2025年からの共通テスト サンプル問題を読み解く

高校の新学習指導要領で学んだ高校生が受験することになる、2025年からの大学入学共通テストの教科・科目の方針が、3月24日に大学入試センターから公表された。これに合わせ大学入試センターでは、科目構成が大きく変わる地理歴史の「地理総合」「歴史総合」と、公民の「公共」、そして新たに科目に加わることになる「情報」について、それぞれサンプル問題を示した。サンプル問題の内容から、新学習指導要領に基づく共通テストで問われる力と、それを身に付けるための授業の姿を読み解く。

地理総合


サンプル問題の狙い

サンプル問題では、3つの大問が示された。

第1問は3問で構成され、世界の人口問題と関連する課題を主題にした学習で、資料を基に話し合う学習場面を想定。人口問題では、現状や将来について地球的視野から捉え、地域性や課題相互の関連性を踏まえた上で考察したり、問題の所在や解決の方向性を明確にして、持続可能な社会の実現を目指した活動やその要因について考えたりする力を問う。

集落の高台移転のメリットとデメリットを踏まえて答える大問2問3

第2問は3問で構成され、防災学習における自然災害に対する備えと復興の在り方を主題とした学習場面を例に、自然災害の危険性が自然環境と人間活動との関わりによって変容することへの理解や、地域性を踏まえた自然災害への備えなどの適切な在り方を考察する力、自然災害に備えた持続可能な地域づくりに着目して考察する力を問う。

第3問は、「地理総合」と「地理探究」の接続を意識し、「地理総合」の生活圏の調査と地域の展望の学習を踏まえた設問(問2~4)と、「地理探究」の持続可能な国土像の探究学習を踏まえた設問(問1、問5~6)で構成される。

問題を通じて、地域の変容を主題とするグループ活動で、地域調査をはじめとした探究の過程を展開。都道府県ごとの市町村合併率や人口増加率の主題図を切り口に、大規模な市町村合併が行われた新潟県上越市を題材に、地域の概要を捉えた上で、上越市の社会的条件の変化から、都市の空洞化問題などの地域課題を考察する力を問い、市町村合併による中山間地域の過疎化によって起こる問題の解決策を考えることを通じて、市町村合併の成果と課題を整理し、日本の国土像の在り方を構想する力を問う。

必修化された「地理総合」の理念を体現――齋藤亮次・公文国際学園中等部・高等部教諭

もともと地理は、センター試験でもさまざまな資料から読み解く問題が多かったが、サンプル問題はその傾向がより強まったことに加え、会話文が多くなるなど、読解力が試されるようになった。また、今年の共通テストの「地理B」と同様に、9択の選択問題や3つの組み合わせを全て理解している必要がある問題など、マーク式ながら本質的・多面的な理解が問われる問題もあった。

出題分野で見ると、第1問は国連の持続可能な開発目標(SDGs)、第2問は防災、第3問は市町村合併と、いずれも必修化された「地理総合」の理念を体現するような内容で、意気込みが感じられる内容だった。

第2問の問3は、図を基に津波対策としての集落の高台移転について考えさせているが、問題を構造的に捉えるために、問題文の中で高台移転のメリットとデメリットにも目を向けさせている。

また、第3問のような地域調査(フィールドワーク)を想定した設問をみると、こうした授業に取り組んでほしいという作問側からのメッセージとして受け取れる。しかしながら、高校ではさまざまな制約があり、地域調査の実施率は低いのが現状だ。共通テストには出題されるものの、受験生は地域調査を実際には経験していないという状況は課題と言える。

特に地理を専門としている教員は歴史に比べて少ないため、歴史を専門とする教員が「地理総合」を担当するということも出てくるだろう。地理情報システム(GIS)やオンラインを活用した「バーチャルフィールドワーク」といった、ICTによる授業例や教材のシェアを進めたり、他教科と連携したりしながら、地理の門戸を広げていくことが必要不可欠だ。


関連

歴史総合


サンプル問題の狙い

サンプル問題では2つの大問が示された。

第1問は5問で構成され、東西冷戦を取り上げた授業における、生徒の疑問や気付きに基づき、さらに深く掘り下げていく過程を展開している。冷戦の基本的な構造を図版から捉えたり、冷戦と地域紛争の関係を俯瞰(ふかん)して考察したり、イデオロギーをはじめとした軍事力以外の対立・競争における日本とその他の国々の動向を比較することを通じて、人々の生活や社会の在り方、国家間の関係の変化など、冷戦時代に見られたさまざまな変容を大観的に理解する力を問う。

授業で追究した主題について答えさせる大問2の問6

第2問はAとBに分かれる。3問構成のAでは、近代アジアで制定された2つの憲法を題材に、授業の中で調べた内容をカードにまとめ、考察を深める過程を例に、これらの憲法に関わる歴史上の出来事を考察したり、類似性や差異を捉えたり、アジアにおける他の憲法原案と比べて、相互の関連を推察したりすることを求めながら、アジア諸国の立憲体制と国民国家の形成の特色を理解する力を問う。

