【工藤校長×仁禮代表】 変化の意識を持つ者こそが教員

「どんな学校も、世界の一部であるという視点を忘れてはならない」と話す横浜創英中学・高等学校の工藤勇一校長(前東京都千代田区立麹町中学校長)と、「子供が当事者になって初めて学校が成り立つ」と指摘するTimeLeapの仁禮(にれい)彩香代表によるオンライン対談。「教育が変わる」「社会が変わる」と叫ばれる現代、教員として何ができるのか――。全3回の最終回。

(司会・教育新聞記者 板井海奈)

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本質を見つめる目を持つ
――仁禮代表から何か質問はありますか。

仁禮 工藤先生のもとには、日本の教育を良くしたいという若者が集まってくると思います。「そのために、どこから着手すればいいのですか?」と質問されたときに、どのように答えますか。実は私がよくそのような質問を受けるので、工藤先生ならどう答えるのかお聞きしたいです。

工藤校長

工藤 一言で答えるのは難しいですね。まず私たち教員が、本質を見つめる目を持つことが大切なのではないかと思います。

例えば、宿題。麹町中では宿題を廃止しました。それについて講演会などで触れると、教員の方々から「宿題を出さないと、勉強しない子供が出てくるのではないか」とよく聞かれます。そんな時は、「勉強することが目的ですか?」「どういう子供を育てたいのですか?」と、逆に質問します。また、別の角度から「宿題を出さないと、子供は学ぶ機会を失うのではないですか?」と指摘されることもあります。その場合も、「それのどこに問題を感じるのですか?」と問い掛けます。

このように、常に自分の頭で考えて、物事の本質を見つめる習慣を付けてほしいですね。私たちは、言われたことをやり続ける習慣が染み付いてしまっています。そうした大人が、子供たちに「自分で物事を考えよう」と伝えられるわけがありませんから。

大阪市立大空小学校の初代校長・木村泰子さんは、幼児教育で主体性を失った子供たちが、それを取り戻すリハビリに1カ月かかるとおっしゃっています。麹町中時代の実践を振り返ると、個人差はありますが、約1年を要します。自律を失って物事を考えられなくなった人間が自律型に変わるためには、とても時間がかかりますが、何度も繰り返していくうちに変容していきます。

そして、変容のスピードは教員よりも子供の方が圧倒的に早いんです。大人になればなるほど、自分の成功体験や経験をそぎ落とすのは、難しくなってしまいます。

ただ、変容できる子供をどんどん育んで、次世代の彼らが教育に携わってくれる未来が来れば、世の中が大きく変わっていくだろうなと期待しています。

「誰かを責めるな、仕組みを責めろ」
――物事の本質を見つめるために、どんなことに気を付けていますか。

工藤 自分も他人も責めない、自責・他責をしないということですね。何か問題が起こったとしても、まずありのままの状態を受け入れます。人間に責任の所在を置くのではなく、ただ解決の方法を考えるのです。

これは組織運営上でも、とても重要です。例えば、教員だってミスをすることはあります。私がその時大切にしているのは、ミスをした人を責めないこと。職員室でも、「誰かを責めるな、仕組みを責めろ」とよく言っています。ミスをしやすい環境があったというありのままを受け入れ、自責も他責もせず、どうすればミスをしにくい仕組みをつくれるのかを考えるのです。麹町中では、生徒はもちろん教員や保護者も、それぞれが当事者として種々の課題と向き合ってきました。その過程で、どんどん変わっていったのです。

確かに、最初はとても大変です。良いモデルをよく見て、目の前の課題の本質を見つめ、自分自身が当事者として考える。その繰り返ししかありませんが、変われる術はあるのです。

仁禮 子供たちに自身で考えるよう促すことは、私たちのスクールでも大切にしています。「どうして問題が起きたのか」「どうやったら解決できるか」などと大人が質問することで、子供たちは自身でその原因や解決方法を導き出せるようになっていきます。

こうした実践をするにあたっては、子供にアプローチするより、ファシリテーションする大人側を育成する方が大変でした。大人は、どうしても答えを言ってしまいたくなるんです。麹町中でもまず子供が変わり、それを受けて先生が変わってきたとの話がありましたが、大人同士でも促し合えるのではないかと思いました。

本日の参加者の皆さんは、現状の学校教育に問題意識を持っている方が多いのではないでしょうか。課題に気付いている人が、気付いていない層に影響を与えていってほしいと思います。その例として、工藤先生の実践や今の麹町中の姿があるのだと感じます。

教育機関をより良くするためには、良いプログラムを作ってそれを導入するといった単純なことではなく、子供と接する大人がいかに変わっていけるのかに尽きるのかもしれません。

当事者として子供がつくる学校
――工藤校長から仁禮代表に、何かありますか。

工藤 仁禮さんはさまざまな媒体で、これから新しい学校をつくりたいとおっしゃっていて、期待することばかりです。

どんな学校であっても、目指すものは同じだと思います。公立も、私立も、特別支援学校も、世界の一部であるという視点は、これからの時代、絶対に押さえておかなければいけないでしょう。仁禮さんにはそのことを踏まえて学校をつくってほしいし、次に学校をつくりたいと思う若者が挑戦しやすくなるようにしてくれれば、うれしく思います。

