現場と有識者はどう見る? こども庁創設構想

次期衆院選の目玉政策にと、与党でにわかに現実味を帯びてきた「こども庁」の創設構想。文科省や厚労省、内閣府などにまたがっている子供に関する政策を一元化し、縦割りの弊害をなくすことが目的とされているが、それによって子育て世代や教育現場などに、どのようなメリット・デメリットがあるのかはまだ見えてきていない。現場と有識者はこども庁の議論をどう考えるのか、聞いてみた。


多岐にわたる子供政策を一元化

幼稚園は文科省、保育所は厚労省、認定こども園は内閣府といったように、子供を巡る施策を所管する府省庁が分かれている。こうした状況に対し、縦割り行政との批判や一本化を求める声はこれまでもあったが、実現には至っていなかった。

そもそも、今回のこども庁創設構想が本格化したのは、自民党の若手議員らによる「Children Firstのこども行政のあり方勉強会」がまとめた提言に対し、菅義偉首相が次期衆院選の公約に目玉政策として盛り込むことを念頭に、自民党内で議論をするよう指示したことがきっかけだ。

緊急提言をまとめた勉強会の共同事務局を務める自見はなこ参院議員(左)と山田太郎参院議員

これを受けて、4月13日には、自民党内に総裁直属の「『こども・若者』輝く未来創造本部」が発足し、二階俊博幹事長が本部長に就任。初会合を開いた。自民党では、公明党などとも歩調を合わせながら、6月初旬に閣議決定される経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)に、こども庁の方針を反映させることを目指している。

勉強会の提言は、こども庁には専任の所管大臣を置き、子育て関連支出を、欧州並みの対GDP比3%台半ばまで倍増させることを打ち出している。こども庁で想定している施策は、幼児教育・保育から、児童虐待や子供の自殺、事故、不登校、いじめ、子供の貧困、教育格差、非行まで、医療、保健、福祉、教育、司法など、多くの分野にわたる。こども庁には、これらの施策についての総合調整、政策立案、政策遂行の強い権限を持たせるとしている。

勉強会のメンバーも多数出席した未来創造本部の初会合の後、事務総長の福井照衆院議員は「(有志議員による)提言を、行政機能として整理をして、足らざるものとして統合するところ、いらないところを分析するところから作業をしたい」と述べており、今後は緊急提言をベースに、さまざまな府省庁に分かれている子供施策を整理しつつ、こども庁の守備範囲を絞り込むことが想定される。

DBSの実現や福祉と教育の連携に期待

いきなり政治日程に上がってきたこども庁について、教育関係者はどう思っているのか。

Edubate上で実施したこども庁創設の賛否

教育新聞が4月5~12日に電子版で実施した読者投票では、教員など202人が回答し、「賛成」46.5%、「反対」26.7%、「どちらともいえない」26.7%と、賛成が他を上回る結果となった。

しかし、半数近くの人が手放しで賛成しているかは、注意深く見る必要がありそうだ。

待機児童問題の解消や子育て政策などで、保護者の声を政治や行政に届ける活動を行う「みらい子育て全国ネットワーク」の天野妙代表は「文科省所管の幼稚園と厚労省所管の保育所という、仕組みの違いがなぜあるのか。一体化することはいいことだと思う」と話す。特に天野代表が注目しているのが、子供に関わる仕事に就く際に無犯罪証明書の提出を義務付ける「日本版DBS」の実現の可能性だ。「わいせつ目的の大人が子供に関わる仕事に就けないようにするためにDBSは必要だが、それこそ省庁の縦割りで実現が難しいと言われて一向に進んでこなかった。こども庁でやるとぜひ言ってほしい」と期待を寄せる。

スクールソーシャルワークが専門の山野則子大阪府立大学教授は、教育と福祉の連携の視点から、こども庁には賛成の立場だ。山野教授は「デジタル庁の発足を見据えて、近く内閣府では福祉と教育のデータ連携に関する審議会を立ち上げる。これまでは、それぞれの所管で個人情報を管理していても、共有されてこなかった。それと同じように、こども庁として一つになれば、スムーズになる部分はたくさんあるのではないか」と話し、一例として、新型コロナウイルス対応などでの保健師と学校の連携などの可能性を挙げた。

その一方で「これまで連携できていたことができなくなることは避けないといけない。例えば、児童福祉と母子相談や生活保護は、これまで厚労省の管轄であったために連携しやすかったが、児童福祉がこども庁に移された結果、これまで通りにいかなくなってしまうようなことになっては意味がない。今までの良さは維持していく建て付けにする必要がある」とくぎを刺す。

組織ありきではなく中身の議論を

子供と接する現場は、こども庁創設構想をどう感じているのか。

長年、子供の貧困問題に取り組んできたキッズドアの渡辺由美子理事長は「今回の構想はあまりに拙い。コロナ禍で経済的に困窮する家庭が増えるなど、喫緊の対応が必要な課題が山積する今のタイミングで、省庁再編の議論にエネルギーを割くべきなのか」と首をかしげる。

「例えば、内閣府の児童手当と厚労省の児童扶養手当、文科省の就学援助をマイナンバーで一元管理して、別個に申請しなくて済んだり、支給漏れを防いだりするなど、給食費を無償化するといった政策の中身こそ、選挙で国民に問うべきなのに、組織ありきになっている。『こども庁』という何となくいい響きにだまされないようにしないといけない。本当に今やるべきなのは『そこじゃない』と強く言いたい」と警鐘を鳴らす。

保育所と幼稚園のように、厚労省と文科省で類似した事業を行っているのが、放課後の子供の居場所だ。

埼玉県と沖縄県で学童保育を運営し、都内で放課後子供教室の委託事業も受けている「merry attic」(メリーアティック)の上田馨一(かいち)代表は、学童保育と放課後子供教室では、学校との連携で温度差があると指摘。「学校の中にある放課後子供教室は教員との連絡もスムーズで、教室の予定を学校で配布してもらうこともできるが、学童保育ではそういったことが難しい。もし学童保育と放課後子供教室が一元化して、学校との連携もしやすくなれば、保護者への情報発信などもスムーズになるかもしれない」と話す。

しかし、その一方で「放課後の子供の居場所に関しても、定員や配置基準、スタッフの資格要件などで、まだまだ質を高めていかなければいけない課題は多い。こども庁構想が単なるアピールではなく、さまざまな立場の人を巻き込んで子供政策の質を議論するきっかけになってほしい。その結果、こども庁として一元化するよりも、従来の管轄のままで、連携をより強くした方が良いという結論になってもいいと思う」と、十分に時間をかけて議論する必要性も強調する。

(藤井孝良)

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