「精神疾患の親を持つ子供たち」 教師は支援のキーパーソン

人知れず困難を抱え込みやすい、精神疾患の親を持つ子供たち。大人たちの偏見を恐れ、周囲に相談しない子供が多いが、それでも誰かに話を聞いてほしいと願っており、実際に相談する相手は学校の担任が最多である――。大阪大学大学院の蔭山正子准教授らの研究グループによる調査で、こんな実情が見えてきた。子供たちに何が必要か、蔭山准教授に聞いた。

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話は聞いても安易に介入しない

――精神疾患のある親を持つ子供たちは、なかなか人に相談しないものの、でも「誰かに話を聞いてほしい」とは思っているのでしょうか。

そうなのです。先生に「家庭の事情や悩みを気に掛けて話を聞いてほしかった」といった回答は、実際に多く見られました。子供にとって親の存在というのは、ものすごく大きいものですから、その問題を誰にも話せずに一人で抱えているというのは、かなり大変なことです。誰かに話を聞いてほしかった、と多くの子供が感じていました。

ただ、ここで一つ気を付けたいのが、子供たちは先生に「問題解決まで求めているわけではない」という点です。親に精神疾患があると聞けば「病院に連れていって、ちゃんと治療を受けさせなければ」という発想に、大人はなりますよね。子供が抱える問題の根源が親にあるなら、その親に対して医療や福祉を投入して問題解決に向かおうとする。

でも子供の立場からすると、そこまで期待しているわけではなく、取りあえず「苦しい状況にある自分の話をちゃんと聞いて、自分を支えてくれれば、それだけでいい」と思っていることが多いのです。

――中には問題解決のためのアプローチが必要な場合もあるかもしれませんが、多くの場合、子供はむしろ、自分を気に掛けてもらうことを求めているのですね。

そうだと思うのです。ですから、先生方は「家庭の問題まで解決しなければいけないのか」と負担に感じられるかもしれませんが、そこまでは必要ないことが結構多いと思います。

子供からすると、先生に相談することにはリスクもあります。学校から親に連絡がいってしまうようなことがあると、子供としては困ります。自分だって恐る恐る親に接しているところ、先生に刺激されたら、かえって関係が悪くなる危険もあるでしょう。ですから安易に介入はせず、その辺は慎重にしてもらいたいです。

子供たちのサイン
――精神疾患の親を持つ子供の話を聞いてあげたいと思っても、子供が自分から言ってこない場合は分かりません。どうすればいいのでしょう。
蔭山准教授

そこが難しいところです。「周囲が気付けるサイン」を出していたかという問いに対し、半数ぐらいの人たちは「出していなかったと思う」と答えています。そういった子供たちは「いい子でいなければいけない」という意識があり、「親や家庭に問題があることを知られてはいけない」「親に認めてもらうためにも自分は優等生でいる必要がある」などと思っています。問題を起こしている子供たちばかりではなく、どちらかというと優等生のような子供も結構多いので、表面的には分からないところにも発見の難しさがあります。

ただ、周囲が気付けるサインを出していることも、あるにはあります。例えば「親が授業参観や保護者面談に来ない」「遅刻や欠席が多い」「いじめられている」「忘れ物が多い」「持ち物を準備できない」といった場合、学校の先生は「もしかしたら家庭の中に何か問題があるのかもしれないな」という視点で、ちょっと子供を気遣って、声を掛けてもらえたらと思います。

子供たちは「何か困っていないか」と聞かれて、すぐに心を開くわけではありません。「親の精神疾患のことは誰にも言ってはいけない」と思っていて、相談できない子が多い。ですから何度も気に掛けてもらって、「この先生だったら言っても大丈夫かな」と思えるようになってもらえたら、すごくありがたいです。そこからがファーストステップなので、とても大変なことだとは思うのですけれど。

もともと私たちがこの調査をしようと思ったのは、やはり学校の先生が支援のキーパーソンだと思ったからです。子供が3歳くらいまでは、保健センターの健診などで親子の様子を確認できますが、それ以降は機会がありません。子供たちが困る状況に巻き込まれていくのは、小学校入学以降の方が大きいと思うのですが、そうするともう学校の先生ぐらいしか気付く人がいない、というのが現状なのです。

昨今は先生たちも多忙を極め、難しいことかもしれません。でも先生のほかには、こういった状況の子供を見つけてくれる人も、話を聞いてあげられる人も、なかなかいないと思うのです。

2つのアプローチ
――私も以前、取材した高校生から母親が精神疾患だと聞いたのですが、1年後に再会したとき、実際には家事もできないほど症状が重いことを知り、ショックを受けました。最初に聞いたときは、まったく気付けなかったので。本人も特別なことと思っていないので、周囲が気付くのは難しいことだと感じました。

そうですね。ですから、先生から気付いて声を掛けるアプローチと、あとは子供自身に、自分の体験について「あ、これは普通じゃないんだ」と気付いてもらうアプローチと、両方が必要です。「これは人に相談してもいいことで、誰かに言ったらちょっと楽になるかもしれない」と、子供自身が思えるようにする必要があるのです。

そのためにはやはり、学校が本当に重要な機関だと思うのです。学校の中で、「こういうことで困っている人はいませんか」「こういうところで相談できますよ」ということをお手紙で配ったりしてもらえたら、気付いて「ちょっと相談してみようかな」と思えることにもつながる可能性があると思います。

――担任以外に、学校でそういった相談役を担える人はいますか。

養護教諭の先生や、スクールカウンセラーもいます。私たちの調査結果では、担任の先生に相談したという人が多かったですが、30代以下の若い世代ではスクールカウンセラーに相談したという回答が、40代以上の世代に比べ少し増えていました。ですからスクールカウンセラーを配置する取り組みも、やはり効果は出ているのでしょう。

あとは保健室の、養護の先生にも相談できます。特に中学、高校生になると、保健室を利用する子は結構多いですよね。心の不調も体の不調も相談できますし、割と気軽に行ける場で、話をあまり深く聞かれなくても済むような、程よい距離感で接してくれそうです。あとは特別支援の担当の先生など、外部との連携が必要なケースで中心となるような先生がいらっしゃると思うので、そういった先生と一緒に話し合っていただくのもいいかもしれません。

 (クローズアップ取材班)

【プロフィール】

蔭山正子(かげやま・まさこ) 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師。大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターでの保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。主な研究テーマは、精神障害者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術。

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