【流動型『学び合い』】 学級崩壊の原因は何か?

今、日本中の多くの学級で「クラスが落ち着かない」「授業が成り立たない」という声を聞く。公立小学校の教員だった頃は、そうしたクラスの立て直しを任されることも多かったという会津若松ザベリオ学園の高橋尚幸教諭は、学級崩壊の原因の一つに「クラスの気になる子に手を掛け過ぎている」ことを挙げる。子供同士が教え合う『学び合い』(編集部注 『学び合い』は上越教育大学教職大学院の西川純教授が提唱する授業法で、二重かぎかっこも含めた用語として使用されており、以降も『学び合い』と表記します)を実践し続けてきたことで見えてきた、これからの学校教育の在り方について聞いた。(全3回の最終回)

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クラスの「気になる子」に手を掛け過ぎている
――東日本大震災以降、学校現場の課題は深刻化していると感じているそうですね。

ここ10年ほど、いわゆる学級崩壊をした後のクラスを任されることが多々ありました。また、「授業どころじゃない」という公立校が多い状況を危惧しています。多くの学校で、いわゆる一斉指導ベースの授業はほぼ成立していないと、私は見ています。「クラスが落ち着かない」「若い先生は授業が嫌になってしまっている」という声も、よく耳にします。

こうした状況は、校内暴力や不登校児童生徒数の増加など、数字にも表れていると思います。

「みんなが同じことをするのは限界を迎えている」と話す高橋教諭
――それは何が原因なのでしょうか。

ここ数年、授業中に「なんで僕のことを指してくれないの」などと言う子が、クラスに2~3人いるのが普通になってきたと感じています。そうなると、途端にクラスが落ち着かなくなります。

こうした傾向について、さまざまな方とやりとりする中で、私はいわゆる愛着障害が関係していると考えています。

また、ある保健師さんから聞いた話なのですが、近年、3歳児健診で発達に心配がある子の割合がかなり高くなっているそうです。乳幼児期から何かが起こっている。原因については「抱っこひもが原因じゃないか」「スマホが原因じゃないか」など、いろいろなことが考えられています。

ただ、確かに言えることは、発達障害なのか、愛着障害なのかということとは関係なく、「一人一人がスペシャルニーズを持っているのが当たり前」という前提で、学校教育を行っていかなければならない段階に来ているのだということです。

最近、「個別最適化」という言葉が注目され始めましたが、「学び」はもともと個別のものです。今までなんとかごまかしながら、みんなが同じことをやってきましたが、それがもう限界を迎えています。では、どうすればいいのか。答えの一つが、流動型『学び合い』だと私は思っています。

もう一つ、私は、学校が「ちゃんと授業をしない」から、大変になってきているのではないかと感じています。

――「ちゃんと授業をしない」とは、どういうことですか。

今、多くの教員が、クラスの「気になる子」にどういう指導をするかに気を取られています。「気になる子」にばかり、手を掛ける傾向が強いのです。管理職も、「そういう子にどういう指導をしたのか」ということばかり担任に聞いています。

「学校は勉強したい子が勉強しやすい場であるべき」と語る

学校は勉強する場だから、勉強したい子が勉強しやすい場であるべきだと私は思っています。別に、勉強が世の中で一番大切なわけではありません。でも、例えば一生懸命に泳ぐ子が泳ぎやすいのが良いスイミングスクールであるように、学校もそうであるべきだと思うのです。

学校がそうした場でなくなっているから、苦しくなっているのではないでしょうか。

私は一生懸命に勉強する子を大事にして、クラスを立て直してきました。手の掛かる子にはある程度手を掛けつつ、でも軸足はしっかりと勉強する子に置くようにしたのです。その上で、「一人も見捨てない」ことを求めています。

また、子供たちには、「勉強ができる、できないではなくて、勉強を頑張る人の味方だ」ということを、いつも伝えます。「得意なことをもっと得意にしたい人も、苦手なことを得意にしたいと思う人も、その両方を先生は応援するよ」と。そうすることで、みんな同じように平等に接することができます。

これからの教育のモデルとなる学校をつくりたい
――4月から勤務されている会津若松ザベリオ学園でも、『学び合い』に取り組まれているのですか。

コロナの影響で、制限付きの『学び合い』という形にはなっていますが、取り組んでいます。今のところは1時間に1課題の『学び合い』を基本に実践しています。向かい合わないように工夫したり、課題の量を調整したりして、話し合う時間が短く済むようにしています。

『学び合い』に興味を持ってくれた人が取り入れやすいよう、今後は研究授業も積極的にやっていく予定です。

「これからの教育の一つの答えをつくりたい」と意気込む
――『学び合い』を通して、大事にしていきたいことを教えてください。

私は、小学校、中学校の義務教育段階で培われる人間関係は、学力以上に重要だと思っています。

だから、子供たちに一生付き合っていける関係をつくってあげたい。仲良しこよしという意味ではなく、折り合いをつけて一生付き合っていける関係をきちんとつくってあげる。そのことを大事にしていきたいし、周りにも伝えていきたいと思っています。

今、多くの学校や学級が、苦しい状況にあります。若手の割合もこれからぐんと増え、その点を懸念する人もいます。ただ、私も含めてベテランの教員が若手の教員に伝えるべき技術なんて、ほとんどないと思っています。ベテランでさえ、その学校で一番大変なクラスを受け持って、授業をすんなりと成立させられる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。これまでと同様、「静かにしろ!」などと指導している事例を、あちこちで見聞きします。

私は、「じゃあ、どうすればいいんですか?」と聞かれたときに、「うちの学校みたいなことをしたらどうですか?」と言える学校をつくるために、ここに来ました。この学校を、これからの日本の教育が生き延びていく上で一つの答えになるような学校にしていきたい。そう思って、本気で取り組んでいます。

(松井聡美)

【プロフィール】

高橋尚幸(たかはし・なおゆき) 1977年、福島県生まれ。福島県と宮城県の公立小学校教諭として教壇に立った後、2021年4月より会津若松ザベリオ学園小学校教諭。2010年頃から『学び合い』の理論に基づいた授業に取り組む。福島県沿岸部の小学校に勤務時代、授業中に東日本大震災に遭遇。それ以降、年月がたつにつれて学校現場の課題の深刻さは増していると感じている。教育実践グループ「みゆき会」所属。第29回東書教育賞優秀賞受賞。著書に『時間割まで子供が決める!流動型『学び合い』の授業づくり』(小学館)。

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