これからの学びを実現する 新時代の教室環境づくり

GIGAスクール構想や小学校における35人学級の実現で、新しい学びに対応した教室環境への関心がにわかに高まっている。文科省は「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」の下に「新しい時代の学校施設検討部会」を立ち上げ、これからの学校施設の条件について議論を開始した。令和の時代の教室は、どんな姿をし、学びをどう変えるのか。新しい教室環境づくりに挑戦する学校現場や学校建築の専門家を取材した。


黒板のない教室で学びを変える
黒板の代わりにプロジェクターとホワイトボードが配置された新校舎の教室

まだ机などの備品が搬入されていない新築の教室に足を踏み入れると、そこには今までの教室では当たり前にあった黒板が見当たらない。代わりにあるのは電子黒板として利用できる横長の大きなホワイトボードだ。

埼玉県戸田市立戸田東小学校(小髙美惠子校長、児童1082人)は、4月から隣接する戸田東中学校と施設一体型の小中一貫校となり、新校舎の使用が始まる。4階建ての新校舎は、1階に保健室や特別支援学級、小ホールとしても活用できるメディアルームが配置され、2階と3階は小学校、4階は中学校が主に使用する。プールや図書室などの施設は小中で共用、一部の特別教室は小中で専用のものと共用のものを設けるなどし、フレキシブルな運用ができるようにした。

中でもユニークなのは2階にある職員室で、小学校と中学校が壁で隔てられることなくL字型でつながっている。小髙校長は「職員室に共有スペースを作って、小学校と中学校の教員が気軽に交流できるようにしたい。本校は5年生以上で教科担任制を実施しているが、やはり小学校の教員は学級を基盤に考えてしまう。交流を通じ、中学校のように学年全体で子供を見る視点を取り入れられたら」と期待を寄せる。

なぜ、新しい教室には黒板がないのか。小髙校長によると、教室に黒板がないことは、計画の初期段階から示されていたという。「みんなが前を向き、黒板に教師が板書していく一斉授業からの脱却が狙いだ。ICTの活用を前提に、教員はタブレット端末を持ち歩きながら机間巡視して、個別に支援を行ったり、電子黒板にさっと子供の考えを表示させたりする授業に変えていかなければいけない」と説明する。

2020年度に着任した小髙校長は、新しい教室での授業を視野に、教員にも授業の在り方を変えていくように促していった。「1人1台の環境になっても、これまで通りの授業が続くのであれば教育は変わらない。教員が学びに対する考え方を変えなければならない」と小髙校長。実際に同校では、教員の板書は子供への課題提示程度にとどめ、子供自身がICTを活用しながら、思考を深めたり、自分の言葉で表現したりする授業に変化してきているという。

オンラインからの参加でも、リアルと同じように

コロナ禍をきっかけに広がったオンライン授業をより最適化しようと試みたのが、静岡市にある静岡聖光学院中学校・高等学校(星野明宏校長、生徒473人)だ。同校では学校再開後も、遠方に住む一部の生徒は、自宅からオンラインで授業に参加していたが、教室の中心に三脚とカメラを置くと、教室にいる生徒は板書が見にくくなる。一方、オンラインで参加している生徒は教室全体の様子が分からず、生徒同士のコミュニケーションに支障をきたしていた。

こうした問題を解決しようと、対面でもオンラインでもほぼ同じ環境で学べるハイブリッド型授業の実現を目指して、若手の教員を中心に新しい教室環境をデザインするプロジェクトが発足。校内の18教室の天井に黒板全体が映るカメラを設置し、さらにはカメラ付きのテレビモニターも置いて、オンラインで学んでいる生徒と教室で学んでいる生徒が互いの状況を確認できるようにした。

こうした教室環境を整えたことで、現在は各クラス平均で3人ほどの生徒がオンラインで授業に参加している。さらに、台風などで公共交通機関が運休となった場合は、生徒が自宅からオンラインで授業を受けられるようになるなど、さまざまな効果が出ている。

