【ポストコロナの学校改革】これからの日本の教育の在り方

50項目以上の業務を見直す学校改革を管理職としてリードしてきた大分大学教育学部附属小学校の時松哲也校長と、前任校の千代田区立麹町中学校で工藤勇一前校長とともにミドルリーダーとして学校改革に取り組んできた立命館守山中学校の加藤智博教諭に、改革後に現れた子供たちと教員の変化について聞いた。また、GIGAスクール構想への期待と、それぞれに考えるこれからの日本の教育の在り方についても語り合ってもらった。全3回の最終回。(司会・教育新聞編集長 小木曽浩介)

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学校改革後にどのような変化が生まれるのか
――学校改革が行われていく中で、何がどのように変わったと感じていますか。

時松 本校の学校改革のポイントは、業務をスクラップすると同時に、教員にとっても子供にとっても安全・安心な学校をつくることでした。それによって、教員も子供も大きく変わりました。

まず、子供にとっての安全・安心を下支えする生活指導として、本校のウイークポイントでもあった「あいさつ」「掃除」「スリッパそろえ」を行ってきました。全教員が全児童に対して、これをやることの意義、やることでみんなの生活がどう変わるのかを丁寧に説明して取り組んだことで、子供たちはぐんと落ち着いていったんです。

本校の教員は全学年で外国語活動に取り組み、全学年で同じ生活指導を行っています。そのため、悩みがあったとしても、それは全教員にとって共通の悩みであり、それをみんなで相談し合いながら進めていけるので、それが安全・安心の土台になっていきました。

また、午後6時45分に学校を閉めるのは、仕事のメリハリをうまくつけてほしいことはもちろん、教員に充実した余暇の時間を過ごしてほしいと考えているからです。

教員は早く帰れるようになって、いろいろなことにチャレンジするように変わっていきました。「今まではなかなか行けなかったエステや整体でリラックスしています」と言う先生がいれば、「ヨガに通って体の調子が良くなりました」と言う先生、「読書の時間ができました」「◯◯科の勉強会に参加してきました」「〇〇先生と△△先生と一緒に山登りに行ってきました。道中、授業や生活指導の話をして、とても有意義でした」と言う先生もいます。こうした自己研鑽の話を聞くのが、私の楽しみでもあります。

加藤 麹町中では、生徒支援の際にベースにしていた3つの言葉があります。①どうしたの?(現状把握)②どうしたいの?(自分の意思の整理)③先生にどんな力を貸してほしい?(他者への協力を決定・選択)――です。

これまでの学校教育は、教員が「教える」「育てる」というイメージが強くありました。でも、いろいろなシステムを変えて、子供たちに対するわれわれ教員の関わり方も、上記のように変えていきました。

すると、最初は「先生、どうすればいいですか?」と言っていた生徒が、少しずつ自分で決められるようになり、ぶつかった壁を自分で乗り越える方法を導き出す姿が見られるようになりました。「子供にはこんなに力があるんだ」ということに気付かされ、むしろ、今まで子供の持っている芽を摘んでいたのは大人だったのかもしれないと感じるようになったんです。

そういう子供たちの変化が、われわれ教員の教育観を変えてくれたと思っています。そして、自分たちがこれからもっともっと学んでいかなくてはいけないことにも、気付かせてくれました。

こうした経験からも、これからの教員に求められるスキルというのは、今まで自分たちが必要だと思って培ってきたスキルとは違うものになると考えています。私は、質問ベースで子供と関わる、いわゆるコーチングスキルのようなものが必要になってくると思っています。

あえて失敗して乗り越えさせる経験を
――いよいよGIGAスクール構想が本格的にスタートします。どのように対応していくのか、また、その可能性について考えを教えてください。
「教員と子供にとって安全・安心な学校をつくっていった」と時松校長

時松 本校はさまざまな事情もあって、実はまだ端末が届いておらず、ハードの部分で後れを取っていて、大変苦慮しているところです。

ただ、これまでも1クラスが全員使えるぐらいのiPadはあったので、教員間で調整しながら授業でも活用してきました。1人1台になったら文房具と同じようになるのが理想と言われていますが、そう考えると、必要以上に構えることもないのではないかと思っています。

ICTは、これまで学校だけが遅れていて、子供たちにとってはようやく家と同じ状態になるわけです。1人1台になることで、学校でも何か調べたくなったら、パッと調べられるようになります。それを基に考えたり、グループで意見を練り合ったり、何かをつくり上げていったりと、子供たちが表現していくための時間をより多く取るようにしていきたいと考えています。

加藤 私が麹町中にいた当時は、約500人の生徒に対して80台のタブレット端末という環境で、教員間、学年間で調整しながら使っていました。

一方で、20年4月から勤務している立命館守山中学校は、5年ほど前から1人1台のiPadを整備しています。着任当初は、「え? 先生たち、こんなにiPadを使いこなすんだ」「子供たちもこんなに活用しているの!?」「連絡の取り合いも全部iPadなの?」と戸惑いました。

