GIGAスクール起動 学校は混乱を乗り切れるか

コロナ禍で大幅な前倒しが決まり、今年度から本格的に始動したGIGAスクール構想。国をあげてICT活用を後押しすることで、自治体間格差を是正していくことが期待される。ただ現状、導入期の学校現場を見ると、自治体や学校、さらには教員によって見過ごせないほどの温度差がある。端末や周辺設備の整備、教員のICTスキルやルール作りなどに多層的な格差が生じ、混乱の様相を呈している学校も少なくない。この状況を乗り越え、適切な運用につなげていけるのか。現場の教員の声から進むべき道を探る。


すでに活用状況に大きな差

「今までこの分野については、先進的な自治体と、なかなかハード面での整備が追い付かない、あるいは指導者が不足するというような格差が生じていた。これを国全体で底上げをしていこう、というのが今回のGIGAスクールの大きな概念」――。萩生田光一文科相は昨年2月14日、GIGAスクール構想についてこう説明した。

コロナ前の公立学校の教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数(出所:文科省「令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」)

コロナ前の昨年3月末時点での、全国の公立学校を対象とした文科省の調査によれば、自治体間の差は歴然としていた。全国平均では1台を4.9人で使う計算だが、最も整備の進んだ佐賀県では1.8人だったのに対し、埼玉県、愛知県、千葉県では6.6人。文科省も「全国で子供たちがひとしく教育を受けられるよう、令和時代のスタンダードな学校像として、全国一斉のICT環境整備が急務」(2019年度『文部科学白書』)と指摘していた。

GIGAスクール端末の整備完了時期(出所:文科省「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備の進捗状況について 速報値」)

とはいえ、1人1台端末の導入期である現在はまだ、さまざまな面で格差が生じているのが実態だ。まず端末の導入について、文科省の集計よれば、2019年度までに早々に導入を完了した23自治体がある一方で、約半数は年度末の整備となった。さらに43自治体は20年度中に完了せず、うち22自治体は2学期以降にずれ込む。

教育新聞は4月上旬に教員を対象としたウェブアンケートを行い、学校に端末が届いた後、実際にどのように使われているのかどうかを調べた。回答した国公私立の小中学校教員351人のうち、4月1日の導入状況で最も多かったのは「端末が届いたが、児童生徒にまだ配布していない」(37.3%)。「端末がまだ学校に届いていない」を含めると、子供がまだ端末を手にしていないと回答した教員が47.1%に上った。

一方で端末が届き「授業で日常的に活用している」「授業で時々活用している」と回答したのは31.1%。ウェブ上で回答を募った本アンケートの性質上、ICT活用への意識が高い教員が多く回答する傾向はあるものの、まだ端末を手にすらしていない子供たちと、授業で日常的に活用している子供たちでは、すでに大きな差が生じている可能性は否めない。

紙文化の学校に異動

「とりあえず、充電保管庫に入っているということは分かった。前の学年で使っていた場所のままで……」。東海地方の公立小教諭は今年度、自治体をまたいで新たな学校に異動したが、異動先の学校で端末の使用状況がつかめず困惑した。端末整備は前年度に完了しているが、いまだに授業などで活用できる状況にはなっていないという。

児童は「(充電保管庫に)入っているけれど、使わないの?」と聞いてくるが、「先生たちの研修が済んでいないので難しい」。以前の小学校では、ロイロノートを使って児童同士でメッセージを送り合うなどの活動を授業で行っていたという。「子供たちが端末に触れる時間や機会を確保するのは非常に大事」と、その効果を実感していた。

この教諭は今回の異動で「地域や教員による温度差を感じた」と話す。「今の学校は紙文化。タブレットでぱっと(資料を)映したら準備も楽に済むのに、と感じることもあるが、(紙の)コピーで対応している。そもそも教員用の端末がまだなくて、授業では使えない」という。パスワードの管理方法も前の学校とは異なり「所変われば、とはまさにこのこと」と戸惑いを隠せない。

自治体間や学校間の差にとどまらず、教員間でも差が大きい。教育新聞のアンケートでは、「教員の間、教科の間で意見に違いがある」(都内/私立中教諭・50代)、「学年によって比較的自由に使わせている学年と、普段は充電保管庫に眠らせている学年とで差がある。教育委員会は基本的に自由に使わせたくない方針のようだが、担任裁量のところが大きい」(近畿/公立小教諭・40代)と、教員間の差を指摘する声が少なからず聞かれた。

「全員一律である程度使いこなせるように、土台となる基本操作を指導できないと、次年度以降の授業活用で、毎年積み残しの対応に追われ続けることになる」――。そう懸念するのは近畿地方の公立小でICT担当を務める教諭だ。

「例えば3クラスのうち1クラスで端末をほとんど使っていないとすれば、次年度には、(クラス替えした)新しいクラスの3分の1の子供は使い方が分からない、ということも起こりうる。そうすると困るのは次の担任。授業でやろうと思ったことができない、基本的な指導の時間が改めて必要となるなど、苦労することになる」

この教諭はICT担当として校内の教員の支援を担う中、校内の温度差を実感した。「使わせたい教員と、トラブルを懸念する教員との間でルールの方針に差がある。どちらの言い分も分かるが、まずは使い続けないと慣れない。教員の許可を得て使うなど最低限のルールを児童にしっかり守らせるのが、落としどころではないかと考えている」。

