮彩香と申します。私は今、TimeLeapという企業の代表として、民間サービスから自分の人生を切り拓ける子供の育成に取り組んでいます。現在の活動はオンラインがメインで、起業家教育プログラムを小中高生たちに提供しています。

起業家プログラムというと、起業家の輩出を狙いとしているように思われがちですが、そうではありません。起業家的な経験を通して自己認識を深め、自分の人生を自ら切り拓いていける人を輩出することが一番の狙いです。

そもそも学生である私が、なぜこのような活動に携わっているかというと、小学生時代に教育に対して抱いた違和感が原体験になっています。

小学校入学以前、私は湘南インターナショナルスクールという幼稚園に通っていました。そこは、大人も子供も自分たちで考え、行動することが当たり前とされている環境でした。自分たちで問題解決をして、異なる考えを持った人たちが共に生きていく方法を考え続けることを、何より大切にしていたのです。先生から「あなたはどうしたい?」「どうしてそう考えたの?」と、常に問い掛けられていましたし、子供同士も自然とそう質問し合っていました。

でも、卒園して地元の公立小学校に入学してみると、それまでと全く逆の状況に直面しました。先生から「これをやりなさい」「この問題を解きなさい」と指示通りのことをするよう求められ、教科書やテストの空欄を埋め続けるだけの学びが始まったのです。次第に、自分の考えを話して対話する機会は減り、「これはAですか? Bですか?」「Aです」といった型にはまったコミュニケーションを取るようになっていきました。

同世代の人が一緒に学ぶ学校という場所で、こんなにも違いがあるのかと驚くとともに、「その教育スタイルは私に向いていない」と窮屈に感じました。そこでインターナショナルスクールの園長先生に「小学校をつくってほしい」とお願いしたところ、本当につくってくださり、小学2年生からはそこに通い始めました。

中学生時代は日本の教育についてもっと知りたいと考え、あえて日本の中学校に進学しました。そこで改めて日本の学校教育と向き合ってみて、「私の感じる疑問を解決して、教育の形をもっと良くしたい」と考え、中学2年生で起業して教育系のビジネスに取り組み始めました。起業家として事業を手掛けるプロセスを通じ、学校での学びが生かされたり、逆に「もっとここを工夫したほうがいい」と課題点を改めて整理できたりして、さらに学校について広く深く見られるようになりました。また、自分自身がどんな個性や才能を持っていて、それをどう活用すれば世の中に寄与できるのかという体感がつかめたように思います。

このように小学生時代から、周囲の大人のサポートもあり、自分の行動で周りの世界を変えられる成功体験をさせていただけました。大学進学後は、私のように子供たち自身が実践を通じて学べる教育機会を、心理的安全性を担保した上で提供したいと考え、TimeLeapを立ち上げました。

「与える教育」は学びの順番で変わる
――ありがとうございます。工藤校長は仁禮さんと面識がおありだと聞きました。

工藤校長

工藤 本日参加してくださっている方の多くが、おそらく私のことをご存じだと思うので、自己紹介は割愛して仁禮さんとの出会いについてお話ししたいと思います。初めてお会いしたのは、2年ほど前に私が委員を務める経産省の「未来の教室」のワークショップです。

そのワークショップは、中高生や大学生、民間も含めた教育関係者が100人ほど集い、未来の教育や学校の姿についてディスカッションをするものでした。そのとき同じテーブルだったのが、仁禮さんでした。このワークショップには、私と共に当時校長を務めていた千代田区立麹町中学校の生徒も参加していました。仁禮さんと対話した生徒の一人に話を聞いたところ、「人生を変えるくらい大きな出来事になった」と振り返っていたことを、今でも覚えています。

仁禮さんの運営するTimeLeapには、麹町中の生徒も何人か通っています。そのご縁で、彼らが考えたビジネスプランを発表する最終プレゼンの確か審査員のようなご依頼をいただきましたが、そのときは仕事の都合で残念ながら参加できませんでした。

その時の借りをお返しできる意味でも、本日は仁禮さんと対話できるのを楽しみにしています。

――ありがとうございます。それでは早速、本日最初のテーマです。イベントタイトルにもある「与える教育」について、お二人はどのようなものをイメージされますか。

仁禮 私は、児童生徒が本人で決める、納得するというプロセスを経ていない状態の教育を「与える教育」と呼ぶように思います。

つまり、学びの順番の問題なのではないでしょうか。例えば、私が仕事をするとき、投資家向けに資金調達のための資料を作りたいと思ったとします。まず「資料はどう作るのだろう」とKeynoteの機能を学んだり、数字を見るために数学を勉強したり、収支計画の立て方を学んだりします。このように社会では、最初に自分の目的があり、それを果たすための手段として学びを自己決定していきます。

