北欧の教育最前線 デンマークの「森の幼稚園」

デンマークは「森の幼稚園」発祥の地だ。実際にどのような特徴があり、どのような考え方に支えられているのか。コペンハーゲンにある「森の幼稚園」の現場の声をお届けする。

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雨でも雪でも屋外で過ごす

デンマークの保育園・幼稚園は外遊びが多く、近所の公園や湖によく散歩に出掛ける。しかし、街中の園は広い園庭がない場合もあり、散歩の行先も限られてしまう。そこで、自然豊かな環境に敷地をもち、自然の中で毎日遊ばせるのが「森の幼稚園」だ。

コペンハーゲンの保育施設「ボーネフーセ・ヴェ・スエネ(湖畔の子供の家)」では、3歳以上の子供たちが毎朝、幼稚園に登園した後、バスに乗り、この園が所有する郊外の「森の幼稚園」に通う。子供たちは自然に囲まれた広々とした屋外で一日中過ごす。よほど悪い天気でなければ、雨でも雪でも外で過ごすのが基本だ。

デンマークの幼稚園ではレインコートと長靴が常備されている

同園では、3歳以上児のための「森の幼稚園」に、3歳未満児のための保育園が併設されている。保育園の主任ウッラスティーナ先生と、「森の幼稚園」の主任カミラ先生を訪ね、お話を伺った。

子供がリラックスできる場

保育園・幼稚園で何よりも優先させることは、子供たち一人一人がリラックスできる場づくりだという。子供がリラックスしていることは、積み木でいう土台にあたる。土台がなければ何を学んでもいずれ立ち行かなくなる。そのため、大人は常に子供の気持ちに寄り添い、全員が居場所を感じられるように努めるのだという。

先生は子供にはできるだけ「ダメ」と言わず、叱らないように心掛けているという。叱っても子供はただ否定された気持ちになるだけだからである。例えば、「そこに穴を掘ったらダメ」と禁止する代わりに「穴を掘りたいんだね。じゃあ、掘ってもいい場所に連れて行ってあげる」というように、子供の気持ちに寄り添いながら代替案を提案するという。叱らずに導くことで、子供は安心しながら、して良いことといけないことを学んでいく。

自分で挑戦し、自分で学ぶ
「森の幼稚園」のカミラ先生(左)と保育園のウッラスティーナ先生

子供が挑戦したいと思ったことは、なんでも挑戦させる。挑戦を続ければ、小さな「できた」が積み重なって自信になっていくからだ。木に登りたい子がいれば登らせる。登ることで自分が登れる高さや、今の限界を知ることができる。次第に少しずつ高いところまで登れるようになり、自分の限界を超えていく。それが自信につながっていくのだという。

こうした理念の背景には、子供は自分で学ぶという信念がある。子供はさまざまな試行錯誤を繰り返す中で、自分に何ができるのか、何ができないのか、どうすればできるようになるのかを学び、自分の進むべき方向を見つけていく。

「森の幼稚園」の効果は?

「森の幼稚園」は、1950年代初頭に子連れで森を散歩していた母親が、近所の子供も一緒に連れて散歩するようになったのが起源といわれる。現在、首都コペンハーゲンでは「森の幼稚園」が幼稚園全体のおよそ15%を占め、園選びの一般的な選択肢となっている。また、世界にも広がりを見せ、日本でもデンマークの考え方を受け継いだ「森の幼稚園」が設立されている。

「森の幼稚園」では真冬も外で過ごす。スープなど簡単な料理をすることもある

デンマークでは、子供の教育に関心が強い家庭が「森の幼稚園」を選ぶ傾向がある。それは、一般的に「森の幼稚園」に通うと運動能力や健康面で良いことがあると言われるからだろう。しかし、コペンハーゲン大学附属病院の研究所によると、実際にそうであるかはあまり検証されていない。

同研究所は、統計データを用いた大規模な調査に着手し、「森の幼稚園」に通った場合と通常の幼稚園に通った場合で、運動と認知能力、肥満率、視力、睡眠、社交性などに差が出るかを検討するという。この研究では、家庭の経済的背景の違いにも注目するようだ。

「森の幼稚園」が広がるデンマークで、その“効果”について、どのような結果が出るかは興味深い。一方で、子供がリラックスできる場を重視していることや、叱らないで導くこと、そして子供は挑戦しながら自分で学ぶという信念は、デンマークの保育園・幼稚園、そして学校教育にも通底する考え方のように思う。デンマークの「森の幼稚園」は、子供たちの安心と挑戦を保障する大人の存在と、自然の中での遊びが両輪となっている実践だと言えよう。

(針貝有佳=はりかい・ゆか デンマーク在住ライター・翻訳家・リサーチャー)

 


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