【今井紀明氏】「食べ物がない」 コロナ禍の10代の悲痛

「所持金が数千円しかない」「バイトのシフトが減って、生活が苦しい」――。長引くコロナ禍の影響で、深刻化する所得格差。さまざまな事情で親に頼れず、アルバイトで生活費や学費を賄う10代の生活は、困窮を極めている。そんな中、いち早く、現金給付や食糧支援などの支援策を打ち出したのが、NPO法人D×Pだ。「早い段階で支援しなければ、取り返しのつかないことになる」と理事長の今井紀明氏は語る。大人が目を配り切れないところで苦しみ、今にもセーフティーネットからこぼれ落ちそうな子供たちを学校現場はどう受け止めるべきなのか。(全3回の第2回)

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コロナ禍でパンクした相談機関
――コロナ禍で、助けを求める10代の声を拾いにくい社会構造が、浮き彫りになったように思います。

まさにその通りです。教育面でも福祉面でもおしなべて、10代の声を拾い上げる体制やセーフティーネットの整備が不十分です。10代の相談に応じる手法としてはネットやSNSが有効ですが、それも需要に供給が追い付いていません。例えば、文科省の予算を使って幾つかの自治体が、SNS上で中高生のいじめ相談サービスを実施しています。しかし、そうした取り組みを実施しているのは一部の自治体にすぎず、それ以外の地域では若者が相談できるサービスのほとんどを民間に頼っています。

D×Pが運営する10代向けのSNS相談サービス「ユキサキチャット」は、緊急事態宣言が出た昨年の4月時点で登録者数が約700人でしたが、その後約4000人に跳ね上がりました。こんなに増えるのかと、驚きを隠せませんでした。子供たちからは「(他の団体の)電話相談にかけても全然つながらなかった」といった声も寄せられました。コロナ禍で支援サービスのニーズが急速に高まりすぎて、パンクしている実態があるようです。

――具体的にどのような相談があったのでしょうか。

オンラインで取材に応じる今井理事長

ユキサキチャットは普段、不登校などの事情を抱える中高生の進路相談に対応しています。しかし、コロナ禍ではそうした相談にとどまらず、家庭問題や経済困窮など多様な相談が寄せられました。コロナがまん延する非日常的な生活の中で、子供たちも子供の周りにいる大人たちも余裕がなくなっている実態が表れていたように思います

実は8月以降、自死についての相談も急激に増えました。うちは専門機関ではないのに、なぜそうした相談が寄せられるのか疑問でしたが、他の相談機関がパンクしていたことや、そもそも子供がリーチできる相談機関が圧倒的に少ないことが背景にあるでしょう。子供が助けを求められるオンラインサービスを、国を挙げて整備することが急務だと実感しました。

今すぐ若者の命を守らなければ
――コロナ禍は、まだまだ長引くように思います。子供たちにどうアプローチしていきますか。

私たちもこうした状況は、かなり長引くのではないかと危機感を募らせています。社会全体を見ても、一定の資産を持つ層がコロナ禍でも順調に伸びている一方で、飲食業や小売業など一部の職業セクターの人々はかなり大きな打撃を受けるなどして、どんどん格差が広がっています。

この格差は、10代にも深刻な影響を及ぼしています。特に大きな影響を受けているのは、ひとり親家庭の子供や10代の非正規雇用者たちです。彼らの大半が、飲食業や小売業に従事しています。私たちのもとにも、「勤務先の飲食店が閉店して、働く場所がなくなった」「職業の選択肢がなくなった」といった声が毎日のように届いています。

特に金銭面で親を頼れない10代は、かなり苦しい状況に追いやられています。昨年の3月以降、「4月から生活していくお金がなかった」「所持金が数千円しかない」など、悲痛な相談が寄せられ続けています。今すぐ彼らの命を守らなければいけないと考え、現金給付と食糧支援を開始し、必要であれば生活保護など適切な支援先につなげるサポートも開始しました。

――どれくらいの規模で行っているのでしょうか。

今年2月時点で、食糧支援は延べ4080食、現金給付は283万円を支給してきました。

子供たちにはまず、「ユキサキチャット」を通して、現在の生活状況を報告してもらいます。児童養護施設を出てバイトを掛け持ちしながら生計を立てている子や、親と折り合いが悪くバイトで学費を稼いで一人暮らしをしている子など、さまざまな事情を抱えた10代がいます。

