【ホンジュラス編】 研修会と教員養成校

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「46%」の衝撃

ラ・パス県マルカラ市で活動を始めてから約1年がたった2019年10月、活動していた小学校2校で学力調査を行った。児童の弱点や間違いやすい傾向を分析し、「この学年のこの単元で、こういう弱点が見つかりました。ここに力を入れて指導すると、児童の学力が改善する可能性があります」と教員たちにフィードバックすれば、教員が算数を指導する上で強化するポイントが明確になり、学力向上が見込まれると考えたからである。

マルカラ市内の教員研修の様子

マルカラ市教育事務所や2校の全教員に趣旨を説明し、1年生から6年生までの計285人を対象に学力調査テストを行った。学年ごとの平均正答率は、1年生50%、2年生20%、3年生28%、4年生12%、5年生23%、6年生13%(全て100%中)。強化しがいのある結果を得ることができた。せっかくなので教育事務所と相談し、2校の教員だけでなくマルカラ市の各学校から数人ずつ呼んで研修会を開き、そこで点数や分析結果の報告をしようという話になった。

かねてより、いろいろな教員から「5、6年生が分数や小数、面積、体積を理解できていない。どういう授業をすればいいのか、アイデアがほしい」と相談は受けていた。しかし、例えば2年生の学力調査テストで出題した九九、9×6の正答率は9%(65人中6人)。3年生の18×3の筆算の正答率は23%(35人中8人)。4年生の54×68の筆算の正答率は4%(47人中2人)。分数、小数、面積、体積を求めるために必要な基礎計算力が不十分な可能性があり、それは5、6年生でどうにかするものではなく、低学年のうちから養うべきではないだろうか。高学年だから特定の単元が難しいのではなく、算数学習は全て低学年からつながっていると教員に捉えてほしい。分析の結果見えた課題を柱に、研修会を組み立てることにした。

研修会当日は結果共有の前に、教員たちにも6年生の内容のテストを解いてもらった。「皆さんは簡単に解けるかもしれないが、子供たちはこういうところでつまずいている。では、どういうふうに指導したらいいのでしょうか?」と参加者同士で検討できたら、算数指導に関する理解を私も教員も一緒に深められると考えたからだ。

だが予想に反して、研修会に参加した25人の教員の平均正答率は46%(最高90%、最低3%)。衝撃の結果に、むしろ平均点が13%のマルカラ市の小6はよく頑張っているのではないかとさえ感じられた。3%をたたき出した教員いわく、「普段3年生を教えているから6年生の内容が分からなかった」らしい。今3年生に教えているその内容が、6年生のどの単元でどう生かされるのか分からずに指導している……という課題が浮き彫りになった瞬間だった。

今まで私は、小中高大を通して「先生は知っていて当たり前」だと思っていた。小学校の先生は何でもできて当たり前、中高の数学の先生は数学を知っていて当たり前、と。しかしそうではないらしい。「そもそも、ホンジュラスではどうやって先生になるのだろう?」と新たな疑問が浮かんだ。この出来事がきっかけで、私はマルカラ市の教員養成校を見学させてもらうことにした。

二足のわらじを履く若い教員たち
教員養成校でのグループワーク

ホンジュラスには全9カ所に教員養成校がある。マルカラにはキャンパスはないのだが、支部のようなものが存在している。学期中の土日や長期休暇に、市内のマルコ・アウレリオ小学校の校舎を利用して講義が行われており、まるで社会人大学のようである。

学生の多くは月曜から金曜まで教員としてへき地の複式学級などで働く若者だが、異業種で働く人もいた。かつては学士の学歴がなくとも教員資格を取得できたそうだが、近年は制度が変わり、待遇面の向上を望んで学士取得を目指しているのだとか。朝7時から夕方4時まで、休日返上で1年生から6年生までの指導書を読み、講師に質問をして分からない単元の理解を深め、課題に取り組み、必死に学ぶその姿勢に胸を打たれた。また、土日や休暇のため小学校は休みだが、補習が必要な小学生を相手に実習を行うという、双方に利益のある興味深いシステムを知ることもできた。

何度かここで6年生の単元の講義をさせていただく機会をいただいた。「円周率が3.14なのは、どうしてでしょうか?」と聞き、グループごとに直径の異なる円を描き、糸を使って円周を測ったのだが、全員が「円周と直径の比のことだ」とすでに知っており拍子抜けした。一方、通分や約分などが分からないと個人的に聞きに来る学生もいた。「若くて情熱のある彼らと一緒に活動が行えたら、きっと楽しいだろうな」と思った。彼らの学ぶ姿勢からは、こちらも学ぶことが多いだろうなと想像したのだが、この約2カ月後に新型コロナウイルスの影響で早期帰国となり、それはかなわなかった。

彼らがコロナ禍を乗り越え、未来ある小学生たちにその熱い姿勢を見せてくれることを願うと同時に、彼らに恥じぬよう私も日本で頑張ろうと思う。

(西山美里=にしやま・みさと 青年海外協力隊の任期を終え、児童指導員として発達障害児の支援を行う)


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