子供の視力守るために 専門家が学校現場に求める対応

GIGAスクール構想のスタートで、最も心配されることの1つが、子供の視力低下への影響だ。文科省が毎年行っている調査では、児童生徒の視力の悪化は年々進んで過去最多を更新し、デジタル端末使用の増加で拍車が掛かる恐れがある。文科省は、GIGAスクール構想を前に児童生徒の目の健康への留意点を通知するとともに、今年度中に専門家の協力を得て特別の機器を使った児童生徒の近視の実態調査に乗り出す。子供たちの眼を守るために、学校現場や家庭では何が求められるのか。眼科の専門医などに必要な対策を聞いた。


子供たちの視力は過去最悪を更新

「幼稚園から低学年のころに近視になると進行しやすくなるといわれています。特に小さいお子さんや1年生位にはリーフレットなどを使って、先生方に気を付けていただきたい」。文科省の講堂に眼科医や学校関係者が集まって4月19日に開かれた「子供達の目の健康等に関する懇談会」。日本眼科医会の柏井真理子常任理事は、児童生徒の視力悪化を防ぐための対応を呼び掛けた。

児童生徒の視力の40年前との比較

文科省が毎年行っている学校保健統計調査によると、最新の2019年度の調査で、裸眼視力が1.0未満の児童生徒の割合は小学生34.57%、中学生57.47%、高校生67.64%に上った。40年前の1979年度は小学生17.91%、中学生35.19%、高校生53.02%で、いずれも大きく増えて小中高とも過去最多を更新した。

「眼軸長」検査で近視の深刻化判明 文科省が全国調査へ

さらに近視の実態が深刻化していることを示すデータも明らかになっている。京都市の京都教育大学附属京都小中学校で、昨年春のコロナ禍による一斉休校後の6月、児童生徒の視力検査を行ったところ、視力が0.7未満の子供が前年の17%から23%に増えていた。学校は「休校中にオンラインが増えて、外に出る機会が少なかったことが影響したのかもしれない」と推測し、より近視の実態を詳しく調べるため、日本眼科医会やNHKなどの協力で、「眼軸長」の測定による調査を実施した。

眼球の形が長くなり、ピントが網膜の手前になっている状態(日本眼科医会HP「目についての健康情報」から)

眼軸とは、目の角膜から網膜までの長さで、成人で平均約24ミリといわれるが、近くを見続けると延びてしまい、ピントが手前であって遠くが見えにくくなる。特殊な装置で子供たちの眼軸長を調べた結果、近視と判定された児童は54%と半数以上に上り、通常の視力検査の2倍以上となった。学校では、このデータを教職員や保護者と共有し、視力悪化を防ぐ対策に乗り出している。

文科省はこうした事例も踏まえて今年度、専門家の協力を得て全国で小学1年生から中学3年生まで各学年1000人程度、計約9000人を対象に、眼軸長も含めた近視の実態調査に乗り出している。さらに子供たちの屋外での活動状況などライフスタイルも合わせて調査し、近視との関連も調べる。文科省健康教育・食育課は「眼軸長による近視など視力悪化の実態を詳しく把握した上で、専門家のアドバイスもいただきながら有効な対策を検討したい」と話している。

GIGAスクール本格化前に全国に通知

文科省は今年3月、GIGAスクール構想の開始を前に全国の都道府県教委などに出した通知に、「児童生徒の眼の健康などに関する注意事項」を盛り込んだ。

この中で、特に端末利用時の目と画面との距離や定期的な休憩、明るさの調整などについて注意を促している。具体的には、▽目と端末の画面との距離を30センチ以上離す▽30分に1回は、20秒以上、画面から目を離して遠くを見るなどして目を休ませる▽画面の反射などを防止するために、画面の角度や明るさを調整する――などと提示している。

眼科医ら専門家も対策に動き出す

児童生徒の視力低下を防ごうと啓発活動に取り組む日本眼科医会は、GIGAスクール構想の開始を前に今年2月、全国の眼科学校医に向けて「眼科学校医が知っておくべき 25 のポイント」をまとめ、都道府県眼科医会に通知した。

丸山耕一・日本眼科医会理事

作業に当たった丸山耕一理事は「デジタル端末による目の健康への影響にもともと危惧はあったが、コロナ禍でGIGAスクール構想が予想以上に前倒しとなった。早急に何とかしなければいけないと25のポイントを作成し、学校健診や相談などにあたる眼科学校医に伝えることになった」と語る。

