【流動型『学び合い』】 子供の持つ力を信じる

教員がやる気にさせられない子を、子供はやる気にさせる――。会津若松ザベリオ学園の高橋尚幸教諭は、公立小学校教諭時代から約12年にわたって実践してきた『学び合い』(編集部注 『学び合い』は上越教育大学教職大学院の西川純教授が提唱する授業法で、二重かぎかっこも含めた用語として使用されており、以降も『学び合い』と表記します)を最初に取り入れたときの衝撃をこう話す。学びを子供たちに任せる『学び合い』において、高橋教諭が工夫してきたことや陥りがちな失敗パターンについて聞いた。(全3回中の2回目)

この特集の一覧

教員がやる気にさせられない子を、子供はやる気にさせる
――こうした学びにかじを切ろうと思ったきっかけを教えてください。

子供たちは教員にはできないことをやってくれる

授業が上手な先輩たちと働かせていただきながら日々学ぶ中で、30歳ぐらいになって何となく「良い授業ができるようになってきたな」と思うようになっていました。ある年に担任をした6年生の全国学力・学習状況調査の結果が全国平均よりも上で、「自分の指導は間違っていない」なんて思い始めていたんですね。

少しずつ、ちょっと大変なクラスも任されるようになっていました。そんな折、担任した6年生の中に全く勉強しない子がいたのです。授業中は何も書かないし、とにかくボーッとしている。テストも数問しか回答しません。

「あの子をこのまま卒業させていいのだろうか」と思い悩み、持ち始めていた自信も崩れていく感覚がありました。

どうしたらいいのか分からなくてもがいていた頃、2010年のことですが、西川教授のツイッターで『学び合い』に出合ったのです。当時、西川教授は「『学び合い』の手引書」というコンテンツをホームページにアップされていて、それを読み込みました。

その子は宿題もやりませんでしたが、放課後に友達が「一緒にやろう」と誘えばやっていました。だったら、授業も『学び合い』ならば前向きに取り組むのではないか。そうした期待を持って、算数と国語の授業で「今日、これをみんなで説明できるようになりましょう」と課題を出してみたところ、勉強し始めたんです。

ニコニコしながら、本当にうれしそうに友達と一緒に勉強していました。その姿を見て、私は頭がクラクラしたのを今でも覚えています。

教員がやる気にさせられない子を、子供はやる気にさせる。全く勉強しなかった子が、友達と学び合えば勉強する。それが『学び合い』の授業で、私が最初に受けた衝撃です。

教員が「自分には限界がある」「自分にはできないことがある」ことを認めたときに、子供たちを「自分にはできないことをやってくれる」存在だと思い、本気で信頼できるようになるのです。それは、それまでの「自分の思う通りに授業をしたい」という考え方との大きな違いでした。

『学び合う』けれどもテストはできない
――そこからは、どんどん『学び合い』を取り入れていったのですね。

これが2010年2月の出来事でした。そこから新年度になるまでの2カ月間で、読める限り『学び合い』に関する本を読みあさりました。当時、『学び合い』の本は学術論文ベースのものばかりで、かなり難しかったのですが、その分、データや事例が詳しく示されてあり、読めば読むほど腑に落ちました。

そして、新学期の10年4月からは全教科で『学び合い』を取り入れるようになりました。最初は1時間に1課題を出す『学び合い』からスタートし、その半年後には、1単元分の課題を全て最初に提示する単元『学び合い』にも取り組みました。

でも、最初は大失敗でした。

――どういう点で失敗だったのですか。

もちろん、子供たちが学んでいなかったわけではありません。また、任せておくと「子供はサボる」とか、「子供には学ぶ力がない」ということでも決してありません。子供たちは一生懸命、自分の感じたことや思ったこと、興味があることを学んでいました。

