【公立校が挑むGIGAスクール】校内に反対派をつくらない

いよいよ新年度から、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末の活用が本格的にスタートする。昨年4月の休校時にオンライン授業を行うなど、公立校ながらICTの推進にいち早く取り組んできた福岡市立福岡西陵高校の吉本悟教諭は、「反対派をつくらず、みんなの意見を拾いながら進めていくこと」が鍵になると話す。同校に着任してから3年間のICT推進の経緯と、コロナ禍に行ったオンライン授業の可能性について聞いた。(全3回の第1回)

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校内にICT「反対派」をつくらない
――コロナ禍の一斉休校中、公立校ながら昨年4月13日からいち早くオンライン授業を始めたことが話題となりました。福岡西陵高校には3年前に着任されたそうですが、どのように校内のICTを推進していったのですか。
教員がICTに慣れるための学習会から始めていった

期待されているような答えではないと思うのですが……、まずは嫌われないようにすることから始めました。

私はもともと中学校教諭で、本校には人事交流として配属されました。3年前、市立高校にICTを少しずつ取り入れていこうという動きがあり、ちょうど前任校の福岡教育大学附属福岡中学校でICT活用に取り組んでいた私が、市立高校に配属されることになったんです。

高校の先生からしたら、中学校教諭の私はどこの誰だか知れない者です。そういう外から来た人間が、急にあれこれ指示しても、うまくいかないのは目に見えていました。

ICTを推進する立場の教員が嫌われると、それが原因でICT自体を嫌いになる教員も出てきてしまうので、それだけは絶対に避けたいと思っていました。

今までのやり方を変えるとなると、「やりたくないな」「面倒だな」という気持ちになる人が一定数いるのは当たり前です。しかし、その気持ちを大っぴらに声に出してしまうと、その先生は「反対派」として、ずっと反対し続けなければいけない立場になってしまいます。

ICTはいずれ全員が使わなければいけなくなることが分かっていたので、「反対派」の先生をつくってはいけないと思いました。「反対派」ではなく、「慎重派」という立場でいられるような環境づくりを心掛けました。

自由参加のICT学習会からスタート
――校内のICT環境は着任当時から整っていたのですか。

配属された2018年度当初は、教員分のiPadが配布されたばかりで、生徒用の端末はなく、Wi-Fiも職員室にしか飛んでいなかったので、授業で使おうにもなかなか難しい状況がありました。

ただ、iPadを「使ってみたい」と思っている先生はいたので、自由参加の学習会をやっていました。なるべく多くの先生が参加できるように、主に考査期間中やその前後に開催していました。

内容も、画面収録をしたり、Keynoteで似顔絵を描いたり、Pagesでデジタルブックを作ったり、まずはICTに慣れていくために、無理のない使い方から進めていきました。

――授業でICTを活用しやすい環境になったのは、いつごろからですか。

18年度内に、生徒用のiPadが8台導入されました。本校の生徒数は約900人なので、全く足りなかったのですが、どうにか授業での活用を広げようと、私も率先して使っていました。そうした様子を見て、他の先生方も「スピーチを録画しよう」「プレゼンをさせたいから使ってみよう」などと、徐々に広がっていきました。

19年度からは京都大学と九州大学との学習ログに関する共同研究の指定校になった関係で、追加で80台の端末を入れてもらうことができました。合わせて、各教室にもWi-Fiが完備されたので、かなり活用しやすくなりました。

また、その頃からZoomも使っていました。各教室をZoomでつないで学年集会や講演会を開催したり、オーストラリアのセカンダリースクールとの交流会に活用したりしていました。

そして、20年度の初めにさらに160台増えて……というところで、コロナ禍による休校に突入しました。

オンラインはここまでできる!
――4月に入って休校が延長されてから、すぐにオンライン授業が始められたのは、それまでの積み重ねがあったからなんですね。

昨年4月に着任した和田美千代校長は、本校の環境に驚いたそうです。「教室にWi-Fiが飛んでいて、iPadもこんなに台数があり、コロナ禍以前からZoomを使っている。こんなに恵まれた環境があるんだから、休校中はオンライン授業をやろう」となり、着任2日目には市教委に交渉するなど、迅速に動き出してくださったことも大きかったですね。

Zoomでオンライン授業をやるとなってからの先生方の進化は、目を見張るものがありました。学習用動画を独自に作る先生も何人かいて、必要に応じてワイプを入れるなど、そのクオリティーも日に日に上がっていく。「こんなことできないですかね?」と、積極的に相談しに来てくれる先生が増えました。

