【ホンジュラス編】 感銘を受けた複式学級巡回の旅

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思い通りに進まない活動

ホンジュラスのラ・パス県マルカラ市の教育事務所に配属し、市内の2校を巡回しながら小学校の教員に算数指導の助言を行ったり、研修会を開いたりすることが私には期待されていた。しかし、2校での活動は思うように進まない。当然ながら現地の教員にもプライドがあり、いきなりやってきた異邦人の助言など、なかなか受け入れ難いのは当然のことだ。また、赴任直後の私のたどたどしいスペイン語、情熱的に愛をささやくラテン系の人に対しては「こちらも直球で言わないと!」という誤解(ホンジュラスの人は控えめでシャイな方が多い)も、活動難航の原因だった。

朝、学校へ行ってみると教員の親族の不幸や家族の病気で突然休校しており、「なんで教えてくれなかったの?」と校長に電話で尋ねると「お前が聞かないからだ」と返され、朝8時に私の活動が終了、なんてこともしょっちゅう。教員のデモで1カ月以上、授業が正常に進まない時期もあった。文化の違いを理解しきれずストレスがたまっていった。そんな日はカフェでコーヒーを飲んで気持ちを落ち着けていた。市内のカフェオーナーとの仲ばかりが深まる日々が続いていた。

転機

ある日、教育事務所長から「ミサトが活動している2校と違って、ホンジュラスは複式学級の方が多い」という話を聞いた。離島の小学校のテレビ特番などでしか目にしたことがなく、日本ではへき地のみのイメージだった「複式学級」。しかしホンジュラスの公立学校の半数以上は複式学級なのだという。

実際に見たところで何か手助けできるような知識もアイデアもないが、2校での活動に悩んでいたこともあり、この国のことをより知るためにも複式学級の視察を行うことにした。私が実施したマルカラ市の研修に参加していた教員に連絡を取り、ラ・パス県内の4校を見学する機会を得ることができた。

まず、ほぼ全ての学校の教員が若いことに驚いた。伝統的に、若い頃はへき地で勤務し、ベテランになった頃に市内中心部で働くことが多いらしい。それまで私は市内中心部の2校を巡回していたが、確かにベテラン教員が非常に多かった。また、一定数の生徒がいない場合は、教員が校長も兼任するということも判明した。複式学級の若い教員たちは校長であることも多く、指導のみに専念することができないことが分かった。

訪れた4校はたまたま全て2クラス(各教室3学年ずつ)だったのだが、組み合わせる学年のパターンはさまざま。学年で分けるタイプ(1~3年と4~6年)、生徒数のバランスを見て分けるタイプなど。

クレリアム先生の授業風景

一番印象深かったのは、1、2、6年と3、4、5年で分けていたグアダルペ小学校である。たった1枚のホワイトボードで3学年を指導し、さらに校長業務も行うクレリアム先生の授業さばきは圧巻だった。算数の授業が始まると、まず教科書を出して宿題の答え合わせをするよう6年生に指示し、次にホワイトボードを使って2年生に板書をさせ、そして1年生と一緒に教科書を読む。各自で読むように指示を出してから6年生のグループに戻り宿題チェック、私物のスマホで分数の解説動画を見せ、そして2年生のグループへ……。あっという間に45分間の授業が終了した。

先生いわく、「6年生は下の学年を見ることができるし、先生が1、2年を見ている間も落ち着いて課題に取り組めるから、こういう分け方にしている。去年までは私一人で1年生から6年生まで見ていた」とのこと。

足りない教員、足りない教室、足りない教材。ないないづくしのへき地教育はさぞ悲惨と思いきや、組み合わせる学年を工夫することで困難を克服し、さらに6年生の成長を促していた。情熱溢れる30代後半のクレリアム先生から、ピンチをチャンスに変える力、逆境を利用するたくましさを学んだのであった。

農作物も心も豊か

エルサルバドル国境にある複式学級

複式学級巡回を開始したのは2020年2月中旬以降。新型コロナウイルスのニュースがホンジュラスにも届き始めた頃である。マルカラ市内中心地では、すれ違った心ない現地人に「コロナ!」と叫ばれることも増えていたのだが、巡回先のへき地ではそういった発言をする人は誰もおらず、むしろ「遠い国から私たちのために来てくれてありがとう」と感謝されるばかりだった。

教育事務所スタッフと一緒にエルサルバドル国境付近にある小学校を見学した後、立ち寄った民家で昼食をいただきながら、歳の近いお兄さんのようなスタッフのアランは言った。「田舎は貧しいと思っていただろ? でも、自給自足だから豆もトウモロコシも、牛の乳も豊富。みんな分け合って生きているんだ」

農作物も心も豊かなホンジュラスの人に感銘を受け、マルカラ市への帰路に就いたのだった。

(西山美里=にしやま・みさと 青年海外協力隊の任期を終え、児童指導員として発達障害児の支援を行う)


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