【小林りん氏】 10カ国の教師が集う職員室

米国、インド、スウェーデン…。約8割の教員を世界10カ国から迎え入れている日本初の全寮制の国際高校「ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン(UWC ISAK)」。国籍、文化、生活様式、教育観など多様な背景を持つ人たちが集うこの学校で、教職員たちはどのような教育活動を展開しているのだろうか。世界各国の多様な教師と共に学びをつくる同校の小林理事長に、これからの時代に求められる学校像や教師像について聞いた。(全3回の最終回)

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8割の教員が海外から来日
――UWC ISAKには、どのような教員が勤務しているのでしょうか。

教職員は現在62人いて、このうち30人ほどが教員として教壇に立っています。そのうち約8割が海外から来ています。国籍で言えば、米国、英国、オーストラリア、インド、スウェーデン、カナダ、スペインなど、日本を含め10カ国に上ります。本校の募集案内を聞きつけて、世界各国から応募があります。

海外から来ている教職員の年代のボリュームゾーンは30代と50代です。40代が少ない理由は、この世代は小中学生のお子さんがいる方が多く、なかなか日本に滞在しづらい状況があるからです。

開校当初は採用倍率が10倍ほどでしたが、3年後は30倍、5年目以降は教科によりますが50~100倍の倍率があります。そうした応募の中から、私たちの学校の在り方やミッション、生徒への接し方などについて、心の底から共鳴してくれた教員だけを選抜しています。

――文化の違う世界各国の教員を一つの基準で評価し、選抜するのは大変なように思います。

オンラインでインタビューに応じる小林理事長

教師としての教える技術は、トラックレコード(過去の実績、履歴)を見ればある程度は分かります。でも、本校の哲学や理念と、その先生の教育観がフィットするかは、実際に本校に来てみないと分かりません。その点は、他の多くの学校と同じです。

日本の学校は基本的に終身雇用制を敷いていますが、本校は2年契約制をとっています。そういう意味では、お互いの認識のずれが発生した場合、軌道修正しやすい環境にあるのかもしれません。

――日本人の教員と、海外出身の教員で違いを感じることはありますか。

特に違いは感じていません。文化の違いよりも、先ほど話した学校の理念に共鳴できるかによって、教員としてのパフォーマンスが変わるように思います。

日本人の教師であっても、生徒のオーナーシップや当事者意識を大切にできる人はいるし、海外出身の教師であってもできない人はいます。ですので、国籍などで一概にはくくれません。

他人のアイデアに乗れるのも変革者
――社会に変革を起こす「チェンジメーカー」を育てられる教員を、どのように定義しますか。

自らが「チェンジメーカー」であることではないでしょうか。チェンジと言っても、大げさなことではありません。本校で言えば、特に開校当初からいる教員は、そもそも海の物とも山の物ともつかないこの学校に就職してくれた時点で、チェンジメーカーの一員です。

さらにチェンジメーカーと言っても、「1人目」や「旗振り役」である必要はないと思っています。海外の有名な動画で、こんなものがあります。晴天の公園であまりの気持ち良さに、とある人がTシャツを脱いで踊りだします。周りは困惑すると思いきや、少しためらった後に2人目、3人目と服を脱ぎだし、結果的に公園にいる全員が楽しそうに踊り始めます。この動画のように、誰かの面白そうなチャレンジを見て、「自分も一緒にやっちゃおう」と飛び込める人も、立派なチェンジメーカーだと思います。

UWC ISAKの授業風景(UWC ISAK提供)

本校の教員も何か新しいことをしようと呼び掛けると、すぐに手が挙がります。例えば、今回のコロナ禍で授業の大半がオンラインになったことを踏まえ、在校生以外にも週末にUWC ISAKの授業を体験してもらうオンライン専科「ISAKx」を立ち上げました。「家庭の事情で、来日できない」「奨学金をもらえなかった」などの理由で、本校で学べない世界各国の子供たちに、学びを届けることができています。このアイデアを出した時も、複数の教職員が「やろうやろう」と立ち上がってくれました。

学校の中にいても、現場レベルで刷新できることはたくさんあります。それは教員だけでなく、職員も同じです。本校の職員も「人事制度を見直そう」「この作業を効率化させよう」と、常に新しいことに挑戦し続けています。

子供たちだって大人をよく見ているので、日々「自分で問いを立てて、リスクを恐れずにチャレンジしよう」と言っている教職員自身が、アクションを起こしていないとすぐに分かります。大人がチェンジしていく姿を見せることが、子供たちにとっても大切なのです。

意欲ある教師を孤立させない仕組み
――公立の教員は、私立のように働く環境を選びにくい構造があります。意欲を持ち、挑戦する教員が孤立することも多いようです。

とてもよく分かります。ただそれについて嘆いたり、文句を言ったりするというよりは、「自分でどう変えていけるだろうか」と自問自答し、動き続けるしかないのだと思います。