でも、単元ごとにワークテストを子供たちにさせても、全然できなかったのです。それは私が出す課題とテストの内容にズレがあったからでした。

――ワークテストの結果を重視されていたのは、なぜでしょうか。

高橋教諭が実際に出していた学習進行表

私個人として、テストの点数は重視していません。ただ、テストの便利なところは、子供自身が自分の学びがどうだったのかを客観的に測れる点です。ワークテストは年に何度も行うので、子供たちが目標設定をしやすいというメリットもあります。

いろいろと検討したのですが、子供たちが『学び合い』の中で「本当に分かったのか」を確かめながら学習するには、現状ではワークテストが必要だと判断しました。

そこからは、「学習進行表」の課題の出し方を変えました。例えば、授業の「読むこと」の指導においては、「◯◯の場面で、誰が何をしたのかを読み取って、表にまとめることができる」というように、テストの問題とのつながりを意識したのです。

また、授業の中で分かったことを「学習レポート」という形でまとめて書くことも大事にしてきました。本当に分かったのかを確かめるには、テストだけだと勘で書いて当たることもありますが、学習レポートは勘では書けません。分かっていないで書くと、それがよく表れます。それに、テストには100点以上がありませんが、レポートなら子供たちに「もっともっと」と求められるのです。

自由にされた方が困ってしまう
――『学び合い』は難しい、失敗したという声も、よく聞きます。

私もたびたび相談を受けるのですが、失敗には大きく2パターンあると思っています。

一つは、教員が子供に任せているつもりで、任せきれていないというパターン。きめ細かいスモールステップを設定して、その通りに勉強させようとしているのです。

例えば、「登場人物の気持ちが分かるところに線を引きなさい」「それをノートに書きなさい」「ここからどんな気持ちが分かりますか」というように、一斉指導の中でやらせることと全く同じことを『学び合い』でもやらせようとするのです。

もう一つは、子供の戸惑いに気付いていないパターン。いきなり「はい、どうぞ学び合ってください」と言われても、子供は戸惑います。「こんなことやっていいのかな?」「何をしたらいいのかな?」と戸惑っている子供に対して、よくあるのが「なんで教え合わないんだ!」と教員が怒ってしまうケースです。「自由にされた方が困ってしまう」という、子供の気持ちが理解できない教員も少なくありません。

――確かに「自由に」というのは、教員にとっても、子供にとっても、最初は難しいですよね。困っている子にどう対応すればよいのでしょうか。

「子供の戸惑いに寄り添い、待つことも大切」と話す

大前提として、「困っていることは悪いことじゃないし、できないことは悪いことじゃない」ということを、クラス全体に伝える必要があります。そして、困っている本人に対してではなく、「困っている人がいるから助けてあげて」と、全体に対して働き掛けるのがよいと思います。

教員はこれまで、「人のことはいいから、まず自分のことをやりなさい」と指示しがちでした。だから、周りの子に目を向けるという意識を、子供自身もすぐには持てないかもしれません。

でも、困っている子を手伝ってあげる子は、必ずクラスの中にいます。もし、そういう子が一人もいないクラスだったら、私は『学び合い』をやらないかもしれませんが、これまでそんなクラスはありませんでした。

教員が「これをやりなさい」と指示したら、その子は困らなくて済むかもしれません。でも、時間はかかりますが、困っている本人も徐々に自分から「分からないんだけど……」と言えるようになっていきます。子供たちが持っている力を信じ、これまでよりもう少し広い視野を持って、待ってほしいと思います。

(松井聡美)

【プロフィール】

高橋尚幸(たかはし・なおゆき) 1977年、福島県生まれ。福島県と宮城県の公立小学校教諭として教壇に立った後、2021年4月より会津若松ザベリオ学園小学校教諭。2010年頃から『学び合い』の理論に基づいた授業に取り組む。福島県沿岸部の小学校に勤務時代、授業中に東日本大震災に遭遇。それ以降、年月がたつにつれて学校現場の課題の深刻さは増していると感じている。教育実践グループ「みゆき会」所属。第29回東書教育賞優秀賞受賞。著書に『時間割まで子供が決める!流動型『学び合い』の授業づくり』(小学館)。

この特集の一覧

あなたへのお薦め

 
特集