【社会へのパスポート】 校内完結しない学びとは

社会とつながって教育活動をすれば、いろいろな人にパスを出しながら生徒の可能性を伸ばすことができる――。この4月から札幌市教委で新たなスタートを切った西野功泰(よしやす)指導主事は、3月まで市立札幌大通高校(定時制、三部制、単位制)で、キャリア教育や課題解決型学習(PBL)、教科横断型学習など、数々の外部連携プロジェクトを実践し続けてきた。多くの実践のベースとなった同校の「ミツバチプロジェクト」と、社会とつながる教育実践の中で、西野氏が大切にしてきたものを聞いた。(全3回の第1回)

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校内で完結しない学びを
――3月まで勤務されていた市立札幌大通高校では、数々の外部連携プロジェクトに取り組まれました。その中でも、同校の代表的な教育実践となっている「ミツバチプロジェクト(以下ミツプロ)」について、詳しく教えてください。

2012年から始まったプロジェクトです。ミツバチの飼育から、蜂蜜などの商品開発、商品化するために必要な原価やコストの計算、ブランディング、パッケージデザイン、店舗レイアウト、接客技法、販売、広報に至るまで、学校内で一次産業から三次産業までをつくり出し、教科横断的に学ぶことができるPBLです。

市立札幌大通高校は単位制なので、例えば養蜂に関わりたい生徒は理科の「動物の生態」の授業を、販売や商品開発を経験したい生徒は「総合実践」という授業を履修し、広報に興味がある生徒は部活動として「メディア局」で活動するなどしています。

――かなり多岐にわたるPBLですが、最初から緻密にプログラムを設計していったのですか?

市内で養蜂をしていた教員が赴任してきて、当時の管理職が教育活動の一環として学校で「養蜂をしてみよう」という一言から始まりました。私は、生徒たちから「自分たちで何か地場の商品を開発したい」という声が上がっていたので、何か良い食材がないか探していたんです。学校が札幌市内にあるので、地場の商品を開発するのはなかなか難しいと考えていたのですが、ミツバチを学校で飼えば、蜂蜜を商品化するなど、発展的な学びができそうだと思い、生徒たちとの挑戦をスタートさせました。

近隣の住民に理解を得ることや、お金の管理などに関する教育委員会とのやりとりについては、管理職がかじ取りをして調整してくれました。でも実を言うと、「ミツバチプロジェクトを始めます」などと、教職員で会議や打ち合わせをしたことはないんです。

活動は、調理実習の食材を蜂蜜にしたり、デザインの授業を蜂蜜の瓶のラベルの授業にしたりと、もともとあった授業の内容に、教材としてミツバチや蜂蜜を入れていく形で自然と進んでいきました。そのため、ストレスなく教科横断型のプロジェクトにしていけたのだと思います。

出来上がった蜂蜜は、東京・銀座で毎年行われる、国内で購入できる蜂蜜の中から最もおいしい蜂蜜を決める「ハニー・オブ・ザ・イヤー」というコンテストで、国産部門の最優秀賞を受賞しました。それほどおいしい蜂蜜だったので、札幌の有名なシェフやパティシエなど、いろいろなお店とつながることができました。ラベルなどのデザインは、札幌で活躍するデザイナーのところに生徒たちが出向き、デザインとはどういうものなのかを一から学ぶなど、必ずその道のプロフェッショナルと協働することをセットにして取り組みました。

この蜂蜜を持っていくと、いろいろな方とつながることができるので、私は生徒に「蜂蜜は人とつながるパスポート」と言っていました。「ミツプロ」は、まさに校内で完結しない学び、本物の体験、多様な大人の価値観に触れることなどが全て実現できたPBLだったと思います。

こうしてプロフェッショナルと協働しながら学んでいくことで、生徒たちは「ミツプロ」に対して価値付けができるようになっていきました。例えば、毎年生徒たちが蜂蜜を販売している「さっぽろオータムフェスト」というイベントでのお客様に対する説明も、どんどん変化していきました。

 

数々の外部連携プロジェクトを実践してきた西野指導主事
学校と社会がつながれば、いろいろな人にパスが出せる
――生徒たちの説明が、どんな風に変わっていったのですか?