A4で11ページに上るこの文書では、GIGAスクール構想に伴うデジタル端末使用の急速な拡大や、学習者用デジタル教科書の導入が進められている背景などを説明した上で、「学校眼科医が知っておくべきデジタル教科書の使い方」などと、基本的な留意点を示している。この中では文科省の通知にもあった、椅子に座る「姿勢」や、30分に1回、20秒以上目を休ませるといった基本事項とともに、▽デジタル端末からの強い光が睡眠障害をきたす恐れがあることから、就寝前1時間以内の使用を控える▽近視の抑制効果が期待される屋外活動を奨励し、熱中症などに注意しながら休日も屋外で過ごす時間をつくるよう勧める――などと、より具体的な内容を盛り込んでいる。

また、米国眼科学会議が推奨する「20-20-20ルール」にも触れている。これは、連続して20分間デジタル端末画面を見たら20フィート(約6メートル)離れたところを20秒間眺める、という決まり事で、国際的にも同様の取り組みが進められていることを参考に例示した。

目の健康を啓発するマンガ「ギガっこデジたん!」(©日本眼科医会)から

さらに子供たちや保護者に分かりやすく伝えようと、3月末に同会ホームページ上に、目の健康についてマンガで伝える『ギガっこデジたん!』を掲載。端末画面を見る際の注意点などを5種類、A3判とA4判で制作した。ダウンロードとして学校などで活用してほしいと呼び掛けている。

見落としがちな「色のバリアフリー」にも配慮を

さらに丸山理事は、GIGAスクール構想に伴って、見落としがちな「色のバリアフリー」への配慮も訴える。日本人男性の20人に1人(約5%)、日本人女性の500人に1人(約0.2%)に色覚異常があるとされている。

児童生徒の色覚異常を巡っては、学校の対応が厳しく問われた例がある。北海道の道立高校で、パソコンの表計算ソフトを使った「情報」の授業中、色覚異常の影響で作業に手間取っていた男子生徒に教諭が「字が読めないのか。色盲か」などと発言したとして裁判となった。2018年、札幌地裁は「名誉を侵害する発言」だとして、北海道に対し30万円の賠償を命じた。この問題で生徒は色覚異常があることを周囲に伝えていなかったという。

こうしたことも踏まえ、丸山理事は「電子黒板ではさまざまな色が使えるし、子供たちも楽しい画面を作るためにカラフルにしようとすると思うが、先生方にはこうした事情も考慮して色の特性や色覚について正しい知識を持ち、適切な色を使用して、不用意な発言で児童生徒を傷つけることがないよう気を付けていただきたい」と強調する。

「ブルーライトカット眼鏡」の装用も慎重に

学校現場でのICT導入は急速に進み、教育のICT化についてはマーケットも拡大している。これについても丸山理事は懸念を募らせる。

「ICT教育に関するイベントに足を運んでみると、健康面への話がほとんど出てこない。やはり私たちが発信していく必要があると感じる」

4月14日、日本眼科医会など6団体は共同で「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」を発表した。ブルーライトカット眼鏡については、子供の眼球への障害を予防するなどとインターネットなどで㏚されているが、6団体は「一定の効果が見込まれる可能性はあるが、エビデンスに乏しい点があり、いくつかの問題がある」と指摘。

この中で▽小児にとって太陽光は心身の発育に好影響を与えるが、十分な太陽光を浴びない場合、近視進行のリスクが高まる▽米国の科学誌に掲載された比較試験では、ブルーライト眼鏡による眼精疲労軽減の効果がないことが報告されている▽体内時計を考慮した場合、就寝前ならともかく、日中にブルーライト眼鏡をあえて装用する有用性は根拠にかける――など挙げ、「偏りのない情報と充分な科学的根拠に基づいて、小児の目の健康を守っていただきたい」としている。

丸山理事は「さまざまな情報がある中で、学校の先生方もガイドブックや通知を見ながら四苦八苦されていると思うが、子供の視力を守るための注意点を保護者にも共有してもらい取り組んでほしい。日本眼科医会としても、乳幼児から成人まで目の健康について、しっかり啓発を続けていきたい」と強調している。

「夜間は使用制限」「教室に視力検査表」など自治体も工夫
東京都葛飾区が児童生徒向けに作成した「ICT活用ルール」から

国や眼科医組織が視力低下対策を進める中、学校現場で独自に対策を進める動きもある。東京都葛飾区は子供たちの健康に配慮して、午後10時から午前6時までタブレット端末を使用できないように制限をかけた。また、今年3月、全小中学校に向けて作成した「ICT活用ルール」で、「4つの約束ごと」の1つとして健康に気を付けることを強調。目を休ませながら使うことや、端末を使う時間について家族とよく話し合うことなどを呼び掛けている。

また、神奈川県大和市は、市内の公立小中学校28校の全470クラスに視力検査表を配布することを決めた。各教室に貼り出してもらい、児童みずから自分の眼の状態をチェックするという取り組みだ。同市では、視力1.0未満の児童が全国平均より多かったことから独自に考えたという。同市教委は「子供たちに活用してほしい。日常的に自分の眼の状態を把握してもらいたい」と話す。

(山田博史)