でも、そうした環境に身を置いて1年たつと、やっぱりいろいろな面白さを感じますし、子供たちの学びは確実に広がると実感しています。

ただ、子供たちが自由に使える時間を増やせば増やすほど、教員が望まない使い方をする子も出てきます。

先生はネガティブな想像が得意ですよね。子供たちを失敗させたくないから、「こんなことが起こりそうだ」というような、先回りセンサーがものすごく敏感に働くんです。その結果、「させない」「やらせない」ことが増えてきているという話が、いろいろな学校現場から聞こえてきます。

そうなると、タブレットは本来持つポテンシャルを全く発揮できないまま、ただの辞書代わりのようなものになってしまいます。

これまでの学校は、子供たちが大きな失敗をしないように教員が守ってきていましたが、このGIGAスクール構想が一つの大きな転換期になるのではないかと思っています。

子供たちは自分の未来を切り開くために、保護者を含めた大人たちはそれをサポートするために、みんなが当事者意識を持って議論し合い、「そのためにはこういうルールが必要だね」と考えていくべきではないでしょうか。

時松 確かに、学校生活ではさまざまなエラーがありますが、ちょっと教員側が心配しすぎている部分もあると思います。もちろん、人権に関わるような事案には適切に対処すべきですが、学校の管理下で失敗をさせることで、子供たちの将来のための指導ができると思います。

最初から失敗しない方向に持っていくのではなく、あえて失敗して乗り越えさせるようなことも、必要なのかなと思いますね。

「幸せ」が多様化する中で必要な力とは
――では最後に、「これからの日本の教育における共通ワードは何だと思いますか?」という質問が参加者からきています。
「1人1台で子供たちの学びは確実に広がる」と加藤教諭

加藤 私はこれから「ウェルビーイング」という言葉が、すごく大事になってくると思っています。海外では以前からよく使われているようですが、日本でも最近、よく耳にするようになってきました。

自分が教育の場にいるのは、やはり一人一人の子供たちが「幸せ」に生きてほしいと思っているからです。一昔前までは、一生懸命勉強して、良い大学に入って、良い会社に就職して、良い給料をもらう。それが「幸せ」につながるというようなイメージを、みんなが共通して持っていたと思うんです。

でも、今はものすごく価値観が多様化していて、幸せの感じ方も一人一人違っています。私自身も、幸せとは何なのか、改めて考え直したり、これまでと違った視点も入れたりしながら考えるようになっています。

保護者ともそういう話をすることがあるのですが、その際は「これからどんな時代が来ようが、子供たちが幸せに生きるために必要な力があるとするならば、それは自律と尊重だと思う」とお話ししています。

自分で自分の人生のハンドルを握って進んでいける、決断できる、人のせいにしない。社会問題に対して、当事者意識を持って取り組める。この「自律」は、どんな時代が来ようとも普遍的に必要な力だと思います。

一方、人間一人では生きていけません。そのために、周りの人の力を借りて乗り越えたり、周りの人に自分の価値観を広げてもらったりしながら、考え方の異なる人と共存していく。そういう「尊重」の力も大事だと思います。

だから、麹町中時代に掲げていた「自律」と「尊重」は、現任校でも学年目標にしています。

時松 一言で表すのは難しいのですが、教育は「自分自身の自己実現のため」「自分自身の利益のため」というような、閉じたものであるべきではないと私は考えています。

私たちがやっている一挙手一投足は、実は誰かの役に立っています。また、子供たちがやっていることにも全て意味があって、それは誰かに幸せを分け与えてくれているんですよね。

世のため、人のため、自分の存在は必ず誰かの役に立っているというような、何かそういうものが教育の中に貫かれているといい。私はそう考えています。そうした自己有用感が高まるような教育活動に、これからも取り組んでいきたいですね。

(企画・構成 松井聡美)

【プロフィール】

時松哲也(ときまつ・てつや) 大分大学教育学部附属小学校校長。大学卒業後、民間企業で営業職に従事した後、教諭として地元の大分県公立小学校に勤務。大分県教委による派遣研修により、上越教育大学大学院学校教育研究科専門職学位課程(教職大学院)へ。同課程修了後、現任校へ赴任。研究主任、教頭を経て、2019年度から現職。同校での学校改革・業務改善などの取り組みは、多くの学校、団体、議員から視察を受ける。19年度文部科学大臣優秀教職員表彰(組織部門)。共著に『学校改革スタートブック』(学陽書房)。

加藤智博(かとう・ともひろ) 立命館守山中学校教諭。鳥取県鳥取市出身。2020年3月まで勤めた東京都千代田区立麹町中学校で生活指導主任(現・生徒支援主任)と学年主任を兼務し、工藤勇一前校長の下で進められた教育改革の現場で中心的役割を担う。20年4月より立命館守山中学校に赴任し、20年度は中学1年学年主任。麹町中での経験を生かし、生徒の自律を育む教育を継続実践中。

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