蜂蜜自体の説明は早々に終えて、学校の話をしだすようになったんです。自分たちの学校では、どんな意図を持って、どんな活動をしているのか。そういう話をお客様に対してするわけです。彼らが感じているプロジェクトの価値はそこなんだなと思うと、うれしかったですね。お客様に「お子さんはいますか? いるなら、うちの学校はお勧めですよ!」などと、学校を売り込んでいる生徒もいて驚きました。

PBLや探究型の学習は、ただ取り組めばいいわけではありません。そうした活動を何のためにやっているのか、活動を通してどんな力が付いたのかをちゃんと意味付けしたり、価値付けしたりしないと、生徒たちの血肉となることはないのです。

市立札幌大通高校では、年度末にプレゼンテーション大会があります。そこで生徒たちはこうした教育実践や学校行事、ボランティア活動、サークル活動などについて発表し、共有し、励まし合います。そうした場をつくることによって、自分たちがやってきたことの振り返りや価値付けができますし、次への一歩にもつながっていきます。

――こうした教育プログラムを実践してきたのは、どういう思いがあってのことですか。

目の前の生徒にとって、絶対に必要な活動だと思ったからです。

市立札幌大通高校は3部制の定時制高校で、不登校を経験した生徒や家庭環境が厳しい生徒、対人関係に苦手意識を持っているような生徒が、数多く通っています。

それが、この学校に来て、学校の外に出て人とつながりながら活動していくことで、いろいろな人と話せるようになったり、「楽しい」と言って主体的に動き出したりするなど、自分の居場所や活動する場を見つけて輝き出すようになっていきました。

そういう変化を見たときに、ここの生徒たちには校内で完結しない、外とつながった活動が必要なんだと思ったんです。

外とつながる活動で生徒たちが輝き出したという
――社会とつながる活動の中で、大切にしてきたことは何ですか。

どんな生徒もきっかけ次第で、いかようにもなれる可能性を持っています。勉強で伸びる子もいれば、部活動で輝く子も、生徒会活動で成長する子もいます。その意味で、きっかけやチャンスをつかむ場は、多様にあった方がいいと思うんです。

「人とつながって教育活動をするのは、大変じゃないですか?」といろいろな人に言われてきましたが、私はいろいろな人とつながりながら教育活動をすればするほど、どんどん楽になっていきました。

学校の教員だけで、あるいは親だけで、生徒を変えようとするのは不可能です。いろいろな人にパスを出せる方が、絶対に生徒の可能性を伸ばすことができます。

キャリア教育とは、自立する意欲を取り戻すこと
まず生徒の「過去の話」から聞くようにしていた
――市立札幌大通高校では、「キャリア教育」を重要視されていたそうですが、特にどんなことを意識していましたか。

最初から生徒に「将来、何になりたいか」を聞かないようにしていました。

キャリア教育や進路指導となると、どうしても「将来どうするのか」ということに意識がいきがちです。でも、「キャリア」の語源は、ラテン語で「轍(わだち)」(過去—現在—未来)なんだそうです。つまり、生徒が未来を考えるためには、自分の過去をしっかり見つめ直し、今できることを確認する時間が必要なのです。

だから、生徒と話すときには、まず過去の話から入ります。「そういうことが好きだったんだね」「それは大変だったね」と、一緒に過去を見つめた上で、今ここで何ができるのかを考えていくようにしていました。そうしたプロセスを経て、やっと「じゃあ、将来どんなことがやりたいの?」ということが考えられるようになるのだと思っています。

本当に家庭環境が厳しい生徒は、人を信用すること、人と関わることなど、いろんなものを奪われてしまっています。それでも学校に来ているのは、「現状をどうにかしたい」「何か自分を変えたい」という前向きな気持ちがあるからなのだと思います。

札幌市では、育成を目指す人間像として「自立した札幌人」を掲げていますが、世の中には自立しようとする意欲さえ奪われている子がたくさんいます。そうした意欲をもう一度取り戻す、回復させることが、市立札幌大通高校で大事にしてきた「キャリア教育」です。

そして、そうした視点は今後、どのような学校においても必要になってくるのではないかと思っています。

(松井聡美)

【プロフィール】

西野功泰(にしの・よしやす) 札幌市出身。今年4月から札幌市教育委員会学校教育部教育推進課の指導主事。大学卒業後、期限付き教諭として札幌市立高校の昼間定時制で2年間勤務し、その後、北海道立高校教員として正式採用され、釧路市の道立高校で3年間勤務。札幌市立高校の教員採用試験を受け直し、2009年から市立札幌大通高等学校の商業・情報科教諭として、12年間勤務した。同校では「チャレンジオータム」事務局長や、「高校生チャレンジグルメコンテスト」事務局長を兼任。「アニマドーレプロジェクト」や「札幌ラウンドテーブル」など、教育や地域に関わる企画に多数携わる。18年から20年まで福井大学大学院・福井大学・奈良女子大学・岐阜聖徳学園大学 連合教職開発研究科所属。

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