Bでは、近代の教育制度に着目して、グループで調べた内容をパネルにまとめる学習を例に、文献や統計資料から、為政者による教育への期待を推察したり、義務教育制度が普及した要因を考察したりすることを通じて、社会の近代化において教育が果たした役割についての理解を問う。

日本史と世界史を対等に融合させた画期的な問題――中島博司・前茨城県立並木中等教育学校校長

歴史の問題としては、いずれも良問だと感じた。問題文をしっかり読んでいけばヒントも示されており、これまでのセンター試験のように、知識だけで解けた歴史の問題が、考えないと解けないものに変わっている。ただ、年代などを頭に入れておけば、あらかじめ選択肢から外すことができたり、社会常識で解けたりするものもあった。難易度は決して高くなく、第1問はやや易、第2問は標準レベルといった印象だ。

一方で、特に問1は問題文が全体的に長く、行ったり来たりしなければいけない。解答に時間がかかってしまう。全体の何割くらいを「歴史総合」が占め、このようないわゆる「考える問題」が出題されるのか。全体の出題数や配点は気になるところだ。

大問1の問5のように、グラフや文献から情報を読み解き、文章を選ばせる問題は、記述式ではなくても、記述する力をみることができる問題と言える。
秀逸だったのは問2の問題構成で、最初の問題文に「ある主題を設定して」とあり、それが最後の問6で、これまでの問題の考察から、この授業で追究していた主題を答えさせるという、ブリッジが掛けられていたのには驚いた。

日本史と世界史を融合させた「歴史総合」は、これまでにない科目であり、高校現場にも大きなインパクトがある。「日本史探究」や「世界史探究」につなげる意味でも、中学校の社会科で学んだ知識を使って、アクティブ・ラーニングで歴史の面白さを味わいながら、思考力・判断力を身に付ける授業に転換していく必要がある。

このサンプル問題で示されている授業や学習場面は、まさにそのモデルと言えるものだ。ここまで日本史と世界史を対等に融合させた問題はこれまでなかった。「こういうのを待っていた」と思っている教員も多いのではないか。各大学でも、このようなグローバルな視点で歴史を問おうとする動きが出てくるかもしれない。


関連

公共


サンプル問題の狙い

サンプル問題では、3つの大問が示された。

第1問は3問で構成され、生徒が文献調査や友人との意見交換をする中で、食品ロスの問題を題材とした課題追究を行う学習過程を例に、伝統や文化、先人の取り組みと知恵は固有の価値を持ち、集団や社会はそれらと相互に影響を与え合いながら存在していることへの理解や、幸福・正義・公正などに着目して、現実社会の諸課題について考察し、異なる立場の他者の利益なども考慮に入れながら、課題の解決方法について考察する力を問う。

第2問は4問で構成され、生徒たちが政治参加に関する学びを深め、身近な話題から議論や決定の在り方について考えた上で、模擬国会を開催する活動に取り組む過程を例に、個人の尊重や民主主義、自由・権利など日本国憲法の基礎になる考え方や基本原則の理解を基に、制度・ルールの意義を考察する力や、合意形成に向けて、異なる立場の主張について、その本質を事実や根拠に基づいて多面的・多角的に考察する力を問う。

多数決の基本的な考え方を問う大問3の問3

第3問は4問で構成され、生徒たちが国連の持続可能な開発目標(SDGs)から課題を選び、グループで協働して探究する活動の過程を例に、複数の資料を分析・分類し、関係付けながら、事実を基に課題を見いだす力や、課題解決に向けてさまざまな立場の主張を協働して考察し、現実の制度を踏まえて、妥当性や効果、実現可能性などを指標に、論拠を基に構想する力を問う。

「現代社会の課題に対して価値判断できる資質能力が問われる」――大畑方人(まさと)・東京都立東久留米総合高校(定時制)教諭

全体的に、1月に初めて行われた共通テストの「現代社会」の問題と同様に、思考力や判断力を重視し、さまざまな資料から情報を読み取ることに比重が置かれている。設問を読むだけでもかなりの時間がかかり、受験生は読解力が求められる。

「公共」のキーワードである合意形成や社会参画も意識されており、例えば、大問2の問3では、渋滞を解消するための道路建設というテーマで、5人の幸福度の総和ができるだけ大きくなる決定を考えさせる。思考実験のような形で、多数決において個人の権利が侵害されてはならないといった公共で育むべき資質能力が問われている。

