【消滅する教科】公立と私立協働で学びの可能性を広げる

「公立と私立、それぞれの強みを生かして協働で授業をデザインすれば、学びの可能性が広がるかもしれない」と、東海大学付属静岡翔洋小学校の音楽専科、塚本伸一教諭は話す。私立の教員ながら、公立の授業実践に興味を持ち、協働授業や合同音楽会も企画してきた。一方で、音楽を「消滅する教科」と憂慮し、実技教科の授業時数減少やその位置付けに危機感を募らせる。公立と私立の垣根を越えて実践を続ける塚本教諭に、新たな学びの可能性と実技教科の未来について聞いた。(全3回の最終回)

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公立校との交流で受けた刺激
――革新的な実践について、「私立だからできる」「専科だからできる」などと指摘されることはなかったのでしょうか。

もちろんありました。一方で、私は以前から公立学校の授業実践に興味があり、機会を見つけては公立の先生たちと交流してきました。

音楽科には、公立の先生を中心にした「全日本音楽教育研究会」という組織があります。小学校に赴任した年に、どうしても入会したくて、門をたたきました。私立の教員が突然行ったので最初は驚かれましたが、何とか入会することができました。

そこで私が知りたかったのは、公立と私立の「違いの正体」です。例えばその頃、勤務校で授業に使える機材と言えば、プロジェクターと書画カメラだけでした。しかし公立の先生に聞いてみると、「それがあるだけで素晴らしい」とうらやましがられたのです。設備が整っていない中でも、さまざまな工夫を取り入れ、授業実践されている先生もいて、刺激を受けました。

また、ピアノをはじめとする楽器の演奏レベルにも差がありました。首都圏の公立学校には専科教員も配置され、専門知識が豊富でピアノの演奏技術も高い先生がいる地域もあります。一方で、地方はそうとは限らず、本校のある静岡県の公立学校も、専科教員がほとんど配置されていません。他の先生より少しピアノが弾けるからといった理由だけで、音楽科を任される先生もいるでしょう。中にはピアノが弾けない先生もいて、教材のCDを流して授業をこなすという話も聞いたことがあります。全国各地の学校で、そんなギリギリの状態で音楽の授業が展開されているのです。

――公立学校の授業にも足を運んでいると聞きました。
オンラインでインタビューに応じる塚本教諭

本校のある三保半島には、公立小学校が2校あります。私は公立の授業事情が知りたくて、定期的にその2校の授業にお邪魔しました。さらに、3校合同での音楽会も開催しました。その取り組みの中で、受けた刺激はかなり大きいものがあります。

音楽会の事前練習の際は、私が公立校に伺って、児童を指導することがありました。私は専科教員で音楽しか知りません。当然、ピアノも弾けますし、同じ単元でも一般の先生よりも音楽的な切り口で説明できます。

もちろん、小学校の教科書レベルであれば、一般の先生でも教えることはできるでしょう。ただ教科書の内容よりも、さらに踏み込んだことを教えるには、専門的に学んできた教員の方が強いだろうと思っていました。しかし、公立校で思い知ったのは、自分に足りないところでした。先生たちが児童と会話している様子を見ていても、距離の取り方や声掛けの仕方が、本当に上手だったのです。その他にも、保護者との付き合い方や、地域との関係性のつくり方など、教師として大切なことの数々を学ばせていただきました。

公・私の垣根を超え、協働する
――そもそも、どうして公立学校に興味を持ったのでしょうか。

音楽をはじめとする実技教科の捉え方について、もう一度問い直したいと考えたからです。

全国にある小学校のほとんどが公立です。わずか1%ほどに過ぎない私立の教員がどんなに偉そうなことを言っても、音楽の授業や実技教科の在り方は変わりません。公立で行われている教育が変わらない限り、変わり得ないのです。

