【ポストコロナの学校改革】 改革のビジョンは明確か?

教育新聞では3月7日、50項目以上の業務を見直す学校改革を管理職としてリードしてきた大分大学教育学部附属小学校の時松哲也校長と、前任校の東京都千代田区立麹町中学校で工藤勇一前校長と共にミドルリーダーとして学校改革に取り組んできた立命館守山中学校の加藤智博教諭をゲストに迎え、読者限定のオンライン対談を開催した。学校改革の鍵となった各校のビジョン、改革の具体的な内容とは――。全3回の第1回。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)

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なぜ改革できたのか?
――まず簡単に自己紹介をお願いします。

時松 私は2015年度に大分大学附属小学校に赴任し、最初はいわゆるミドルリーダーとして学校改革に携わりました。その後、19年度からは校長として引き続き改革に取り組んでいます。

6年前に始まった本校の学校改革では、例えば、全職員の午後6時45分までの退勤、職員会議の廃止、独自研究を基にした公開研の廃止、夏と冬に各10日連続の閉庁日の実施など、50項目以上の業務を見直してきました。

加藤 私は2020年の4月から、滋賀県の立命館守山中学校に勤務しています。それまでは東京都で13年間、公立校の中学校教員をしていました。1校目の江戸川区の中学校で7年間、2校目の千代田区立麹町中学校で5年間、勤務しました。

麹町中では工藤勇一前校長と共に働かせていただき、そこでの経験が自分にとって大きなプラスになっています。

――改革に取り組んでも、なかなかうまく進まない学校も多い中、なぜお二人の学校では改革ができたのでしょう。
「まず労働環境を是正していくことから始まった」と話す時松校長

時松 本校の場合は、もう改革を「するしかない」状況でした。大学附属校の教員は県教委から派遣されるのですが、あまりの多忙さから働いてみたいと思う教員がいないような状態に陥っていて、存続さえも危ぶまれていました。そのぐらい課題が山積みの状態だったんです。

そんな状況の中で、なぜ改革できたのかを端的に答えるならば、まず学校改革が始まった当時の校長のビジョンが非常に明確だったことです。とにかくブラックな労働環境だったので、それを是正することに注力しました。

先生たちが疲れていると、子供たちの良い姿を見逃してしまったり、子供たちの力を発揮しきれなかったりすると思うんです。改革というと、とっぴなことをやらなければいけないようなイメージがあるかもしれませんが、本校では地道なことを一つ一つやって、まず労働環境を改善していきました。

また、子供たちの力を高めるための授業づくりにも取り組みたいけれども、どんなに良い実践を積み重ねていっても、土台が危ういとすぐに揺らいでしまいます。そこで、教員にも子供たちにも心理的安全性が担保されるような土台づくりに向けて、組織改革を行いました。

全てのことを組織でやり、学校全体で取り組む。それができる組織をつくり上げていったことが、功を奏したのだと思っています。

加藤 麹町中の学校改革も、工藤前校長のビジョンがものすごくはっきりしていたことが、ポイントだったと思います。

一口に学校改革と言っても、働き方改革などいろいろな切り口や目的があります。工藤前校長は「学校を子供の自律を育む場に変えたい」というその一点で、チーム担任制の導入や定期テストの廃止などを進めていきました。

それぞれ違うバックグラウンドを持つ教員の集まりでしたが、校長が示す改革の目的がはっきりしていたので、私たちも「その実現に向かって前向きに方法を見つけていこう」という集団に変わっていけました。また、改革していく中で、私たち教員も対話の仕方を学んでいったので、お互いを尊重できるようになっていきました。

それでも、一つ一つの改革が全て簡単にできたわけではありませんでした。時には壁も立ちはだかりました。ただ、そうしたときに、「そもそも自律とは何か?」を改めてみんなで問い直しました。そして、まず子供の「自己決定の場を増やす」ということ、そういった関わりを増やすことによって、子供の自律を育めるという戦略が見えてきました。そうして、さらに改革を加速させることができたという実感があります。

業務のスクラップで教員の空き容量をつくる
――具体的には、どのように進めていったのですか。

時松 本校の学校改革で取り組んだ最初の課題は、業務のスクラップでした。改革前は、教員が限界を超える量の業務を抱えていたので、とにかく空き容量をつくる必要があったのです。

業務を減らしていくために、まず外枠を決めました。例えば、退勤時間を午後6時45分としたのです。それまで、学校は不夜城のごとく皆が遅くまで働いていたので、教員からは「いやいや、絶対無理です」との声が上がりました。

そこで、「今の業務内容だと無理ですよね。では、できるものだけにしましょう」と、教員の困り感も聞き入れながら、減らしていける業務を一緒に考え、一つ一つスクラップしていきました。

「学年目標や学級目標が、学校教育目標にリンクしていないことがよくある」と加藤教諭は指摘する

加藤 時松先生の学校と視点は違いますが、麹町中でも業務のスクラップを行いました。

中学校は3学年ありますが、それぞれの学年が連携のない独自色を出しすぎていて、1つの学校なのに3つの学校が存在しているようなことがよくあります。麹町中も、最初はそうでした。

