【コロナ禍の給食指導】 黙食スタイルだからできる工夫

黙食スタイルで、どんな給食指導をすればいいのか――。新型コロナウイルス感染拡大の影響で厳しい衛生管理が求められ、「前を向いて、私語禁止」が主流となりつつある学校給食。「残食が増えた」「子供たちの表情が暗い」など、全国の学校現場からその影響を危惧する声が後を絶たない。特に新学期を迎えたこの時期、課題にぶつかる教員も多いだろう。制限を逆手にとり、“学校給食の学びを止めない”ために新たなチャレンジを続ける東京都目黒区立五本木小学校と、京都府舞鶴市立三笠小学校の取り組みをもとに、新時代の給食指導の可能性を探る。


私語禁止の給食をどう工夫できるか

コロナ禍で一変した学校生活。特に児童生徒が向かい合い、会話を楽しみながら過ごしていた給食のスタイルは大きく変わらざるを得なかった。

昨年12月、文科省が取りまとめた「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル ~学校の新しい生活様式~」では、コロナ禍の給食について「飛沫(ひまつ)を飛ばさないよう、例えば、机を向かい合わせにしない、 大声での会話を控えるなどの対応が必要」などと、細心の注意を払うことを求め、全国の学校現場では「前を向いて、私語禁止」の給食が主流になりつつある。

とはいえ、食材や会話を通して児童生徒の健やかな発育を促す、重要な学習機会の1つである学校給食。コロナ禍の給食指導について、学校現場は難しい対応を迫られている。制限がある中で、いかに児童生徒に食事の楽しさや尊さを伝えるべきか。感染拡大の影響が長引きそうな中で、全国各地では独自の取り組みに乗り出す学校が増えている。

毎週2分の動画配信で給食に興味を
五本木小の松本教諭が作成した給食動画の一場面

「危機的状況だと、かなり焦った」と、休校明けの給食を振り返る、東京都目黒区立五本木小学校(深谷千恵校長、児童398人)の松本恭子栄養教諭。同小ではこれまでも児童が授業の一環で農業体験をしたり、給食委員会が多様な活動をしたりなど、学校給食を教材とした食育に注力してきた。

とはいえ、そのような先進的な取り組みをする学校すらも、今回の「黙食スタイル」での給食指導には試行錯誤した。衛生管理に最大限配慮して配膳をし、児童は前を向いて食事をとる。もちろん私語は禁止で、教室には咀嚼(そしゃく)音だけが響く。担任教員の給食指導は、どうしても新型コロナ感染予防が中心となり、これまでのようなマナーや励ます指導ができないのが実情だ。松本教諭のもとには、担任を持つ教員からコロナ禍の給食指導の難しさについて相談が寄せられていた。

松本教諭自身も、課題を感じている。特に、低学年の児童への影響が看過できないという。「クラスメートや教師とのコミュニケーションの中で、いつもよりたくさん食べられたり、嫌いなものにチャレンジできたりする。今のスタイルでは、もし苦手な食材が出たときでも、食材と自分の一対一の孤独な世界で戦わなければならない」と慮る。

実際、例年であれば学期が進むごとに減っていった残食の量が、制限が設けられた昨年度の給食では、減りが緩やかだったという。

そんな深刻な状況を打破するため同小で導入したのが、オリジナル動画を活用した給食指導だ。昨年7月頃から本格運用し、週1回、松本教諭や給食委員会の児童らが企画や撮影を担当し、配信している。

動画には、児童が少しでも給食と楽しく向き合えるためのアイデアが散りばめられている。

例えば、「トウモロコシのかき揚げ」が献立にある日は、児童が授業で訪問したことがあるトウモロコシ農家が登場。「うちのトウモロコシは甘いよ!」と、収穫の様子を動画に収める。さらに給食室で調理員たちが調理する姿も紹介し、作り方のポイントなど豆知識も添える。

松本教諭

その他にも、委員会の児童が司会進行をする「給食クイズ」や、さんまや金柑など食べ方に一工夫いる食材の「食べ方紹介講座」など、その日の献立メニューと連動した内容で、児童たちの食への関心をかき立て、目の前の食材に興味を持つきっかけになる要素をふんだんに盛り込んでいる。

さらに、配信する仕組みも工夫する。動画教材を活用にするにあたり、懸念されるのが「ながら食べ」の助長だ。それを踏まえ同小ではルールを策定。動画の長さは2~3分間に抑え、食に関連する内容に限定した。また給食の時間中の活用有無やタイミングは、各学級の担任教諭に一任し、現場の負担感も軽減。配信スケジュールは1カ月前を目安に全校の教職員に連絡し、動画は校内LANで共有。担任教諭は各学級の実情に応じて、負担感なく動画を活用できる仕組みだ。