また校内でICT推進のための組織を立ち上げ、毎月、教材や事例の共有をしながら、来年度以降の指針を作る取り組みを始めた。「数年もすれば端末に不具合も出る。その時になって全く活用していなかったとしたら、行政や保護者に費用負担を求めることができるだろうか」。

高校でも多様な課題

「表現力を養うためにプレゼン資料を作る、小説の感想をリアルタイムでシェアして深読みしていく、といった活動をしてみたい」。都内の私立高校で国語を教える教諭は、1人1台端末でやりたいことを次々と挙げる。もともとICT活用に抵抗はないタイプで、学外の研修会や学会誌を通じて実践例を学んでいるという。

ただ問題は、1人1台端末の整備のめどが立たないことだ。現状は専任教員用に整備された端末を使って、プロジェクターに画面を投影しながら文章を読み解くプロセスを解説するといった授業を行っている。「正直にいえばもどかしさはある。ICTだけにお金をかけられるわけではないので致し方ないとは思うが、早く1人1台を実現してほしい」。

この教諭の学校では教員の指示のもと、生徒個人のスマートフォンを使うことを許可している。ただ授業では使用せず、資料やプリント、アンケートなどを配信するなど「フォローアップの側面で使うことが多い」という。

今回のGIGAスクール構想では、高校は端末整備の対象となっていないが、文科省の調査によれば、47都道府県のうち42自治体が1人1台の整備を目指す。費用負担については設置者負担が16自治体、保護者負担が15自治体、検討中が11自治体となっている。

教育新聞のアンケートでは、高校教員97人のうち約7割が、1人1台端末環境がすでに実現していると回答。うち半数程度が、整備費用を保護者が負担する形を取っていると回答した。保護者負担での端末整備には、個人の端末を持ち込む方法、学校が機種を指定して保護者が購入する方法などがある。

「いわゆる教育困難校では、授業中の遊び道具を与えるだけでまったくもって効果がありません」。教育新聞のアンケートでそう訴えたのは中国地方の公立高教諭だ。改めて話を聞くと、昨年度まで生徒個人のスマートフォン持ち込みを禁止していたが、今年度から授業などに使うことが許可され、一部の学年で「1人1台環境」は実現しているという。

とはいえ生徒個人のスマートフォンでは「一部の生徒が授業に集中できず、(私用で使っているアプリなどの)通知が届いて、関係のない機能を使ってしまう。そういう子を放っておくわけにもいかず、全員足並みをそろえて先に進むのが難しくなっている」という。生徒の端末がそれぞれ異なるため、「ファイルが開けない」などのトラブルに対応するのにも時間がかかってしまう。

この教諭は「推進校の事例を見ると『やってみたい』とも思うが、自分の学校ではできそうもない」とこぼす。「校内にICTに詳しい者がおらず、ICT支援員のサポートも足りていない。先進事例だけでなく、いろいろな事例が知りたい。自分はICT活用に反対というわけではない。自分の学校でどういう現実的な使い方があるのか、試行錯誤している状況だ」という。

教科・単元別の活用事例が知りたい
学校現場から聞かれた1人1台環境の導入に関する声

今回、教育新聞がアンケートや取材を通して聞こえてきた学校現場の声からは、現状の端末活用状況が極めて多様であり、学校や教員の認識に大きな差があることが浮き彫りになった。端末が届いてもやむを得ず充電保管庫に眠らせているだけの学校で、活用を軌道に乗せていくためには、何が必要なのだろうか。

端末や周辺機材の整備、支援員の配置など、予算措置が必要となる部分に加え、多くの教員が求めていたのは「ICTを活用した取り組み事例が、教科書の単元ごとに閲覧・参考にできるような全国的なシステムがあると普及が進むと思う」(都内/私立中教諭・50代)、「教科書を使っての学習の、どの部分をタブレットで行えば教育効果が上がるのか、たくさんの事例が知りたい」(近畿/公立小教諭・30代)など、より具体的な教科別・単元別の活用事例を共有する機会だ。

また「端末利用のルールをどのようにしたらよいのか、その事例を知りたい。また、朝の会でどのように使うとよいか知りたい」(南関東/公立小管理職・50代)など活用シーン別の情報を具体的に求める声もあった。また「良い事例だけで導入を進められると、課題を多く抱えた学校で大変困ります」(中国/公立高教諭・20代)など、さまざまな学校の実情を考慮する必要性を訴える声もあった。

もう一つは、ICT活用が教員の負担感につながっている現状の打開だ。教育新聞のアンケートでは「あまり活用したくない、大変なので」(南関東/公立高教諭・30代)という本音も漏れた。この4月には新年度の準備とGIGAスクール端末の準備が重なり、かなりの長時間労働を強いられた教員もいたようだ。

「教員の意識を高める必要を感じている。校内でもさまざまな取り組みをしているが、多忙なせいか、やろうという姿が見えない。社会の変化を感じ、質の高い新しい教育について考えてもらいたい。そのために精神的、時間的な余裕を作る取り組みをしている」(近畿/公立小教諭・30代)という声から分かるように、まずは教員の負担感を解消し、変化を前向きに捉える余裕を取り戻す必要があるのかもしれない。

(秦さわみ)