【社会へのパスポート】 まちと人に触れる学びを

この3月まで市立札幌大通高校の商業・情報科教諭として、教科横断型のPBL「ミツバチプロジェクト」や、キャリア探究学習「アニマドーレ」など、社会に開かれた教育課程を実現してきた西野功泰(よしやす)氏。4月からは札幌市教委の指導主事として、現場で培ってきたつながりを生かしながら、新しいミッションに挑んでいる。西野氏が取り組んできた「大人の学びの場」が札幌市にもたらしている効果、これから教育委員会で取り組んでいきたいことについて聞いた。(全3回の最終回)

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大人たちが学ぶ場をつくる
――生徒が社会とつながる教育実践だけでなく、大人が学ぶ場もたくさん立ち上げられてきました。それはどうしてですか?

今は、社会や地域とつながる教育活動を取り入れている学校も多いと思います。でも、地域と何か一緒にやりさえすれば、「キャリア教育」や「探究的な学び」になるのかというと、そうではありません。「何のためにやるのか」という、その学びの本質をつかんでいないと、はやりに乗っただけになってしまいます。

私自身もそうですが、多くの大人は自分が高校生の時に、社会や地域とつながった学びを経験していません。だからこそ、生徒たちの学びを支えるために、大人たちがそれを学ぶ場をつくる必要があると思ったのです。

こうした意図で2015年に始めたのが、「札幌ラウンドテーブル」です。教員はもちろん、研究者、企業人、大学生、保護者など、教育に興味関心を持つ幅広い人たちが集う公開研究会です。第1回目から100人以上の参加がありました。

生徒の学びを支えるための「大人の学び場」もつくってきた西野氏

教育関係者だけでなく、学校の教育実践を一緒にやってくれていた地域の方々や企業の方々が多く参加しているのが、「札幌ラウンドテーブル」の特徴です。その様子を見た道外からの参加者が、「なぜ札幌は、休みの日に、教育関係者以外の人がこのような研修会にこんなに出てくるんだ?」と驚いていました。同時に、「札幌の底力だね」とも言っていただき、それが本当にうれしかったですね。これが札幌の価値なのだと、改めて気付きました。

また、数年前から「サッポロ・コミュニティ・オブ・プラクティス」という勉強会も行っています。若手・中堅の教員によるコミュニティーを作って、そこに外部の人を徐々に取り込んでいきたいと思い、8校ある市立高校の先生に声を掛けて立ち上げました。

勉強会は、その時々で自分たちが学びたいこと、共有したいこと、深めたいことをテーマにしています。例えば、「SDGsを学ぶための教材開発」や「地域貢献人材を育成する学校教育を考える」といったテーマです。

連合教職大学院での学び直し
――2018年から20年まで、福井大学大学院・福井大学・奈良女子大学・岐阜聖徳学園大学連合教職大学院で学ばれたそうですね。

09年に札幌大通高校に赴任してから、ちょうど10年がたとうとしていた頃のことです。さまざまな取り組みを進める中で、周囲から注目していただいたり、評価をしていただいたりしていた一方で、自分の中に次の課題が出てきていました。

一つは、こうした取り組みをどうすれば継続できるかということ。そしてもう一つは、生徒たちの変容を理論的に説明できるようになるには、どうすればよいかということでした。

40歳になる前に教育について学び直したいとも常々思っていて、いろいろと大学院を調べていたところ、福井大学と奈良女子大学の先生から「連合教職大学院ができたよ」と教えていただきました。いま勤務している学校自体が研究課題になり、休職せずに所属校に勤務しながら学べるという点が、自分にとって理想的でした。

――研究テーマはどのようなことだったのですか?

「本物の体験とは何か」ということです。

これまで多くの学習プログラムを考え、実践してきましたが、大学院に入る前、指導教官からは「このままではイベント屋で終わってしまう」と指摘されました。「そうならないために、これまでやってきた実践を振り返り、自分の中に存在する揺るがない軸を再定義する必要がある」と指導いただいたのです。

大学院に入った後は、ただ単にこれまでの実践を振り返るだけではなく、理論書をしっかりと読み込み、それらの理論や実践を自分の実践と照らし合わせ、落とし込むということにひたすら取り組み、長期実践報告書を書き上げました。