また、現代社会の課題解決に、公共的な見方・考え方を当てはめる問題がみられる。大問2の問2では、18歳未満へのオンラインゲームの法規制について、対立する2人の生徒の考え方が提示される。「子供が長時間オンラインゲームをすると学力に影響が出るから規制すべきだ」という意見はパターナリズムの考え方、「どれほどの時間オンラインゲームをするかは本人の自由に任せるべきで、規制すべきではない」とする意見は「他者に危害を加えない限り自由である」という危害原理の考え方に基づいている。

教科書に出てくる抽象的な用語を理解するだけでなく、具体的な場面で生かしていく必要があり、授業などで現実のニュースを取り上げる際に、ただ単に感想を話し合うといった活動では不十分だ。理論的な枠組みや考え方を整理して、現代社会の課題に対して価値判断できる資質能力を養っていく必要がある。

サンプル問題そのものが生徒の探究的な学習の場面を想定したものであり、新しく始まる「公共」の授業でも、そうした活動を展開していくことが想定される。「公共」は2単位しかないので、家庭科や情報科、「総合的な探究の時間」など、他教科などと連携した教科横断的な実践も各学校で検討すべきだろう。


関連

情報


サンプル問題の狙い

サンプル問題は、3つの大問が示された。

第1問は4問で構成され、問1では、東日本大震災後にまとめられた通信の確保に関する報告書を基に、情報技術の仕組みとその利点などを問う。問2では、発表の場面で伝えたい情報を分かりやすく表現する情報デザインの考え方や方法、問3では、画像のデジタル化の仕組みと、そのメリットを問う。問4は、生徒が主体的に探究する場面を想定し、インターネットの代表的なプロトコルであるIPv4の仕組みについて、ビット数や十進法から二進法への基数変換などを踏まえて考察する力を問う。

比例代表選挙の当選者を決めるプログラムを考える大問2の問1

第2問は3問で構成され、比例代表選挙の議席配分の考え方をプログラムで処理するなどの、情報社会の問題解決の過程を題材にして、配列や最大値検索、繰り返し処理といったアルゴリズムをプログラムで表現するだけでなく、具体的な状況設定に応じてプログラムを修正するといった問題解決の力を問う。この問題で使われている言語については、大学入試センター独自の日本語表記による疑似言語を用いている。

第3問は4問で構成され、オープンデータを用いて、基本統計量などから全体の傾向を読み取ったり、予測したりする問題解決の活動を通じて、データの活用を問う。

「共通テストへの出題が、標準的な内容や到達度の指標となる」――中野由章・神戸市立科学技術高校教頭

昨年に関係団体に示された「試作問題(検討用イメージ)」に比べると、問題数も少なく、平易な問題が多い印象だ。

大問1のように、情報社会における情報技術の影響、デジタル化やネットワークの仕組みなどは、知識・技能や判断力を問う問題として、必ず出題されるだろう。

大問2はプログラミングの問題だが、使用されている擬似言語は「試作問題(検討用イメージ)」と同様、Python(パイソン)を意識したものになっている。繰り返しや分岐の範囲は、字下げと「|」や「L」で範囲を指定している。代入は「=」、繰り返しや分岐のヘッダ行末に「:」などは、Pythonそのものだ。配列要素番号も繰り返しが0から始まるため、その意図を示すために、問題でもそこは穴埋めにはなっていない。

大問3は、データの活用に関する問題で、統計処理ソフトウエアが出力した図から、その意味を読み取る(問1)、回帰直線の意味を答える(問2)、基本統計量の表を読み取る(問3)、クロス集計表を読み取る(問4)となっており、これらはどれも、データの意味を読み取る問題と言え、データを処理するようなものではない。これは、紙で出題するテストの限界であり、CBTが導入されれば、実際にデータを処理するものが出題可能になるだろう。

総合的な探究力の獲得を目指す新学習指導要領の学びの基盤として「情報」は極めて重要だ。その意味でも、大学入学時点でその到達度を測定するために、「情報」が共通テストの出題科目となり、独立した試験時間帯となることで、多くの受験生が受験できるようになることは歓迎したい。高校の授業内容は、生徒や学校の特性に合わせてカスタマイズされるべきだが、共通テストで出題されることで、これが標準的な内容や到達度の指標となる意義は大きい。

従来の知識を問うものから、思考力・判断力を問うものに問題の比重が移ってきている。会話文や長文からその文脈を読み解き、その前提条件のもとで最適なものを挙げたり、論理的に思考のステップを進めたりするような問題に対応できるよう、知識伝達型の授業ではなく、主体的・対話的に学びを進め、総合的な探究力が身に付くような授業を展開することが強く求められる。

例えば、大問2のプログラミングでは、どの言語を用いるかということよりも、授業でプログラミングの体験を十分に行うことが本質的に重要だ。プログラミングの経験があれば、言語が違っても戸惑うことなく対応でき、論理的に思考のステップを進めることに抵抗なく取り組めるはずだ。


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