高校再生の仕掛け人 課題先進地の高校の未来

課題が山積する北海道鹿追高校で、学校を「地域の最高学府」にするべく改革を推し進めてきた俵谷俊彦校長。最優先で整備したICT環境を生かし、地域をフィールドにした探究的な学びを展開することで、さまざまなインパクトをもたらしている。俵谷校長へのインタビューを通じて、探究学習によって学校や地域が活性化していくプロセスを追った。(全3回の第2回)

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生徒の探究をサポートするプロボノメンター
――校長の公募の際に提案した「鹿追創生アカデミア構想」で、今、鹿追高校ではどんなことを始めているのでしょうか。

俵谷校長(本人提供)

私が鹿追高校に着任して2年目の2020年度から、鹿追創生アカデミア構想に基づく取り組みが本格始動しました。探究学習では、地域に関する観光や環境、看護医療、農業、スポーツ、防災、行政、教育、企業、グローバル、アート・デザインなどのさまざまなカテゴリーから、生徒たちは自分がやりたいものを選びます。

実践に関わるのは教員や地域の住民だけではないところが特徴で、生徒はICTを使っていろいろな場所にいる専門家とつながって、指導を受けます。指導してくれる人たちのことを「鹿追創生プロボノメンター」と呼んでいます。「プロボノメンター」は、ボランティアで自分たちの専門的な知見を生徒に提供してくれる存在です。現時点で15人ほどがいて、いずれの方も教員がコンセプトを説明したら、二つ返事で賛同していただけました。

生徒は、例えばヨーグルトの上澄みで、未利用資源である「ホエー」を活用したレシピ開発に取り組んだり、町内の交通機関の課題を解決するために無人自動車の導入を提案したり、eスポーツの導入を提案したりしています。本来なら町民ホールを使って町の人たちに向けてプレゼンさせたかったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大もあって、20年度はZoomによる発表となってしまいました。

どの生徒も、探究学習にはやりがいを持って取り組んだようです。

鹿追高校を地域の最高学府に
――地方の高校の中には、少子化や過疎化で存続の危機に瀕しているところも少なくありません。どのように生き残りを図っていけばよいでしょうか。

プロボノメンターとの交流から探究する視野を広げる生徒(俵谷校長提供)

存続のために学校の魅力化はもちろん必要ですが、それが学校にとって最優先のミッションではありません。やっぱり、生徒たちの能力をどうやって開花させるか、そこが第一でなければいけないと思います。

まだまだ私たちの研究と挑戦は続きます。探究学習もまだ1年しかやっていませんので、改善を重ねながら、生徒たちにもっと活躍してもらわないといけません。そうした子供たちの姿に大人が感化されて、学校や地域が変わろうとしていくのだと思います。

そうなるともう、大人が上から目線ではいられなくなります。前任校の北海道奥尻高校でも、この鹿追高校でもそれを感じました。

私も、この学校にいられるのは、延ばしてもらったとはいえ5年だけです。だから、休んでなんかいられません。常に動きながら、頭の中で構想を練ったり、情報を集めたりしている状況です。

地域の最高学府である鹿追高校が、大人と高校生が一緒に学ぶ場として、地域創生の核になる。ここを学びと発展のセンター、つまり、成長の場所にしたいんです。

探究的な学びを生み出すキーパーソン

「彼は本当にすごい」と、俵谷校長が絶大な信頼を寄せるのが、俵谷校長と同じタイミングで同校に着任した数学科の熊谷綾真(りょうま)教諭だ。熊谷教諭は鹿追創生アカデミア構想のコアである探究学習のカリキュラム開発を担当している。そんな熊谷教諭に、探究学習のデザインの仕方について聞いた。

――鹿追高校の探究学習は、どのように設計されたのでしょうか。

本校の探究学習は、生徒にどんな力を付けさせたいか、教員同士でブレーンストーミングを重ねながら、今の形にたどり着きました。新しい取り組みだったこともあり、当初は教員間で共通認識をつくるのが大変でした。しかし、1年やってみて「大変だから、もうやりたくない」という声は、教員の中からは聞こえてきません。むしろ「こういう学びは今の時代に必要だ」という声が多数です。生徒の成長をどの教員も実感しているのだと思います。

――探究を1年通してやってみて、どんなところに生徒の成長を感じますか。

生徒は、自分の興味関心からスタートして、頭の中で課題を見つけて、理由や根拠を考えたり、どうやって発表すれば効果的に伝わるかを工夫したりしています。教員が「これをやりなさい」と指示することは基本的になくて、自主的・主体的に取り組む姿勢が身に付いていると感じます。実は、1年間の探究学習が終わった後も、まだ自主的に活動を続けているグループがあって、そのことにも驚いています。

――プロボノメンターの方はどのように集めたのでしょうか。

プロボノメンターは、カテゴリーごとに候補者を出し、教員と校長で話し合って決定した後、一人ずつ打診していきました。提案をするとどの人も「いいですね、一緒にやりましょう」と言ってくださいます。プロボノメンターには、遠方の大学教授や企業の方もいれば、身近な地域の方もいます。各カテゴリーに一人ずつプロボノメンターがつき、生徒の課題解決を助けていきます。最初の現状分析と中間発表、そして最終発表の場には必ず参加していただき、オンラインや対面で生徒に助言をしてもらっています。鹿追高校はいろいろな人に支えられているということをしみじみ実感します。

――今後の探究学習の展開は、どのように考えているのでしょうか。

21年度から「国際探究コース」が設置され、その中で「鹿追イノベーション学」という授業が2年生と3年生で1単位ずつ設けられています。2年計画なので、今度は生徒たちが実際に行動していく「アクション」の段階まで持っていけたらいいなと考えています。コロナが収まれば「カナダ短期留学」も再開できるので、グローバルな視点も取り入れられると思います。

(藤井孝良)

【プロフィール】

俵谷俊彦(たわらや・としひこ) 北海道鹿追高校校長。専門は英語。2015年に北海道奥尻高校に教頭として赴任し、同校存続に向けて、奥尻島外からの受験生を呼び込むための教育改革「まなびじま奥尻プロジェクト」を展開して注目される。座右の銘は「不をとらえ先端を目指せ 人の喜び、のち、真の喜び」。

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