高校再生の仕掛け人 サスティナブルな学校改革

生徒数の減少という課題に直面している北海道鹿追高校。2019年4月に着任した俵谷俊彦校長がまず取り組んだのは、働き方改革と部活動改革だった。学校が抱えている課題をチャンスに変える、ユニークな手法にスポットライトを当てる。(全3回の最終回)

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無料のオンライン公設塾
――高い進学実績を支えていた「鹿ゼミ」がなくなったことが、生徒数の減少につながったとのことでしたが、着任当初、この課題とはどのように向き合ったのでしょうか。
俵谷校長(本人提供)

保護者からも高い評価を得ていた「鹿ゼミ」ですが、教員から見れば、勤務時間外の取り組みでした。部活動が終わった後の補習で、午後9時ごろまで学校に残っている。私が着任する前に「鹿ゼミ」は廃止されましたが、働き方改革の観点ではやむを得ない判断ですし、このやり方は持続可能な形ではなかったのだと思います。

私は、学校の働き方改革で一番必要なのは、構造を変えることだと思っています。鹿追高校で言えば、教員の勤務時間外でやっていた部活動と進学のための補習。この二つを教員の手から離さないといけない。そのための仕組みをつくるのが、校長としての私のミッションです。

廃止するのではなく、切り離すのであれば受け皿が必要で、そのためのコストも発生します。学校にもそんな予算はありませんので、鹿追町の協力は欠かせません。

そこで、「鹿ゼミ」に代わるものとして、町が中心になってオンラインによる無料の公設塾を21年度からスタートさせました。これは町にとっても、かなり思い切った挑戦です。これまで、学習塾があるのは人口の多い自治体に限られていて、結果的に学校が学習塾の機能も請け負っていました。しかし、オンラインを活用すれば、地方でも都会と負けないような学習支援ができます。

町として子供たちに「こういう支援をしています」と伝え、実感してもらえれば、子育て世代も安心して鹿追町に住み続けることができます。移住も進むかもしれません。それこそ、サスティナブルですよね。

「スポートフォ」な部活動改革
――もう一つの構造的な課題である部活動の方は、どのように変えていったのでしょうか。

部活動改革は、教員間で学校の課題を共有した「持続可能な鹿高づくり運営委員会」でも懸案として出ていました。部活動は将来的に総合型地域スポーツクラブに移管していく方向性が国からも示されていますが、地域によって環境や条件はさまざまです。

鹿追高校ではどうやっていこうかと考えていたところ、スポーツ庁の「Sport in Life推進プロジェクト」という、生涯学習の視点からスポーツに親しむ人を増やすための事業があったのです。これに手を挙げてみたら、鹿追町や道教委の支援もあって、公立学校として唯一採択されました。

鹿追高校は、そこまで運動部が盛んというわけではありません。文化部の生徒もいれば、部活動に入らない生徒もいます。この事業では、そうしたスポーツを普段あまりしない生徒も気軽に楽しめるように、eスポーツやタグラグビー(ラグビーのタックルを「タグ」に置き換え、シンプルなルールを採用した初心者向けの競技)の体験会なども行っています。

運動部では、サッカー部で元日本代表監督の岡田武史さんとのコラボレーションが実現しました。NECの協力の下、岡田さんのスポーツ理論である「岡田メソッド」をデジタル化して、効果的な練習方法を直接アドバイスしてもらったり、iPadに日々のコンディションデータを記録して、最適な練習内容を考えたりしています。

ICTを活用して「岡田メソッド」を実践するサッカー部(俵谷校長提供)

陸上部でも、北海道出身のアスリートで、100メートルハードルや7人制ラグビーで活躍した寺田明日香さんに、Zoomを使って指導をしてもらっていました。

鹿追高校の運動部の大きな特徴は、複数の部活動に所属でき、いろいろなスポーツを楽しめるようにしていることです。多様な仲間と多様な競技に触れることで、豊かな人生を送れるようにする。そうなれば、部活動やスポーツの価値が変わると思います。

この部活動改革プロジェクトチームを「ブカイプ」と名付け、特設のホームページも作って情報を発信しています。そのコンセプトは「スポートフォな生活」。スポーツとハートフルを掛け合わせた造語で、まさにそれを体現していこうと思っています。

現在は、少しずつですが地域のスポーツ団体との連携も始まっています。ICTを活用して、競技の専門家から指導を受けると同時に、地域でスポーツを楽しめる環境をつくる。これがやがて、総合型地域スポーツクラブに発展し、中学校の部活動もここへ移行していくことになると思います。そうやって一歩ずつ、改革を進めているところです。

持続可能な学校づくりへの道
――これらの取り組みを見ていると、まさに令和の時代の高校という感じがしますね。

私たちのやろうとしていることが、中教審の答申や文科省の施策とも合致していて、それが後押ししてくれている部分はあります。

でも、私たちは先に中教審や文科省が言っているから、それに合わせようとしたわけではありません。地域や子供たちの現状、教員が抱えている問題を何とかしようと、みんなで向き合ってアイデアを出していった結果、たまたま答えが一緒になっただけなんです。

そうやって、限られた資源の中でも、子供たちに質の高い教育をどう提供していくかを考え、その成果がちゃんと評価されていくことが、持続可能な学校づくりにつながるのではないかと思います。

(藤井孝良)

【プロフィール】

俵谷俊彦(たわらや・としひこ) 北海道鹿追高校校長。専門は英語。2015年に北海道奥尻高校に教頭として赴任し、同校存続に向けて、奥尻島外からの受験生を呼び込むための教育改革「まなびじま奥尻プロジェクト」を展開して注目される。座右の銘は「不をとらえ先端を目指せ 人の喜び、のち、真の喜び」。

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