大人から「これをやりなさい」と指示されるような、子供たちの意思がない環境での学びでは、他人事になってしまいます。

自分で決めたことをやり遂げられれば、それは小さな成功体験になり、自分に自信を持ち、自主的に学習に向き合うきっかけになります。そうした経験ができれば、「与える教育」からの脱却が始まるように思います。

子供も大人も自分で考える習慣を失った

工藤 私が講演でよく使っている資料をお見せします。この調査結果は、日本の教育の課題を浮き彫りにしているものです。

日本財団の18歳意識調査(第20回「国や社会に対する意識調査」)より

日本財団が世界9カ国(日本、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、英国、米国、ドイツ)の17~19歳、それぞれ1000人が、「自分を大人だと思う」「自分は責任ある社会の一員だと思う」「将来の夢を持っている」「自分で国や社会を変えられると思う」「自分の国に解決したい社会課題がある」「それを周りの人と積極的に議論している」など、9つの設問に回答した結果です(図を参照)。

どれを見ても、日本が突出して低い数値になっています。日本では高校3年生になっても、自分が責任ある社会の一員だと思えていない。特に「自分で国や社会を変えられると思う」と回答した割合は18.3%と、致命的です。「変えられる」と思っている若者は、5人に1人もいないのです。この結果は日本の高校3年生の姿を象徴しているだけでなく、日本の大人たちの姿も象徴しているように思えてなりません。

日本は大人も子供も総じて、「自分が国を変える一人である」という当事者意識が、あまりにも低い。主たる原因は、自分で物事を考える習慣をなくしているからです。厳しい社会の中で集団に順応して、礼儀正しく、協調性を持ち、黙々と忍耐強く作業する――。そんな教育が、かつての日本の学校の中心に据えられてきた結果でしょう。

一斉教授型でも「自律」は育める

工藤 では、そうした課題を解決するために、教員は児童生徒とどう接すればいいでしょうか。先ほどの仁禮さんの話に散りばめられていましたが、一方的に「こうしなさい」とか「こうするべきだ」と言わないことです。例えば、今の学校現場は「今は先生の話を聞く時間です」「手はお膝の上。姿勢は正しく、机の上の右側に筆箱を置いて」「鉛筆は5本で、シャープペンシルは禁止」などと、子供の何から何までを決めています。今、日本中の学校で大切にされているのは、「決められたことを守る子供たちを育む」という、かつての教育の残像です。

子供たちに自由を与えて、自律を促していくことは、とても難しく大変な作業です。麹町中に入学してくる生徒は、私学の受験に失敗して劣等感を持っていたり、大人から「あれをしなさい」「これをしなさい」と指示されることに慣れてしまっていたりと、自分で考えることを忘れてしまった子が大半でした。

私の話を聞いたことがある方はご存じかもしれませんが、彼らに主体性をもう一度取り戻させるために、麹町中の教員はありとあらゆる場所で、3つのせりふを言い続けてきました。「何か困ったことがあるの?」「どうしたいの?」「私が何か手伝うことはある?」です。この3つの問いに回答することで、子供たちは自己決定せざるを得なくなります。もちろん、最初から答えられる生徒は少ないですが、繰り返して習慣化することで、確実に主体性は戻ってきます。

この3つのセリフを使うシーンは、学校生活のあらゆる場面にあります。既存の一斉教授型の授業でも、子供が自己決定をする機会を通じて、その主体性を育んでいくことはできます。障害の有無に関係なく、どんな子供にも自分で思考させ、自己決定させていく。これを繰り返し、子供たち自身が自力で人生を歩んでいけるようにしていかなければなりません。

【プロフィール】

工藤勇一(くどう・ゆういち) 横浜創英中学・高等学校校長。山形県の公立中学校で教壇に立った後、退職し、改めて東京都の公立中学校に数学科教諭として赴任。自身の経験から「無意味なことを強制する理不尽な教師ではだめだ」という理念のもと、荒れた学校で型にはまらない授業を実践。教育委員会に赴任した際には「子供たちのためになる」を第一に掲げ、前代未聞の改革チームを率いた。前任校の東京都千代田区立麹町中学校では「麹中メソッド」「オープンイノベーション」など、公立らしからぬ公立学校として注目を集めた。著書『学校の「当たり前」をやめた。 ―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)がAmazonにてベストセラー。2020年4月より現任校の校長に就任した。

仁禮彩香(にれい・あやか) 1997年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。 中学2年生の時に㈱GLOPATHを設立。学校コンサル、研修開発、CSR支援など展開。高校1年生の時に自身の母校である湘南インターナショナルスクールを買収し経営を開始。
2016年に㈱Hand-C(現TimeLeap)を設立。同年 ハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出。Hand-Cでは企業向け研修や、小中高生向け人材育成プログラムなど、「自らの人生を切り拓く力」を育むさまざまなプログラム開発・運営を行う。

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