学校法人とは別に、私がライフイズテックの水野雄介代表やLearning For Allの李炯植(り・ひょんしぎ)代表らと有志で立ち上げた「Hatch Edu」というコミュニティーがあります。「教育を孵化させる」という意味で、自分が何か行動を起こして、現場から教育を変えていこうとする人を後押しする団体です。実践的な研修プログラムの提供や事業立ち上げの側面支援をさせてもらっています。

支援対象はNPOや新たに設立される学校法人にとどまらず、学校の中で何かチャレンジしようとしている先生個人、あるいは自治体など幅広く設けています。こういったコミュニティーでの交流を通じ、新しい教育を志す人たちが互いに知識や苦労を共有できればいいと思っています。変革を起こそうとして結果的に孤立してしまい、めげたり、やめたりする先生もいらっしゃると聞きます。そういった人たちが集まり、同じ課題意識を持った人たちと出会い、具体的な課題解決に取り組める環境を用意できればと考えながら運営しています。

教育新聞の読者の先生方にも、もしご興味があれば、ぜひ参加していただけたらうれしいです。

教職のロマンを思い出してほしい
――学校を率いるリーダーとして、どのようなことに気を付けていますか。また昨今、国内でジェンダーギャップについて議論される機会が増えています。学校現場を見てみると、女性の管理職は増加しているものの、まだ低い割合にとどまっています。小林さんが、女性のリーダーとして教育現場で働く中で感じることを教えてください。

私は理事長ですので校長先生とはまた立場が違うと思いますが、どこまで現場に任せられるかについては、大変気に掛けています。人は任せられることで、例え失敗したとしても、成長すると信じているからです。

あとは、100%できているかは別として、ワークライフバランスを大切にしています。例えば、本校は夕方の5時になると自動的に留守番電話に切り替わります。そして、6時過ぎには職員室はほぼ無人です。

もちろん時には定時で仕事が終わらず、残業する人もいれば、学校から1人1台ずつ貸与しているラップトップPCを持ち帰って自宅で仕事をする人もいます。自宅で仕事をする人の場合、帰ってすぐに取り組む人もいれば、子供が就寝した後の時間や早朝に進める人もいて、それぞれが自身のライフサイクルに合わせて柔軟に業務に当たっています。

私自身は寝ても覚めても学校のことばかり考えていて、深夜の時間帯にメールを返信してしまうなど、まだまだ反省する点があります。ただ2人の子供を育てる母親でもあるので、運動会や子供の長期休みのときはしっかりと休暇をいただいています。もちろん私だけでなく学校全体としても、どの教職員が休暇を申請しても、当然のこととして受け入れる校風があります。働くにあたって「家族が最優先なのは当然」というコンセンサスが、全教職員で取れています。

そういう意識を学校や社会で共有していかなければ、子育て中の女性だけでなく、子育て中の男性、介護をしている方など、男女や年代にかかわらず誰もが長く働ける環境は築けないのではないでしょうか。

――最後に、現場の教職員に向けてメッセージをお願いします。

教師という職業は、本来はすごくロマンに満ちたものだと思います。子供たちの成長や、困難を乗り越えていく姿、挑戦をこんなに間近で見られるなんて、下手なドキュメンタリーを見るより、よっぽど感動を味わえると思います。私も最近、涙腺が緩んでいるのか、生徒の葛藤や成長を目にして感動して泣いてしまうことがよくあります。

一方、日本の多くの現場では、長時間労働や硬直化した職場環境のせいで、教師のクリエーティビティーを損ねる状況があるのも事実です。教師自身が学ぶ時間やモチベーションを持てず、自身を向上させることもできない。その結果、仕事に情熱を持っていたはずの人が次々と離脱しているとすれば、とても悲しいことです。

年代や立場を超えて、あらゆる人がもう一度、教師という仕事にどれだけロマンがあるかを思い出せるような環境を、学校現場に取り戻したいですね。そして、それが若い人たちにも伝わって、「先生って、面白そう」と次の世代が教師を目指せる時代が来ればいいですよね。

日本国内の教員採用選考の倍率は、過去最低を記録しています。それが何を意味するのか、私たち教育現場にいる一人一人が自分の胸に手を当てて考える必要があると思います。なぜ、若い人は教師を目指さないのか、その事実は何を語っているのか――。私たちは今こそ、真摯(しんし)な気持ちで問い直さなければなりません。

(板井海奈)

【プロフィール】

小林りん(こばやし・りん) ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事。経団連から全額奨学金を受けて、カナダの全寮制高校に留学。そのとき、メキシコで圧倒的な貧困を目の当たりにする。その原体験から、大学では開発経済を学び、UNICEFプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在。ストリートチルドレンの非公式教育に携わるうち、リーダーシップ教育の必要性を痛感する。帰国後、6年の準備期間を経て、2014年に軽井沢で全寮制国際高校を開校。17年には世界で17校目となるユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC) へ加盟し、ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンへ改名。同校は80カ国以上から集まる生徒の7割に奨学金を給付している。東京大学 経済学部卒業、スタンフォード大学 教育学部修士課程修了。12年に世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ」、13年に日経ビジネス「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」、17年 にイエール大学「イエール・グリーンバーグ・ワールド・フェロー」、19年にErnst & Young「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2019ジャパン 大賞」など受賞多数。

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