食糧支援はパスタやレトルトカレー、お米など、なるべく日持ちして栄養価が高い食べ物を中心に、まず30食分を届けます。その後も月2回ほど、3カ月から半年程度の支援を続けます。

現金給付は毎月1万円を最大3カ月間支給するタイプや、単発で4万円支給するタイプなど、相談者の状況に合わせた支援策を用意しています。振り込み方法についても「銀行口座を持っていない」「親にばれると取られる」といった事情を考慮して、アプリを使った送金や、現金書留での郵送などの手段も選べます。

現金給付から継続的な支援に
――一人一人の事情に合わせた、オーダーメードの支援を展開しているんですね。

適切な支援を早い段階で受けることで、将来の影響が最小限に抑えられると強調する(D×P提供)

私たちの支援のポイントは、一時的な緊急的支援から継続的なサポートにつなげるところです。まず食べ物や生活費の支援で子供たちの暮らしの安心を担保できたら、生活の安定に向けて公的補助の案内や就職先の相談など、社会とつなげる方法をスタッフと共に考えます。働くためのスキル習得をサポートしたり、在宅ワークで収入を確保するためにパソコンを提供したりすることもあります。

とはいえ、コロナ禍で厳しい状況に陥った子供が回復するには、長期的に向き合う覚悟を持たねばならないと感じます。現実を言えば、私たちの現金給付で貯金ができるわけではないし、社会的な経済状況の改善もすぐには見込めません。精神的に圧迫されて過ごす期間が長ければ長いほどダメージは大きく、日常を取り戻すまでに時間がかかります。正直、一民間団体の取り組みでは、全然間に合わない深刻な状況です。今すぐに、国が支援体制を敷く必要があります。

一方で、適切な支援を早い段階で受けることで、回復していく若者がいるのも事実です。例えばパソコンを支給したところ、小学生にプログラミングを教えるバイトに就いた子や、飲食店以外の働き口として文字起こしのバイトを始めた子もいます。

特にこの1年間は、サポートが早ければ早いほど子供たちの可能性は高まるということを実感しました。

変えるために声を上げてほしい
――私たち大人が目を配り切れていないところで多くの子供が苦しんでいることに、やるせなさを感じます。学校や教員にできることは何でしょうか。

これは学校だけに限りませんが、どんな人も機関も単独でやれることはほとんどありません。

例えば、コロナ禍で多くの学校現場が、オンライン授業に挑戦しようとしましたが、「難しかった」「うまくいかなかった」という声もたくさん聞きました。それは現場だけのせいではなく、その自治体の教育長や教育行政そのものの姿勢も含め、変えなければいけないということです。子供の支援を考えるときも、もっとマクロな視点を持ち、そこに関わるさまざまな人や機関が議論していく必要があります。

コロナ禍で、現場の先生にはさまざまな雑務や負担が増えました。そこにこれまで以上のケアを求めても、負荷がかかりすぎてしまうのは明白です。強いてお願いするのであれば、学校で児童生徒が余裕を持って過ごせる策を考えてあげてほしいと思います。先生のフィールドである学校や教室の中で、どうすれば子供たちがストレスを忘れられるのか、目の前の学びに集中して向き合えるのかについて、考えてもらえればうれしいですね。

コロナの影響で、優秀な先生ほど苦しんでいる姿を目にします。今抱いている課題をしっかりと教育行政に伝えることも、先生の役目だと思います。一人一人の声は先生方が思っている以上に小さくありませんし、影響力を持っています。一人では何も変えられませんが、何かを変えるためにはその一人の声が不可欠なのです。

(板井海奈)
【プロフィール】

今井紀明(いまい・のりあき) 認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。高校生のとき、イラクの子供たちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後、友人らに支えられ復帰。偶然、通信制高校の教師から通信制高校の生徒が抱える課題を知る。親や教師から否定された経験を持つ生徒たちと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。オフライン(学校現場)とオンラインで生きづらさを抱えた若者に「つながる場」を届ける若者支援コミュニティーを作っており、寄付も募っている

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