そうした状況を解消するために、まず会議や教育活動を分掌組織ベースで精査していきました。例えば、修学旅行は3年生の行事なので、大抵の学校では3年生の先生が担当します。でも、麹町中では進路指導部が担当し、立案する方式に変えたんです。

学年ではなく、全て校務分掌の組織でやるようにしたことで、「修学旅行はこういう目的の行事にしよう」「体育祭はこういう目的の行事にしよう」と、連続性が出るようになりました。

もう一つは、学年目標や学級目標をそれぞれの学年・学級がつくるのをやめて、学校教育目標に統一したことです。学校現場では、それぞれの学年目標や学級目標が、最上位にあるはずの学校教育目標にリンクしていないことがよくあります。

例えば、学校全体として「自律・尊重・創造」という最上位の目標があるのに、学級では「団結」、学年では「生きる力」といったように、目指すところがバラバラで、何を最優先すればいいのか分からなくなっているのです。

そのため、麹町中では全学年、全クラスが、最上位目標である「自律・尊重・創造」という共通ワードに統一しました。校長が全校朝会で話すメッセージも「自律・尊重・創造」、学年教員が保護者と話すときも、別の教員が学年集会やクラスで話すときも、誰が話しても最上位が変わらない同じメッセージを発するんです。来校された特別授業の講師や来客にも伝えていました。

すると、学校生活が共通ワードであふれるので、子供たちも自分たちに必要な力をはっきり理解することができます。教員と保護者が常に同じワードを使って3年間、教育活動が行えたのは大きかったと思います。

時松 それは本当に大切な視点ですよね。本校でも学校教育目標と学年目標のつながりが、ちょっと薄いと感じていました。そこで20年度は、学年目標と学校教育目標がどのようにつながっているのかをそれぞれの学年で考えてもらって、それを形にしていきました。

私も教職員にそう語りましたし、それに応えてくれた学年主任たちと相談を重ねながら進めていけたことで、学校の方向性がよりはっきりしたと思っています。

教員の安心・安全の場となる休憩スペースの存在

加藤 もう一つ、私が改革に欠かせなかったと思っているのが、教員が自然と集まり、対話が進む「休憩スペース」の存在です。なぜ改革が進んだのかと聞かれたら、私はこの「休憩スペース」の存在を必ずお話ししています。

――参加者から「その休憩スペースについて、もっと詳しく教えてほしい」と、リクエストが来ています。

加藤 職員室の後方にありました。6人掛けぐらいの小さなテーブルがあり、その上にちょっとつまめるようなチョコレートなどのお菓子を置いていました。このお菓子の存在が大きなポイントです。また、その脇にはホワイトボードがありました。

空き時間や放課後には、自然とみんながそこに集まっていました。人間、おいしいものを食べると気持ちがほっこりしますし、自然と笑顔も増えます。今までちょっと怖そうと思っていた先輩が、おいしいものを食べてニコニコしている。「あ、今だったらこの先輩に話が聞けるかも」という安心・安全な場ができるので、そこで真面目な話も不真面目な話もいっぱいするんです。

例えば、「今日、◯◯実行委員を集めたんですけど、なんかちょっとうまく進まなくて……」という話をすると、「じゃあ、ホワイトボードに書きながら考えてみようか」となり、そこがたちまち対話やアドバイスの場になっていました。

よく「麹町中には何か魔法の一手があったんじゃないか」と言われたのですが、どの教員も学校改革をした経験など一度もありません。だから、こうして何でも話し合える環境づくりが、実は一番大切だったのではないかと思っています。

時松 本校も改革を始めた頃、最初にみんなで職員室の改装をしたことを思い出しました。職員室にたくさんデッドスペースがあったので、そこを片付けて、給湯室の近くに6人ぐらいが集えるテーブルとソファ、椅子の島を全部で3つ作ったんです。

ここは今でもいつも誰かがいて、空くことがないんですね。特に放課後は、みんながお茶やお菓子を少しずつ持ち寄りながら話をしています。

麹町中のように明確な意図があったわけではないのですが、ちょっとしたミーティングスペース、相談できる場を作ろうと思ったわけです。そこにホワイトボードがあれば、確かにもっと面白いことが起きそうですね。

(企画・構成 松井聡美)

【プロフィール】

時松哲也(ときまつ・てつや) 大分大学教育学部附属小学校校長。大学卒業後、民間企業で営業職に従事した後、教諭として地元の大分県公立小学校に勤務。大分県教委による派遣研修により、上越教育大学大学院学校教育研究科専門職学位課程(教職大学院)へ。同課程修了後、現任校へ赴任。研究主任、教頭を経て、2019年度から現職。同校での学校改革・業務改善などの取り組みは、多くの学校、団体、議員から視察を受ける。19年度文部科学大臣優秀教職員表彰(組織部門)。共著に『学校改革スタートブック』(学陽書房)。

加藤智博(かとう・ともひろ) 立命館守山中学校教諭。鳥取県鳥取市出身。2020年3月まで勤めた東京都千代田区立麹町中学校で生活指導主任(現・生徒支援主任)と学年主任を兼務し、工藤勇一前校長の下で進められた教育改革の現場で中心的役割を担う。20年4月より立命館守山中学校に赴任し、20年度は中学1年学年主任。麹町中での経験を生かし、生徒の自律を育む教育を継続実践中。

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