【北欧の教育最前線】「教育の輸出」に励むフィンランド

国際学力調査などで評価の高いフィンランドは、そのブランド力を生かして「教育の輸出」を進めている。政府は国家戦略を策定し、幼児教育から大学、ノン・フォーマル教育から職能開発まで、120社を超える教育企業の海外進出を後押ししている。

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カタールのフィンランド式学校
カタール・フィンランド・インターナショナル・スクールの外観

ドーハにあるカタール・フィンランド・インターナショナル・スクール(Q.F I. School)では、42人のフィンランド人教員が働いている。ユバスキュラ大学が中心となって起業した民間企業EduCluster Finland社がフィンランドで採用し、カタールに派遣した経験豊富な先生たちだ。同校には0年生から11年生までの約700人の子供が通っている。授業は英語で行われ、カリキュラムはフィンランドのものをアレンジして使っている。

多くの子供はドーハ市内からスクールバスに乗って登校する。学校は午前6時半に開かれ、7時半から授業が始まる。フィンランドの学校で行われているように、授業では学習者中心主義に基づいたアクティブ・ラーニングが展開される。休み時間にサッカーをしたり、授業の合間におやつの時間があったりするのも、フィンランドと同じ風景だ。

一方で、入学者選抜があったり、制服を着用したりするのは「フィンランド」らしくない。Q.F.I. Schoolは私立学校のため、年間130万円から190万円程度の授業料を支払う。これとは別に、入学試験料、入学手続料、制服代、スクールバス代、給食費、遠足費、課外活動費、ノートPC代が徴収される。学費が払えなければ強制退学となるのは、教育の無償性を特徴とするフィンランドとは大きく異なる点だ。

Q.F.I. Schoolは2014年に開校した。カタール政府が建物を用意し、フィンランド政府の強力なバックアップのもとでEduCluster Finland社が運営している。同社はモルジブやオマーン、台湾やインドでも「フィンランド式」学校を展開している。

ノキアに代わる輸出産業を

フィンランド政府は2010年と15年に「教育の輸出」国家戦略を策定し、教育産業の国際化を推進してきた。同社以外にも120以上の企業がこの事業に参加している。事業者は海外向けに教員研修を提供したり、デジタル教材やSTEM教材を販売したり、学校運営やコンサルティングなどを行ったりしている。

政府が「教育の輸出」にここまで肩入れするようになったのは、08年の世界金融危機(リーマン・ショック)が発端だ。金融危機によって政府債務が増大したことで、財政に大きなストレスがかかった。折悪く、稼ぎ頭だった携帯電話メーカー「ノキア」も業績低迷に苦しみ、経済の先行きが見通せない時期に重なった。そのため、政府はノキアに代わる輸出産業を育てる必要性を強く認識していた。

フィンランドではこの頃、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)で世界トップの好成績を上げたことから、その成功の秘訣を探ろうと世界中から視察団が殺到していた。特に中東や東南アジアからは、フィンランドに対して教育開発のアドバイザーやコンサルティングの依頼が数多く寄せられた。こういった状況に目を付けた事業者や政府関係者が、国家戦略の策定を推し進めていった。

広がる「教育の輸出」
フィンランド政府の「教育の輸出」戦略(2010年版)

「教育の輸出」は以前から行われてきた。例えば、大学が海外にキャンパスを設置したり、留学生を誘致したりする活動などだ。しかし、義務教育段階である小学校や中学校にまで対象が広がったのは2000年代に入ってからだ。ニュージーランドが01年に教育輸出戦略を公表し、シンガポールも09年に国が出資する教育輸出企業を立ち上げた。

日本は輸出も輸入もしている。文科省などは「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」を通じて、教育産業の海外進出を支援している。日本の特別活動をモデル化し、「TOKKATSU」としてエジプトの学校に導入したり、楽器や体育器具を指導者研修とセットで東南アジアに販売したりする事例がある。一方で、英国のボーディングスクールやパブリックスクールが日本に進出したり、海外事業者が提供する英語試験が入試や就職試験で用いられたりする事例などは、日本が海外から教育を輸入していると見ることができる。グローバル化の中で、輸出入両面での教育市場の開拓が進んでいる。

(林寛平=はやし・かんぺい 信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学)


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