コロナ禍を契機に、学校の制服や校則を見直す動きが活発化している。“理不尽”な学校のルールが「ブラック校則」として社会問題となる中でも、実際の見直しはなかなか進まなかったが、コロナ禍がルールでがんじがらめとなった学校の窮屈さを浮き彫りにした形だ。本稿では、校則や制服の在り方という古くて新しい問題から、これからの学校づくりのヒントを探る。前編では、見直しに向けた各地の動きを追った。
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生徒会主体で制服の在り方を考える

岐阜県立岐阜北高校(鈴木健校長、生徒1080人)では、2月の2週間、私服での登校を認める「制服について考える週間」を実施した。同校では数年前から生徒会が中心となり、黒タイツの着用許可や靴下の規定見直しなど校則のマイナーチェンジを学校に働き掛け、実現してきた。今年度の生徒会では当初、カーディガンに関するルールの見直しを検討することにしていたが、コロナ禍の暑さ・寒さ対策として県内の複数の高校で私服の着用が認められたことなどを受け、制服そのものの在り方を議論することにした。
生徒会を担当する後藤隆浩教諭は「制服の自由化には生徒の間でも賛否両論があり、いっそのこと実際に試してみて、メリットとデメリットを検証した方がよいということになった。教員側からも『制服がある中で規則を緩めて着崩すくらいなら、私服も認めてはどうか』という意見があった。TPOをわきまえて生徒に主体的に考えてもらうことが狙いだ」と今回の取り組みの経緯を説明する。
結果的に「制服について考える週間」では、4人に3人くらいの割合で私服を選ぶ生徒がおり、中には上下で制服と私服を組み合わせる生徒や部活動のジャージで過ごす生徒もいた。「多くの生徒はどんな服装が快適なのかを考え、多様な意見について理解を深めていた」と後藤教諭は振り返る。生徒会ではアンケートの結果なども踏まえ、学校全体で考えていくべき問題として提言し、学校も生徒の思いを受け止めているという。
校則や制服の在り方について、後藤教諭は「社会が多様化していく中で、学校としてのポリシーを明確に打ち出す必要がある。校則などのルールについても、なぜそのルールが必要なのか、学校がきちんと説明責任を果たせるかが重要なポイントになる」と話す。
元に戻ろうとする学校への不信
校則や制服の見直しが前進する学校がある一方で、後退してしまうケースもある。
「せっかくルールを変えたのに、しばらくするとまた元に戻ってしまう」
そう嘆くのは、福岡市などで学校の校則や制服の見直しを働き掛けている後藤富和弁護士だ。後藤弁護士は2017年度、自身の子供が通っていた福岡市立中学校のPTA会長に選ばれたことがきっかけで、保護者の立場から学校の校則や制服の規定に疑問を抱くようになった。当時、学校では名札を制服に縫い付けることとされていたが、学校の外を歩いていれば、個人名が分かってしまう。そのため、PTA会長として学校に働き掛け、取り外しのできる形に変更したり、ジェンダーフリーの観点からスカートとスラックスを選択できるようにしたりした。
後藤弁護士は「18年度からは、保護者なら誰でも参加できる学校とのミーティングの場を月に一度設けることにした。当時の校長は理解があり、教員との調整も積極的だったので実現できた」と振り返る。やがて、生徒も参加する形で校則や制服の検討委員会が立ち上がり、スカートとスラックスの選択は全ての市立中学校で実施されるようになるなど、学校の取り組みは先進的なモデルとして注目されるようになった。
ところが、PTA会長の任期が終わってしばらくすると、校長が代わり、再び同校では制服を性別で分けて販売するようになった。「先頭を走っていたのに、いつの間にか最後尾になっていた」と後藤弁護士。保護者との月に一度のミーティングもなくなり、学校の雰囲気も校則に対する考え方も大きく後退してしまったという。
後藤弁護士は、法律の専門家の視点から「校則に法的な根拠はなく、過去の判例では校長の裁量で決めることができるとされているが、子供の自由を規制するものである以上、その合理性は問われなければならない。ルールを設けるときに、当事者である子供の意見を取り入れないなんてあり得ない」と指摘する。
