「精神疾患の親を持つ子供たち」 子供たちが相談できない理由

逆境的小児期体験の一つとされる、「家族に精神疾患の人がいる」子供たち。周囲に相談をしない子供がほとんどだが、それでも相談した相手は学校の担任だった――、そんな調査結果が報告された。大阪大学大学院の蔭山正子准教授らの研究グループが行ったこの調査(注)には、「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」の事業に参加した経験がある、120人の成人(20~50代)が回答した。最近注目される「ヤングケアラー」を含む、精神疾患の親を持つ子供たちは、どんな状況に置かれ、何を必要としているのか。蔭山氏に聞く。

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ヤングケアラーとの違い
――統合失調症やうつ病、不安障害、依存症など、精神疾患の親を持つ子供たちがいます。最近、児童生徒の中に「ヤングケアラー」が少なからず存在することが分かり、注目を集めていますが、精神疾患の親を持つ子供というのは、ヤングケアラーと同じですか。

同じではないですが、両方に該当する子供は少なからずいます。ヤングケアラーというのは「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子供」と定義されています。

今回の私たちの調査では、精神疾患の親を持つ子供の約4分の3が、ヤングケアラーの役割を担っていたことが分かりました。中でも特徴的なのは、話を聞くなどといった「情緒的ケア」の役割が多いことです。例えば高齢者のケアだと、身体介護や家事などが多くなると思うのですが、親が精神疾患の場合は情緒的なケアが多く、約6割が該当すると回答していました。

でも、精神疾患の親を持つ子供の抱える困難のうち、ヤングケアラーというのは一つの側面でしかありません。それ以外の部分の方が、より深刻なところがあります。ヤングケアラーという側面だけで、精神疾患の親を抱える子供の困難を捉えることは、実際とはちょっとずれてしまうところがあるのです。

――精神疾患の親を持つことは、ヤングケアラーであることと、どんなふうに違うのでしょうか。

精神疾患の親を持つことは、小児期(18歳未満)の逆境的体験(ACEs)の一つとされています。逆境的体験には、「虐待を受けている」「家族に犯罪者がいる」「面前DVがある」などのほか、「家族に精神疾患の人がいる」という体験も含まれているのです。逆境的体験を経験している人は、将来がんなどの身体疾患や、精神疾患を罹患(りかん)しやすい傾向があり、またしばしば生きづらさを感じやすいことも指摘されています。つまりヤングケアラーよりも、本質的にはさらに深刻なところがあるわけです。

私たちの調査でも、「生きづらさを感じている」と回答した人は7割近く(67.5%)いました。回答者は既に成人しているのですが、大人になっても生きづらさを抱えている人が、こんなにも多いのです。それは、小児期逆境体験の後遺症のようなものが、大人になっても残っているということでしょう。

精神疾患の親を持つ子供は、どうしても親との情緒的な交流が不足しがちですし、また親の病気のことを親しい人に言えず、いつも家族の話題ははぐらかしたまま友達と接しなければいけません。そのことが他の人と親密な関係を育む上で阻害要因として働いてしまい、人との距離の取り方や、人と信頼関係を結ぶのが苦手な人が少なからずいるのです。生きづらさというのは、健全な人間関係を持つ経験が不足しているといった部分が大きいと思います。

相談できない理由
――精神疾患の親を持つ子供たちは、自らの困難な状況について、学校で誰かに相談することはあまりないのでしょうか。
蔭山准教授(綾部小百合さん提供)

学校への相談歴を聞いたところ、「相談したことがあった」という人は少数でした。「相談したことがなかった」という回答が、小学生時代は約9割、中高生時代は約8割で、ほとんどの人が相談をしていません。「親のことでの大変さ」については、約半数が「とても大変だったと思う」、約3割が「どちらかといえば大変だったと思う」と答えているにもかかわらず、相談はしていないのです。

なぜ相談しなかったのかというと、自由記載の回答を見ると、まず「問題に気付いていなかった」ということが挙げられます。家庭の問題というのは、幼いうちほど他の家庭と比較することもできず、なかなか客観的に見ることができません。そのため「自分の家族がちょっと大変な状況にある」ということに気付かないのです。

あとは「相談する発想がなかった」ということも、よくあります。「そもそもそういう家庭のことが、相談するような問題なのかどうかが、分からなかった」というのです。

以上のような回答は、身体疾患の親を持つ子供にも共通するのですが、精神疾患の親を持つ子供に特徴的なのは、「偏見を恐れて人に言えなかった」というものです。そこが、がんの親や、認知症の祖父母のケアをする子供との大きな違いです。「精神疾患というのは隠さなければいけないこと」という空気を、子供たちは周囲の大人たちから感じ取っているのです。実際に親など周囲の大人から「言ってはいけないよ」と言われることもあり、そうすると子供は当然、相談など出来なくなります。

――周囲からの理解されづらさ、という要因もあるでしょうか。私が以前に話を聞いた方は、統合失調症の母親と二人暮らしをしており、母親のことを先生に話したところ「親のことを悪く言ってはいけない」と叱られたと話していました。

そういうこともあります。やっと誰かに話しても、「親をそんなふうに言ってはいけない」といった、一般的な価値観を押し付けられてしまうのです。

さらに、精神疾患に対する偏見というものもあると思います。日本人全般にそういった偏見はあるので、精神疾患の専門家ではない学校の先生にだって、それは当然あるでしょう。すると子供は、何かの折に気付くわけです。例えば、有名人が精神疾患で事件を起こしたりしたとき、先生が「根性が足りない」とか「社会の迷惑だ」といったことを口にすれば、子供はもうその先生には相談できなくなってしまいます。

そういったところは改善の余地があるので、防いでいただけたら、という思いはすごくあります。何かのきっかけで子供が「話してみようかな」と思えたとき、「この人にはどうせ言っても分かってもらえない」「逆に傷付けられる」というふうに思ってしまうと、相談の可能性は断たれてしまう。人間誰しも、意識せず本音が出てしまうものなので、「ちゃんと理解している」というベースが必要だと思います。

※注 「精神疾患のある親をもつ子どもの体験と学校での相談状況:成人後の実態調査」(2019年10、11月に実施)

 (クローズアップ取材班)

【プロフィール】

蔭山正子(かげやま・まさこ) 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターでの保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。主な研究テーマは、精神障害者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術。

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