50人以上の教員が夏休みを利用してAppleTeacher資格を取得した

また、福岡市では市立高校も、小中のGIGAスクール構想に準じる形で、端末の整備を進めてくれました。夏休み前にはそのことが通達され、今年度中にいよいよ1人1台になることが分かったので、校長に「Apple Teacher資格を取得するための研修をしたい」と相談したんです。

そうしたら、校長自ら「私も取るわ!」と率先して取り組んでもらえました。そうしたこともあって、結局50人以上の教員が夏休み期間を利用してApple Teacher資格を取得しました。

――休校中、オンライン授業になって、何か困ったことはありましたか。

私は全くありませんでした。教科学習や探究的な学び、二者面談や進路説明会など、逆に「オンラインでこれだけできてしまう」ことが分かりました。

一方、生徒はどうだったかというと、コロナ禍のオンライン授業についてのアンケートでは、「家では集中できなかった」という子もいれば、「オンラインの方が集中できた」という子もいました。

「教室の方がすぐに先生に質問できる」「いつもは質問できないけれど、オンラインならチャットで気軽に質問できた」「画面だと見にくいし疲れる」「画面をスクショして何度も見られた」「話し合うのはブレイクアウトルームで十分」「ブレイクアウトルームは教室よりも発言しなければいけない圧が強くて耐えられない」など、それぞれの質問項目で正反対の回答が見られました。

コロナ禍の影響で、生徒たちはこれまでと違う学び方を経験し、その後の授業の形も変わりつつあります。だからこそ今後は公立校においても、生徒たちが「選べる」状況をつくっていかないと駄目な時代になっていくのだろうと強く感じました。

ICTの技術を身に付けるよりも調整力が必要
――各校でICT担当になっている先生に、アドバイスはありますか。
教員が反目しあわないように進めていくことを大事にしている

ICT担当は、皆さんの声をあまねく拾いながら擦り合わせをし、先生たちが反目し合わないようにバランスを取りながらまとめていくことが大事だと思います。また、慎重派の先生は不安も大きいと思うので、そうした人をサポートしていくことも重要な役割です。

――調整役になることが大切なんですね。

本校に着任した18年に「生徒用のiPadを購入したい」と会議の場で提案したことがあるんです。その際、慎重派の先生たちから「前例はあるんですか」「学習効果はあるんですか」と意見が出ました。

もちろん、そういう意見が出ることは予想していたので、「慎重に考えます」と答えた上で、「他の皆さんの意見も聞いてみますね」とGoogleフォームでアンケートを作って、教職員全員に回答をお願いしました。

すると、なんと7割の先生が「生徒も1人1台にしていった方が良い」と回答し、2割の先生が「慎重に検討を重ねるべきだが、進めた方が良い」と回答しました。つまり、否定的な立場だったのは、残りの1割だけだったのです。

会議のような場では、声の大きい人の意見が通りがちです。でも、声の小さい人の意見も拾って、真の全体像を捉えることが重要です。声の小さい人の意見は、Googleフォームのようなツールを使えば、比較的簡単に拾うことができます。その結果をグラフ化すれば学校全体の方向性が明確になるので、慎重派の先生たちも納得してくれやすくなります。

結局、この時は市のセキュリティーポリシーの関係で頓挫したのですが、この出来事が学校全体でICT活用を推進していこうと、本格的にかじを切ったきっかけになったと思っています。

ICT担当になった先生の中には、自分が高度なICT活用を身に付けることに意識がいってしまう人がいるかもしれません。でも、テクノロジーは日進月歩で、覚えても覚えても、どんどんその技術は古くなって、また次の技術が出てきます。そして、そういう技術は、今ならばYouTubeなどで簡単に学べます。

もちろん、校内研修などで良い実践を紹介することも大切ですが、それよりも「校内研修に前向きに参加できる先生」をどうやったら増やせるかを考えることの方が、よほど大切なことだと私は考えています。

(松井聡美)

【プロフィール】

吉本悟(よしもと・さとる) 福岡市立福岡西陵高校教諭(国語科・第2学年主任)。市立中学校教諭、国立大附属中学校の研究主任、教頭を経験後、現任校へ着任。生徒主体の授業を求めてICT活用を始め、2017年にアップルが認定する教育分野のイノベーターであるApple Distinguished Educator(ADE)に認定される。GEG Fukuoka City 共同リーダーも務め、昨年3月に全国一斉休校になった際は、ウェブサイト「休校を乗り越えるICTのある学び」を立ち上げ、全国の多くの教員から実践例などが寄せられた。20年度の文部科学大臣優秀教職員表彰を受ける。

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