【公立校が挑むGIGAスクール】 変化の時期を教員が楽しむ

コロナ禍で、GIGAスクール構想による端末の整備が一気に進んだ。だが、多くの学校や教員にはまだ戸惑いがあり、ICTの活用に課題があるのも事実だ。2018年度に福岡市立福岡西陵高校に配属後、ICT活用を推進してきた吉本悟教諭に、校内のICT活用を本格的にスタートする際のポイントやルールづくり、今後の活用イメージについて聞いた。(全3回の最終回)

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「させられる失敗」はさせながらルールを緩めていく
――コロナ禍前は、GIGAスクール構想も「あと2、3年かけて整備していこう」という自治体や学校が多かったと思うのですが、この1年で一気に整備が進みました。4月から本格的にICTの活用をスタートする上で、何がポイントになるでしょうか。

できる範囲からやることが「もっとやりたい」につながると話す吉本教諭

無理をしないことが一番大切だと思います。

本校の場合は、18年度から本当に少しずつ準備をしてきて、コロナ禍で休校に突入したころには、「早く生徒が1人1台持ってくれたらいいな」と思っている先生が過半数という状態でした。だから、オンライン授業に対しても心理的ハードルが低かったんですよね。「急に1人1台がやってきた」という学校とは、状況が違うと思います。

慣れないことをやるのは誰でも疲れますし、無理にやってもうまくはいきません。生徒も教員も楽しくないと思うんです。

まずはできる範囲のことから少しずつやること。それが、生徒と教員の「もっとやりたい」につながります。ICTを使ったことがない教員も、少しずつでいいと分かれば、「ああ、そんなものか」と安心して、使ってみようという気持ちになっていきます。

――端末の管理・運用ルールをどのように定めるべきか、戸惑っている学校も多いと聞きます。

初めにルールをガチガチに固めた学校の多くは、失敗後にルールをなくしたり緩めたりしています。また、少数ですが最初はルールなしから始めて、問題が起きてルールを作った学校もあります。

私自身はなくてもいいと思っていますが、ある程度のルールを定めておくことは、「ICTに慎重派の先生」の安心につながると思います。そういう安心をつくった上で、やっぱり窮屈だ、不便だと思えば、少しずつ手綱を緩めていく。その方が、ゆっくりと慣れていけるでしょう。

また、生徒が失敗から学ぶことも大事です。本校でも先日、授業中に隣のクラスの子とチャットをしていた生徒がいたので、しばらくチャット機能をiPad上から消しました。すると、すぐに生徒会が動いて「ICTの使い方を考えよう」というようなキャンペーンを始めました。生徒の方からそうした自主的な動きが出たので、今はまたチャット機能を復活させています。

「ルールを定めておしまい」にしないことが大事だと語る

こうしたトラブルは想定内ですし、「させられる失敗」です。大事なのは、「ルールを定めておしまい」にしないこと。目指すべき姿は、フリーに使えて、子供が自律している状態です。そこに到達できるよう「させられる失敗」はさせながら、段階的にルールを緩めていけばいいのではないでしょうか。

学校でガチガチに規制して、それで問題が起こらなかったとしても、生徒たちが社会に出たときに自分で自制できるようになっていないと意味がありません。そうした視点も意識しながら、ルールづくりも考えていけばいいと思います。

学校がさらに活気を帯びてきた
――現在は、どのように活用されているのですか。1人1台になって見えてきたことがあれば教えてください。

今年の1月に1人1台のiPadが導入され、全生徒に配布しました。1人1台になって、本当に世界が変わりましたね。

今は休み時間も、生徒たちはiPadを持ち歩いています。YouTubeでも見ているのかと思ったら、意外とそうでもなくて、単語アプリを使っていたり、次の授業のプレゼン資料を作っていたり、思っていた以上に活用しています。

もちろん、日々の授業でも活用されています。例えば「総合的な探究の時間」でSDGsを学んでいるのですが、その中で黒人差別や人種差別に興味を持った生徒がいました。その生徒はその後、映画上映会を自ら企画し、「見たい人はここから申し込みを」とQRコードが付いたチラシを作って、参加者を募っていました。

本校は校内ではスマホ使用禁止なので、1人1台のiPadが入るまではQRコードを教室で読み取る手段さえありませんでした。外部の団体からいただくQRコードの付いたチラシを教室に貼りながら、これではまるで笑い話だなと思っていたんです。こういう高校は、全国的にもまだ多いのではないでしょうか。

でも1人1台になったら、生徒がQRコード付きのチラシを自分で作って貼るようになるのですから、本当にもう別世界です。

「ICTは生徒が自らアクションを起こすときに役立つ」と話す

このように、本校ではどんどん生徒たちが活発に行動するようになっています。生徒が自分で何かアクションを起こすときに、ICTがとても役立つということも分かってきました。生徒が主体的に説明する機会や発信する機会が増えて、学校がさらに活気を帯びてきたと感じています。

こんな変化が日本中で起きて、先生方が楽しんでくれるといいなと思っています。

――今後、ICTの活用が当たり前になっていく中で、改めて大事にしていきたいことは何でしょうか。

最初に私がICTを使おうと思ったきっかけに戻るのですが、ICTはあくまで道具であり、目的は子供たちが生き生きと自分から学びたいと思えるようになることです。

子供が大人から受け取って覚えるのではなく、自ら何かを変えたり、良くしたりする。そのために、ICTを活用して情報を収集し、それらを結び付けて発信できるようになっていければいいなと思っています。

また、ICTを活用して協働的な学びが増えることで、子供同士がやり取りしたり、話し合ったりするような場面がぐんと増えたと実感しています。これまでのように、教員が前に立ってずっと解説していくような授業よりも、よほど人間らしい姿がそこにあると思うんです。そういう良さを見失わないようにしたいと思っています。

多くの学校の先生方にとって、これからの2~3年は、ちょっとしんどい時期だと思います。しかし、こういう変化の時期を教員が楽しんでいることが大事だと思うんですよね。その姿を子供たちは見ています。

そうした時期を乗り越えれば、子供も教員も慣れてきます。すると、無駄な使い方が減って、より良い使い方をみんなで目指せるようになります。そこへたどり着くまでに、先生方には「どんな子供を育てたいのか」というビジョンを共有する場を、ぜひ持ってほしいと思います。

ICTを活用することで、子供たちがより人間らしい姿でいられるようにしていきたい。そして、自分が成長していくことをもっと楽しめるようになってほしいと願っています。

(松井聡美)

【プロフィール】

吉本悟(よしもと・さとる) 福岡市立福岡西陵高校教諭(国語科・第2学年主任)。市立中学校教諭、国立大附属中学校の研究主任、教頭を経験後、現任校へ着任。生徒主体の授業を求めてICT活用を始め、2017年にアップルが認定する教育分野のイノベーターであるApple Distinguished Educator(ADE)に認定される。GEG Fukuoka City 共同リーダーも務め、昨年3月に全国一斉休校になった際は、ウェブサイト「休校を乗り越えるICTのある学び」を立ち上げ、全国の多くの教員から実践例などが寄せられた。20年度の文部科学大臣優秀教職員表彰を受ける。

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