「本物の体験」とは
――教職大学院での学びを経て、改めて「本物の体験」とはどのようなことだと考えていますか。

教職大学院では「本物の体験」について問い直した

以前は、疑似体験ではないビジネスや社会の実際を教育現場に取り入れることが、「本物の体験」だと考えていました。でも、いろいろな生徒や周りの教員と共に実践を重ねていく中で、「本物の体験」の質が変化していったと感じています。

同じきっかけを用意したとしても、そこから学び取っていくものは、生徒によって全く違います。ある生徒は人を信頼することを取り戻し、ある生徒は人と協働することを学び、ある生徒は人に貢献したいとの思いを抱くようになりました。

そうした生徒の変容を考えていくと、「本物の体験」とは、「人とつながり、生きること、生きていく力を身に付けていく学び」なのだと捉えています。

――勤務を続けながらの学び直しはかなりハードだったと思いますが、得られたものは大きかったのですね。

連合教職大学院には、校種を問わず全国から先生が集まっていました。そうした先生たちとつながれたことも、大きな財産となっています。

全国に仲間ができたことで、同僚は同じ職場の先生だけじゃなくて、つながっていれば、どこにいても一緒に仕事ができるということも学びました。

「これはどうなんだろう?」と悩んだときに、自校の同僚だけでなく、Zoomや電話を使って全国の仲間に相談できるようになり、ぐんと視野が広がった感じがあります。アドバイスをもらうだけでなく、その先生と一緒にプロジェクトを実践したり、お互いの学校の生徒をつないだりすることもできました。

「社会における学校の役割」という視点
――札幌市教委の指導主事としては今後、どのようなことに取り組んでいこうと考えていますか。

これから先、学校と地域とのつながりはますます重要になってくると思います。教員は職業柄、学校を中心に物事を考えがちです。でも、学校は社会の中に存在しています。だからこそ、「社会における学校の役割」という視点がもっと必要だと思っています。

札幌市で言うと、札幌市全体のまちづくりの視点を意識して、高校改革について思考を巡らせると、より良い方向性に向かっていけると思うんです。

札幌市教育委員会では高校改革に取り組む

まちづくりの一環として地域連携に市立高校が協働して取り組んだりすることも、市立高校の魅力化につながるし、市立高校がまちに必要だということにもつながるのではないかと考えています。

地方はそれぞれ問題を抱えています。今後は少子化もさらに深刻化します。だから、もっとまちにダイレクトに関わる若者が増えないと、そのまちの存続は難しくなってくると私は考えています。

小中高校生のうちから、まちに触れて、人に触れる。人に貢献し、人とつながることに意味を見いだすような学習活動が必要です。札幌市はそのポテンシャルを持っていると思うので、市立高校8校の先生方と共にしっかりと取り組んでいきたいと考えています。

――現場とも社会ともつながりながら、これからの札幌市の教育を創っていくのですね。

先日、外で打ち合わせがあり、そのお相手は市立札幌大通高校勤務の時からお世話になっている方々でした。職場が市教委に変わっても、また一緒に新しい挑戦ができる喜びをかみ締めています。

市内を移動していると、これまで一緒にお仕事をしてきた方々とばったり会うことがあります。そんなとき、「また一緒に何かしましょうね」などと温かい声を掛けていただくと、本当に良い街だなぁとうれしくなります。

そうした方たちと気持ち良く仕事をする上でも、とにかく勉強しなければならないことが山積みです。これから先、もっとまちと学校をつなげていきたい。教育委員会に入って、どんなことができるのか、さまざまな可能性を考え、挑戦していきたいと思っています。

(松井聡美)

【プロフィール】

西野功泰(にしの・よしやす) 札幌市出身。今年4月から札幌市教育委員会学校教育部教育推進課の指導主事。大学卒業後、期限付き教諭として札幌市立高校の昼間定時制で2年間勤務し、その後、北海道立高校教員として正式採用され、釧路市の道立高校で3年間勤務。札幌市立高校の教員採用試験を受け直し、2009年から市立札幌大通高等学校の商業・情報科教諭として、12年間勤務した。同校では「チャレンジオータム」事務局長や、「高校生チャレンジグルメコンテスト」事務局長を兼任。「アニマドーレプロジェクト」や「札幌ラウンドテーブル」など、教育や地域に関わる企画に多数携わる。18年から20年まで福井大学大学院・福井大学・奈良女子大学・岐阜聖徳学園大学 連合教職開発研究科所属。

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