【小林りん氏】 対立こそ、絶好の学びのチャンス

全寮制高校「ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン(UWC ISAK)」の小林りん理事長は、日本の現行法の中で工夫しながら、9月入学や海外からの教員採用など、「学校の当たり前」を次々と覆してきた。文科省でも、教委でも、管理職でもない「普通の現場教員」が、学校教育のチェンジメーカーとして一歩を踏み出すためには何が必要なのか――。7年かけて学校設立を実現させた小林理事長に聞いた。(全3回の第2回)

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教育現場に当事者を増やしたい
――革新的な学校「UWC ISAK」が誕生したことで、日本の学校教育にどんなインパクトを与えられたと感じますか。

ありがとうございます。私たちの小さな学校現場が何かを発信できているのだとすれば、「学校はこうあるべき」という概念を覆したというのが一番大きいと思います。

例えば、学校教育法では「小・中・高は4月入学」となっています。でも、本校は単位制の枠組みを利用して9月入学制をとっており、現行の枠組みの中でも工夫すれば実現できることを立証できました。他にも教育職員免許法の特別・臨時免許制度を駆使して、8割の教員を海外から招き、全ての授業を英語で実施することができています。

本校の取り組みを革新的だと受け止めてくださる方はいると思いますが、これらは今ある環境や法律の中で実現できたことでした。ただ、実現できると思った人がいなかったのかもしれません。「どんな学校にしたいか」「そのために何が必要か」と、原点に立ち返って見つめ直してみると、案外できることもたくさんあります。

ですから、私たちの実践を見ていただいた方に、「学校は意外と自由なことができる」「そんなのもありなんだ」と思っていただけたら本望です。既存の学校の枠組みの中であっても、多くの人が自由な発想で新しい取り組みにチャレンジする際の一助になれれば、うれしいですね。

――視点を変えることで、実現できることは意外と多いのかもしれませんね。

「学校はつくれる」という気付きも、社会に残せたのかもしれません。ここ数年で新たな学校をつくる動きが加速しているように思います。もちろん私たちの挑戦があったからというわけではありませんが、これから挑戦しようとする人たちが、「何の後ろ盾もない個人でも学校をつくったのだから、私たちにもできるかもしれない」と捉えて、新しい学校ができる一つのきっかけになればと思います。

これまでの社会は、教育に何か問題があると、文科省に訴えたり学校を批判したりするなど、他力本願的な風潮があったように感じます。「自分でも何かアクションを起こせば、教育を変えられる」「自分も課題解決の当事者になれる」というオーナーシップを、一人でも多くの方に持っていただけたら、きっと日本の教育は変わると思います。

まだまだ小さな学校ですし、できることは限られていますが、既存の学校の先生方、これから新しい学校をつくろうとする方々、あるいは民間企業など教育に関わる方々とご一緒に、自ら行動を起こすためのきっかけをつくれればと願っています。

多様性の根幹は「当たり前の違い」
――UWC ISAKが大切にしている多様性への理解について、学校教育でも議論される機会が増えました。個々人の違いから生まれる対立を乗り越えるためには、何が必要でしょうか。
オンラインでインタビューに応じる小林理事長

日本の学校の中でも、価値観が対立することはあるでしょう。実はそれはとても大きな学びの機会、チャンスだと思います。

対立が起こったときに私が一番大切にしたいと思うのは、「50:50の法則」です。先生と生徒間、あるいは生徒同士で違う価値観を持っているが故に発生したもめ事で、「誰かが100%悪い」「誰かが100%間違っている」ということはないという考え方です。

例えば、先生から見て、「なんでこの子、いつも私の話を聞かないの!」という生徒がいたとします。先生側から見ると「話を聞かない子」かもしれませんが、子供側から見るとジャッジされたり、レッテルを貼られたりすることへの反発かもしれません。

私は多様性の根幹にあるのは国や言語ではなく、それぞれの「当たり前の違い」だと思います。自分の当たり前と目の前の相手の当たり前が違ったとき、相手の立場に立って考えられることが、多様性を理解することになるのではないでしょうか。

ですから、違いに不満感を抱くのではなく、「どうして相手はこう発言するのだろう」「相手からこの状況はどんな景色に見えるのだろう」と、常に考えを巡らせる。こちらから見える部分と、相手から見える部分があることを踏まえ、対立の原因は「50:50」だと全ての人が肝に銘じられる社会になれば、大きく変わるように思います。

特に学校現場では、結果的に誰かが100%悪いと決め付けて、責められてしまう場面が多くなりがちですが、そこに学びはありません。

子供同士の対立は絶好の学びの機会
――児童生徒同士でトラブルが起こったとき、教師はどう関わればよいのでしょうか。

プライベートな話になってしまうのですが、ある日、小学生の息子の担任の先生から連絡があり、「息子さんが友達をいじめた」と言われました。話を聞くと「息子さんが大きな雪玉をクラスメートの顔に押し付けて、泣かせた」とのことです。一方、帰宅した息子は、休み時間中にいつものように雪合戦をしていただけだと話します。