さらに言えば、公立の音楽が変わらない限り、音楽を学校で学ぶ意義はどんどん薄まり、授業時数も減っていくのではないでしょうか。実技教科は、音楽会や発表会など成果発表のための教科という位置付けから、何とか脱しなければいけません。このままだと特別活動のような位置付けとなり、教科として学ぶ意義はないものになってしまいます。

私がよく自問自答している「音楽は消滅するべき教科か」という問いは、自戒の念を込めた、究極のアンチテーゼなんです。

――この危機を脱するためには、どうすればよいのでしょうか。

私立と公立が垣根を越えて、お互いの強みを生かし合いながら、学びをつくっていけるようになることが理想です。

私自身、もっと公立の先生と意見交換できる場を増やしたいですし、それぞれの授業にもっとフラットに出入りできて、結果的にお互いの学校の児童がさらに深い学びを展開できるような環境をつくっていきたいと考えています。

CM音楽で児童の興味を引く
――音楽の授業に苦手意識を持つ児童には、どんな働き掛けをしていますか。明日から取り入れられる実践があれば、教えてください。
端末を活用して、個別に音楽鑑賞する児童ら(塚本教諭提供)

子供たちは日々、YouTubeを見たり、アップルミュージックを利用したりしています。つまり、日常生活で聴く音楽は大好きなんです。最近は教科書にも、子供たちになじみのあるポップス曲などが、少しずつ入るようになりました。でも、もっと子供が興味を持ちやすいように間口を広げてあげる必要があると感じます。

児童を楽しませるために、私が授業で取り入れているのは、CM音楽です。実は、学生時代は音楽学全般を学んできたのですが、中でもCM音楽や広告音楽が専門だったんです。

授業の合間にピアノで、おなじみのCMのワンフレーズを弾きます。すると児童から「〇〇のCMの曲だ!」と声が上がり、大盛り上がりです。

普段聞いている音楽を教材として取り上げたときの子供の喜びは、大人の想像以上です。音楽の授業が好きな子は、ピアノを習っているなど、もともと得意な子が多いんです。でも、CM曲を取り上げ始めてから、普段は授業に興味を示さない児童が熱く語り始めるということもありました。音楽の授業に新たな切り口が出来て、取り組みやすくなったのでしょう。

児童が楽しくなる、音楽を好きになるような工夫は、今後も怠らないようにしていきたいと考えています。

教師も動画を撮り、授業研究
――授業実践を研究するにあたって、何か日課にしていることはありますか。
児童が授業中にロイロノートを使って学習した様子(塚本教諭提供)

実は、非公開ですが自分のYouTubeチャンネルに授業動画をアップしているんです。今のところ他人に公開する予定はありませんが、そうやって自分のノウハウを記録して、研究するようにしています。もし私に何かあって授業ができなくなっても、この動画を流せば授業は続けられますしね。

授業指導案のように紙で記録することもできますが、文章だと読むときの気持ちによって、受け取り方が変わってくるように思います。その点、動画で残しておくと、表情や声のトーンなど雰囲気ごと記録できて、後から見返したときに活用しやすいのではないかと思います。

今撮りためている動画は、いつか授業で流してもいいかなと思っています。音楽室で児童と一緒に見て、「当時の先生はこう言っているけど、今の気持ちは違うよ。どう変わったと思う?」なんて、児童と言葉のキャッチボールをしてみても面白いかもしれません。

授業は実験。これからも音楽を通して、子供たちと共に考えられる授業をつくり続けていきます。

(板井海奈)

【プロフィール】

塚本伸一(つかもと・しんいち) 東海大学付属静岡翔洋小学校、音楽専科教諭。児童募集対策室長代行。1969年生まれ。国立音楽大学卒。静岡大学大学院修了。静岡産業大学、静岡学園短期大学、島田市立看護専門学校講師、東海大学付属静岡翔洋高等学校教諭を経て、2013年から現職。ロイロ認定ティーチャー。ICTを活用したさまざまな授業実践を提案し、全国の研究発表会やワークショップなどで講演する。

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