仁禮さんが今考えていることや、挑戦しようとしていることを改めて教えていただけますか。

仁禮代表

仁禮 2023年までに、学校をつくりたいと思っています。その際に必ず実現したいのは、子供たちがつくる学校であることです。学校は子供たちが学ぶ場所であり、子供たちが当事者であるべき場所です。彼らと一緒につくってこそ、初めて「学校」として成り立つのだと思っています。

私たちの次の世代がどんなことを感じていて、何を求めているのか。さらに上位目標として、社会の中で彼らと一緒に、どのようにすれば持続可能な社会をつくっていけるのかという問いに向かって、プロセスを踏んでいきたいです。例えば、子供たちが授業で学んだことや作ったものを新たな価値として、社会にアウトプットできる仕組みもつくりたいと思っています。

正直、私たちがつくる学校が、全ての子供のためになるとは思っていません。これからの教育はどんどん多様化していって、それぞれの学校が「私たちはこういうスタンス」「こんな子供をサポートできる」と明確に示し、子供たちが自分に合った学校を選ぶ。その上で、大人と子供が共に学校をつくっていく形が理想ではないでしょうか。全員に同一の教育を提供しようという考え方は、捨てるべきなのかもしれません。

私たちがつくろうとしている学校は、体感・実感ベースのカリキュラムになっていて、行動力や主体性を育むことに重きを置いています。アウトプットや社会接続の機会が多くなるので、家族のサポートが不可欠です。そのため、参加できる子とできない子はどうしても出てしまいます。それでも、スタンスを明確にすることで、子供やその保護者が、「この学校の子供、保護者として、どうやって学校に参加しよう」と、一緒に学びをつくっていけるようにしたいと考えています。

学校が変われば、社会が変わる
――最後に工藤校長、今後の展望などをお願いします。

工藤 横浜創英は私立ですので、どちらかと言えばフットワークが軽く、公立に比べればスピード感を持って変えていける部分があります。赴任してからもうすぐ1年がたちますが、教員たちとのコミュニケーションは深まってきていて、理念は共有化されつつあると実感しています。

今後は目的の部分を全員で合意していきます。一人一人の教員がその目的に向かっていくためには、今までの経験則や成功体験をそぎ落としながら、自分を変える作業が必要です。もちろん、それを無理強いすることなく、変わっていく子供たちに刺激されながら、教師も変化をしていく姿を見守りたいと思っています。

そうした学校づくりを通じ、その他の私立学校や、ゆくゆくは公立学校のモデルになれるような仕組みをつくりたいと考えています。

公立の場合、お金や人材などを自分たちで確保するための権限がありません。麹町中では教職員の公募制度を活用しましたが、それでも権限は学校になく、予算も議会を通さないと得られませんでした。学校の責任と権限が一致する仕組みづくりについては、委員を務めている教育再生実行会議でも指摘するなど、構造そのものの規制緩和についても、国に働き掛け続けていきます。

自律した子供を育てるためには、自律した学校、自律した行政をつくらなければなりません。予算についても、上から用途を細かく指示されてあてがわれるようでは、組織は自律できません。

さらに言えば、そういった国の制度を変えていける人材を育てるのが学校現場です。日本中の学校関係者が意識を変えて、子供たちを自律型に変えていくことによって、これからの社会が変わっていきます。長い歳月を要しますし、もしかすると私が生きているうちにゴールには到達できないかもしれません。それでも、変えていく意識を持ち続ける者こそが、教員でなければならないと思います。ぜひ、皆さんにもそういった人をどんどん増やしてほしいですし、私自身も増やしていきます。

【プロフィール】

工藤勇一(くどう・ゆういち) 横浜創英中学・高等学校校長。山形県の公立中学校で教壇に立った後、退職し、改めて東京都の公立中学校に数学科教諭として赴任。自身の経験から「無意味なことを強制する理不尽な教師ではだめだ」という理念のもと、荒れた学校で型にはまらない授業を実践。教育委員会に赴任した際には「子供たちのためになる」を第一に掲げ、前代未聞の改革チームを率いた。前任校の東京都千代田区立麹町中学校では「麹中メソッド」「オープンイノベーション」など、公立らしからぬ公立学校として注目を集めた。著書『学校の「当たり前」をやめた。 ―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)がAmazonにてベストセラー。2020年4月より現任校の校長に就任した。

仁禮彩香(にれい・あやか) 1997年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。 中学2年生の時に㈱GLOPATHを設立。学校コンサル、研修開発、CSR支援など展開。高校1年生の時に自身の母校である湘南インターナショナルスクールを買収し経営を開始。2016年に㈱Hand-C(現TimeLeap)を設立。同年 ハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出。Hand-Cでは企業向け研修や、小中高生向け人材育成プログラムなど、「自らの人生を切り拓く力」を育むさまざまなプログラム開発・運営を行う。

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