そこで先生に、「私からは息子の景色しか見えていないので、どちらが正しいか分かりません。改めて二人から、それぞれ先入観なしに話を聞いてみていただけませんか」とお伝えしました。そうして先生が再度、両者や周辺の関係者にヒアリングしたところ、周りの複数のお友達と共に雪遊びをしていた中で、たまたま雪玉が顔に当たったのだと分かりました。

私も学校現場にいるので分かりますが、よくある話です。教師が(特に誰かが泣いたりすると)一方の子の言い分だけを聞いて、相手の子の話を聞かずに叱ってしまう。保護者も詳しく話を聞く前に叱って、一緒に学校へ謝りに行っておしまい。これが一番早いですし、楽ですよね。しかし、根本的な解決にも学びにもなりません。

子供同士でトラブルが起こったとき、先生にできるのは、とにかくお互いの話をじっくり聞くことです。そして、子供がお互いの立場に立って思考するようサポートすることが、多様性や違いを乗り越える訓練になるのではないでしょうか。また、子供たちは先生の適切な対処法を見ることで、両方の立場に立つことの大切さに気付けると思います。

本来、学校にはそういった学びの機会が満載のはずです。しかし、中にはこうした違いや対立をネガティブに捉えられてしまい、生かし切れていない現場もあるようで、もったいなく思えます。

――トラブルを避けがちな日本の学校で、対立を活用して学びにつなげる作業はとても難しいように感じてしまいます。具体的にどのように取り入れていけばよいのでしょうか。

座学1割、実践9割でしょうか。子供たちには現在すでに実践されている生活科や総合的な学習の時間などを通じて、ある程度は言葉で説明していく必要があると思います。先生も子供と同じ目線に立って、「こういうことに気を付けようね」と伝えてみてはと思います。

では、そうした学びをどこで自分に落とし込むかと言えば、実践しかありません。日々の学校生活でそれぞれの違いがぶつかり合ったときに、対話を繰り返していくことが必要不可欠でしょう。時間もかかるし、忍耐も必要ですから、簡単なことではないかも知れませんが。

私たちの学校では今年度から、生徒が何か問題だと思われる行動を取った場合に、教職員だけでなく生徒から選ばれた代表数人とともに、対応を議論する仕組みを作りました。対立や問題とどう向き合うか。生きた事例を通じて生徒たちも学んでいると思います。

「現場から変える」と信じ抜く
――小林さんは学校教育の課題を指摘しつつも、「現場から変えていこう」という前向きな視点と情熱を常に持ち合わせているように感じます。

ありがとうございます。これからの学校現場のキーワードは、一人一人の「当事者意識」だと思っています。学校関係者は「学校改革は校長や教委がすべきこと」「文科省が規制緩和しなければ、何もできない」などとつい思い込みがちですが、実はそうでないこともたくさんあります。現場の一人一人が「自分に何ができるんだろう」と考え、行動に移していくことが肝心です。

学校のキーワードは「一人一人の当事者意識」と語る小林理事長(UWC ISAK提供)

現場の先生が行動することには、二つの効果があると思います。一つ目は、行動することによって、学校そのものが変わる可能性があること。二つ目は、チャレンジする先生の背中を見て、子供たちが挑戦することの意義を学ぶことです。

だからこそ、若手・中堅の先生方がもっとチャレンジすることができて、それをベテランの先生方がサポートしてくださるような環境があればよいですよね。経験値の違いも一種の多様性であり、学校には多様な価値観があるはずです。経験が浅いからこそ見える世界があると、信じてみてください。若い先生の意見を「何言っているの? 10年早いよ」とつぶすのではなく、「そう見えているんだ」と面白がって受け入れられる学校が増えれば、少しずつ前進していけるのではないでしょうか。

一人一人の先生が改革の当事者になれば、現場から日本の教育をもっとよい方向に変えられると思います。

(板井海奈)

【プロフィール】

小林りん(こばやし・りん) ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事。経団連から全額奨学金を受けて、カナダの全寮制高校に留学。そのとき、メキシコで圧倒的な貧困を目の当たりにする。その原体験から、大学では開発経済を学び、UNICEFプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在。ストリートチルドレンの非公式教育に携わるうち、リーダーシップ教育の必要性を痛感する。帰国後、6年の準備期間を経て、2014年に軽井沢で全寮制国際高校を開校。17年には世界で17校目となるユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC) へ加盟し、ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンへ改名。同校は80カ国以上から集まる生徒の7割に奨学金を給付している。東京大学 経済学部卒業、スタンフォード大学 教育学部修士課程修了。12年に世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ」、13年に日経ビジネス「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」、17年 にイエール大学「イエール・グリーンバーグ・ワールド・フェロー」、19年にErnst & Young「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2019ジャパン 大賞」など受賞多数。

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