同校の佐々木陽平教諭は「オンライン授業が格段にやりやすくなり、海外との交流や教科横断型の学びなどが活発になっている。一方で、定期テストはカンニング防止の観点などから、オンライン上でこれまで通りにやるのは難しい。結果的に、テストの問題がより思考力を問うものに変わったり、評価も観点別になったりするなど、大きく変わった」と、授業がダイナミックに変化したことを実感している。

同校では、教室環境の変化が生徒の学力などにどう影響を与えたかをさらに分析するため、静岡大学や静岡県立大学との実証研究にも取り組んでいる。

低コストで実現できるモデルとして全国に

こうした教室の設備更新には膨大な費用がかかることから、私立学校ではできても公立学校では難しいと思われがちだ。しかし、静岡聖光学院中学校・高等学校のプロジェクトは、ネックとなるコストの問題に真正面から取り組み、各地の学校や教育委員会から注目を集めている。

20万円の低予算で実現したハイブリッド型の教室で行われる授業(静岡聖光学院提供)

今回のプロジェクトでは、あらかじめ教室の改修費用を1教室20万円に設定し、クラウドファンディングで資金調達を行った。これは、多くの学校関係者にこの挑戦に関心を寄せてほしいということと、低コストで実現できるモデルを示すことができれば、公立校を含め、多くの学校の参考になると考えたためだ。

その過程で大活躍したのが、学校事務職員の武田光一郎さんだ。武田さんは教員の声に耳を傾けながら、地元の業者と交渉し、理想の教室に必要な機器を予算内で調達することに成功した。

「先生たちのイメージを具体化するのは難しかったが、ノーとは言いたくなかった。どうすれば1教室20万円で生徒が満足できる授業が実現するのか。せっかくオンライン授業で他の学校をリードしているのだから、ここで立ち止まっていては意味がない。今回はそういうミッションだった」と武田さんは振り返る。武田さんとしては、現状の教室環境はまだあくまでもプロトタイプとのことで、今も試行錯誤を繰り返しながら、日々バージョンアップしているという。

教員が柔軟に工夫できるかが鍵

「今の学校は、空間的にも制度的にも柔軟性に欠けている」

自宅から学ぶ生徒と教室の生徒とのコミュニケーションも取りやすくなった(静岡聖光学院提供)

そう指摘するのは、新しい時代の学校施設検討部会の委員を務める伊藤俊介東京電機大学教授だ。伊藤教授が委員として名を連ねる日本建築学会教育施設小委員会では、コロナ禍による分散登校やオンライン授業などについて、学校がどのように対応したか、全国各地の事例を収集した。その過程で伊藤教授は「児童生徒が自宅で受講するオンライン授業が正規の授業としてカウントされないなど、日本の学校制度の抜本的な制約が浮き彫りとなった。机の配置や消毒作業、感染防止対策などの対応は自治体や学校現場任せで、何とか乗り切っている。そういう状態だから、感染が収まれば今まで通りに戻ろうとする意識になりやすい」と指摘する。

これからの学校施設に求められる視点として、伊藤教授は「中間的な空間」の活用を提案する。カフェのテラス席のような、教室の延長でもありながら、共用の空間ともつながるスペースをつくり、利用方法は教員の裁量に委ねる。そうすることで、教員は教室に収まらない学びを必要に応じて展開でき、他のクラスからも見えることで、刺激を与えることもできる。

「これまでの学校にもオープンスペースはあるが、公共的な性格が強く、教員個人で積極的に使いにくい面があった。中間的な空間を意図的に作ることができれば、個々の教員をエンパワーメント(個人の能力を制約する条件を取り除き、本来の能力を発揮できるようにすること)し、学級が開かれ、学びが少しずつ変わっていく」とその可能性を語る。

一方で伊藤教授は、既存の教室でも新しい学びを実現することは十分に可能だと強調する。「ロッカーや机の配置を変えたり、子供がくつろげるスペースを作ったりするなど、工夫次第でさまざまな活動ができるようになる。ただ、現在の40人学級はもちろん、35人学級でもそうしたゆとりはない。教室のサイズを変えられないのであれば、余裕教室を活用するなどして、1教室あたり二十数人程度にしないと、フレキシビリティーは生まれない」と、35人学級の実現は進歩ではあるが、空間的な問題は解決しないと指摘する。


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