「動画を配信した日は明らかに残食が減る」と松本教諭は効果を実感する。

新任が先輩の給食指導を見学する機会を

長引くコロナ禍の給食指導について、松本教諭は「昨年度はピンチをチャンスに変えることを目標に試行錯誤してきたが、今年度からはいかに効果的なものを取り入れられるか精査していかなければならない」と強調する。

同小では、毎月実施する特別活動部会の中で、給食指導について検討する場がある。そこで今年度の給食指導について、初めて現場に立つ新任の教員が例年以上に壁にぶつかる可能性が懸念されているという。そこで新任教員が、先輩教員の給食指導を見学して、学べる機会をつくる方針だ。

給食中のコミュニケーションについても、新たなアイデアを探る。「給食の時間に教室を回っていると、子供たちが『おいしい』と頬に手をやってハンドサインで教えてくれる」と松本教諭。これをヒントに、手話などを取り入れ、発話しなくても感情を共有できる取り組みも考えていきたいと話す。

多くの制限が課せられた給食指導だが、今だからこそできることもあると松本教諭は前向きに明かす。「例えば農家や漁業の方にスマホで動画を撮ってもらい、それを児童に見せられることもコロナ禍だからこそ実現した。児童たちはおいしさだけでなく、食材が巡り巡って自分の前にあることや、社会のつながりを学んだはず。これからの給食指導は、伝え方が変わったとしても、大切にするべきことは何も変わらない」と、言葉に熱を込める。

絵本の食べ物が給食の献立に

京都府舞鶴市立三笠小学校(小島みどり校長、児童143人)では、小島校長と栄養職員がタッグを組み、制限があるからこそ楽しめる給食の在り方について趣向を凝らしている。同校でもコロナ感染拡大以降、グループに分かれ、会話を楽しみながらの給食様式を廃止し、児童たちは自分の席で前を向き「黙食」するのがルールとなった。

「児童たちにとって、給食の時間の楽しみが半減しているのではないか。こういう状況の中でも、最大限食事を楽しむ術はないか」――。そこで生まれたのが、本や音楽と給食の献立をコラボレーションさせた企画だ。

まず昨年11月に、絵本や児童書に出てくる食べ物を献立に取り入れた。「トカゲの魔女のスープ」「イグアノドンブリ」など、献立表には児童たちの興味をかき立てる料理名が並ぶ。「これはどんな味だろう」「何が入っているのかな」と、学級でも今日の給食の話題でもちきりだ。

メニューを決めるにあたり、栄養職員は図書館にこもり、食べ物が出てくる絵本や児童書を50冊ほど読みあさったという。とはいえ、どの書籍もレシピ本ではないので、詳しい作り方や味付けが明記されているわけではない。本の内容やイラストをヒントに、学校給食の栄養基準を満たすようアレンジして、児童に届けた。

給食中の放送にも、ひと手間加えた。栄養職員がDJに扮し、本の紹介や献立の裏話を披露したところ、児童から大好評。「黙食」で静まり返っていた教室が、一気に華やぎ、給食を食べる児童たちの表情も心なしか明るくなった。

さらにコラボ給食に合わせて、献立の参考にした本を紹介する掲示を展開。給食がきっかけで本にも興味を持ち、図書室を利用する児童の数も増えたという。

「制限があるからしょうがない」をやめる
音楽とのコラボ給食で展開した掲示に、児童も興味津々だったという

これに続き、1月には音楽とコラボレーションした給食を企画。給食の時間に教科書に出てくる歌や鑑賞曲を流しながら、その曲の生まれた時代や文化に関連した献立を提供した。

例えば『南の島のハメハメハ大王』が流れる日は、ハワイの名物ロコモコ丼。オーストリアが舞台のミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌『エーデルワイス』が流れる日は、ウィーン風カツレツ。本とのコラボ給食に続き、給食中の放送では音楽とともに、その曲の歴史や文化を栄養職員が分かりやすく解説。おいしい食事に舌鼓を打ちながら、児童たちは異国の地やかつての時代の風景に思いをはせた。

コロナ禍の学校給食について、「残食が増えた」「うまく指導できなくなった」という現場の声も漏れ聞く。小島校長は「たしかに、向かい合ってクラスメートの顔を見たり、会話を楽しんだりすることができなくなった。でも、『制限があるからしょうがない』と大人が考え始めると負の連鎖になる」と、さまざまなチャレンジを講じてきた理由を明かす。

「栄養職員をはじめ、担任教員、そして私を含めた管理職が一丸となって取り組むことが大切だと感じる。給食指導を通して栄養職員には、担任に見えていない児童の姿が見えていることに気付くこともできた。これまで以上に、それぞれの教職員間や、教職員と児童の間で、交流や会話が増えていると感じます」と前を向く。

(板井海奈)