制服を着ない権利を求めて教員が署名活動
そもそも、コロナ禍における校則や制服の議論に火をつけたのは、ある高校教員の問題提起だった。
今年1月、岐阜県の公立高校に勤める西村祐二教諭は、学校の制服を「標準服」にして、生徒が必ずしも着用しなくてもよいように自由を認めるべきだとして、インターネット上での署名活動を開始し、約2カ月あまりの間に約1万9000筆の賛同が集まった。
「斉藤ひでみ」という筆名で、これまでも給特法の見直しや1年単位の変形労働時間制の導入反対などの署名活動を展開してきた西村教諭だが、なぜ今回、校則や制服の問題に取り組もうと考えたのか。西村教諭の勤務校では、コロナ禍を受けて私服での登校が認められ、身だしなみの指導も緩くなった。それによって学校の風紀が乱れたり、教員の負担が増えたりしたことはなく、むしろ学校全体が居心地の良い場所に変化したことを実感したという。
その反面、校則や身だしなみを緩和することに対する教員の抵抗感は相変わらず大きく、「教員の理解を得られないかもしれないという意味では、これまでの署名活動よりも今回の方が、勇気が必要だった」と西村教諭は語る。
それでもやらなければと決意したのは、制服によって苦しめられている子供が確かに存在しているからだ。19年度の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、小学校~高校までの不登校児童生徒のうち、不登校の主たる要因もしくは、主たる要因以外の要因として、「学校の決まり等を巡る問題」を挙げている児童生徒は5500人以上に上る。
西村教諭は「例えば、ジャージ登校を認めるだけでも、学校に来られる子供がかなりいるのではないか。制服を着ない自由を認めることで彼らの学びを保障できるならやるべきだ。現状では、学校がルールによってさまざまな子供を排除していることになる」と訴える。
ルールメイキングという学びにつなげる

学校のルールを見直す活動を生徒の問題解決学習につなげようと、学校外から支援する動きも見られる。NPO法人カタリバは19年度から「ルールメイカー育成プロジェクト」を立ち上げ、広島市の安田女子中学高等学校や東京都中野区の新渡戸文化中学校・高等学校などで、生徒の活動をサポートしてきた。
同プロジェクトを担当する山本晃史さんは「重要視しているのは、身近なルールについて納得解を導き出し、合意形成するための対話の文化をつくることだ」と強調する。そのため、弁護士や研究者、ファシリテーターなどがサポートチームとして関わり、生徒にアンケートやワークショップのやり方を教えたり、ルールの改正案について助言したりはするが、活動そのものは生徒主体で進められる。
実際に安田女子中学高等学校では、有志で集まったメンバーが「みんなの声を反映させて、『勝手に決まっていた』とはしたくない」との思いから、新入生向けに学校のルールを知ってもらう機会をオンラインで設けた。また、多くの生徒や教員が目にする場所に、校則に対する自由な意見を書き込めるようにした模造紙を掲示するなどして、学校全体の意識を喚起していった。
サポートチームでは、生徒だけでなく教員にも校則に対する意識を高めてもらおうと、プロジェクトを担当している教員と連携しながら、本音で語り合える場などを設けている。
「ブラック校則の議論にありがちな『学校対生徒』という構図にはしたくない。その点で、外部人材が入れば、教師と生徒がフラットに話し合いやすくなるのではないか。生徒は『動けば変えられる』という実感を得ることができ、学校は生徒の声を大切にする文化に変容していく」と山本さん。21年度は参加校を増やし、全国各地にモデルを届けていきたいと意気込む。
◇ ◇ ◇
学校にとって、その存在が当たり前だった校則や制服。それらを見直していく鍵を握るのが、教員の意識だ。後編では、教育新聞の読者アンケートを基に、教員の校則や制服に対する本音を探っていく。
(藤井孝良)
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