【公立校が挑むGIGAスクール】「教えない」授業への転換

子供たちが「自ら学びたい」と思えるような授業デザインにするために、ICTが必要だった――。福岡市立福岡西陵高校でICTを推進してきた吉本悟教諭は、自身が端末などを活用し始めたきっかけをそう語る。1人1台時代が幕開けする中、ICTが目的化しないためには、どんな子供を育てたいのかというビジョンを明確にする必要がある。吉本教諭にこれまでの実践を振り返ってもらいながら、そのヒントに迫った。(全3回の第2回)

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子供の学ぶ意欲を高めるためにICTを活用する
――そもそもICTを活用するようになったきっかけについて教えてください。

現任校に来る前、福岡教育大学附属福岡中学校に勤務していたのですが、いろいろな研究を重ねていくうちに、自分の中で「ICTが必要だ」という結論に至り、2013年ごろから活用を始めました。当時、学校には数十台のiPadがあったので、どんどん授業で使っていくようになりました。

――「ICTが必要だ」と思ったのはなぜですか。

大学附属校なので、以前はずっと指導法についての研究をやっていました。自分が研究主任になったときに、もう一歩先へ進めるためにはどうすればよいかを考えていたんです。

当時、OECDが出した『教育のトレンド2』という本に、モバイル端末の普及数についてのデータがありました。その本を読み、今後は爆発的にインターネット上の情報が増え、しかもそれが手のひらですぐに検索できるようになるだろうと思いました。そうなった時に、果たしてこれまで教員がやってきた「子供たちの前に立って知識を伝達する」という仕事が、成り立つんだろうかと考えさせられました。

時を同じくして、12年に実施されたPISA(国際学習到達度調査)の結果が公表されました。日本は03年の調査で順位が急落した、いわゆる「PISAショック」から順位を大幅に上げましたが、一方で子供たちの学ぶ意欲は、低いままの状態が続いていました。

こうしたことから、「もう指導法を研究する時代ではなくなってきているのではないか」と感じたんです。子供たちは「勉強はできるけれども、学びたくはない」状態が続いている。つまり、このまま教員から知識をただ受け取るだけだと、学ぶ意欲は高まらないのではないかと考えました。

そこからは指導法の研究をやめて、どうやったら子供たちが自ら学習するようになるのかを考え、生徒が「教わる」授業から、自ら学んでいく「教えない」授業へと転換することを目指しました。子供たちが自分で「知識が欲しい」と思うような授業デザインを考えた時に、ICTが必要だと思ったのです。

「教えない」授業への転換
――実際にそうした授業に転換してみて、子供たちはどのような反応でしたか。

それまでのような授業が苦ではなかった子たちもいたので、最初は「教えてください」と戸惑う生徒もいました。でも、次第に子供たちが、自ら楽しんで学ぶようになっていきました。

私が考えていた理想は、私が教室に行く前に、勝手に子供たちの学習がスタートしている状態です。図工や美術の授業でよく見られる現象に近いと思うのですが、私の担当する国語の授業でも少しずつそのような状況が生まれていったのです。

何よりICTを活用することで、検索機能以外にも、例えば動画が簡単に作れるようになるなど、子供たちの表現方法が広がりました。

国語は伝え合う力を高めることが主題の教科ですから、音声や文字などを扱いながら発信することは教科としても取り扱うべきことで、非常にICTとの相性が良かったんです。ICTを活用することで、より魅力的な学習活動になるので、子供たちもやりがいを感じているようでしたし、座学では身に付かない資質や能力を養うことも狙いでした。

――他の教員にも「教えない」授業は広まっていったのですか。

当時、私は研究主任だったので、広めやすい立場ではありました。ただ、最初に「教えるのをやめましょう」と提案したときは、かなり反発されました。私も理論武装して丁寧に説明したのですが、おそらく半数ぐらいの先生は半信半疑だったと思います。

実際、私の前の研究主任も、最初は「教えないなど、あり得ないだろう」という反応でした。でも、そう言いつつも、翌週に「吉本先生がやりたいのは、こういう授業だろ?」と、「教えない」授業をやってみてくれたんです。目をキラキラさせながら、「これは面白い、これはいける!」と報告しにきてくれた時はうれしかったですね。

――それは、どんな授業だったんですか。

理科の先生だったのですが、その時は「浮力」を扱う単元の授業でした。生徒に丸い鉛を1個渡して、「どうやったら水に浮かべられるか、考えてやってみよう」と言い、「必要だったらパソコンを使ってもいいぞ」と伝えたんです。

こうしてポンと生徒に問いを投げるだけで、生徒たちは試行錯誤しながらどんどん取り組んでいったと、その先生は話していました。たとえ浮いたとしても、「なぜ浮くのか、理論的に説明できないと駄目だよ」と言えば、生徒はさらに頑張って考えます。

そういう授業をしていたら、授業が始まる前から生徒たちが理科室にやって来て、自ら問いに取り組むようになっていきました。

もともと授業がすごく上手な先生だったので、以前から生徒たちは生き生きと授業を受けていました。でも、「教えない」授業に転換したことで、その先生は「子供たちが、こっちが想定した以上のことを勝手に学んでいく」ということを実感したそうです。

その結果、周りの半信半疑だった先生たちもどんどん取り組んでくれるようになっていきました。いろいろな教科でそういう授業が行われて、本当にワクワクして楽しかったですね。

(松井聡美)

【プロフィール】

吉本悟(よしもと・さとる) 福岡市立福岡西陵高校教諭(国語科・第2学年主任)。市立中学校教諭、国立大附属中学校の研究主任、教頭を経験後、現任校へ着任。生徒主体の授業を求めてICT活用を始め、2017年にアップルが認定する教育分野のイノベーターであるApple Distinguished Educator(ADE)に認定される。GEG Fukuoka City 共同リーダーも務め、昨年3月に全国一斉休校になった際は、ウェブサイト「休校を乗り越えるICTのある学び」を立ち上げ、全国の多くの教員から実践例などが寄せられた。20年度の文部科学大臣優秀教職員表彰を受ける。

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