広がる部活動改革 地域移行への課題は

教員の長時間勤務が問題化して「働き方改革」が課題となる中、負担の要因となっている部活動の外部委託の動きが広がりつつある。昨年9月から名古屋市で導入された小学校の部活動の民間委託では、約1500人の教員の負担軽減に加えて、児童の満足度も高いという結果が得られた。文科省が2023年度から始める、休日の部活動の段階的な地域移行に向けたモデル事業も動き始めている。部活動改革は着実に広がっていくのか。


「部活動を離れて時間と体力の余裕を実感」

「部活動の指導をしていたときは夢中でしたが、指導から離れてみると時間と体力に余裕を感じる面はありますね」

名古屋市立大宝小学校の西脇教諭

名古屋市熱田区の大宝小学校で6年生の担任を務める西脇陽介教諭。昨年秋から名古屋市が導入した小学校の部活動の民間委託によって、それまで担当していた野球とサッカーの指導を離れてからの業務について、そう実感を語った。

同市では40年以上も前から、小学校(4~6年)の部活動が盛んに行われていたが、教員の業務量が増える中、働き方改革と部活動を両立させる新たな取り組みとして、部活動の民間委託の導入を決定し、昨年9月から市内16区のうち半数の8区133校でスタートさせた。

各校ごとにサッカーや野球、合唱などから6種目を選んで、1日2種目ずつ週3日の部活動を実施。業務を委託した事業者から指導員を派遣してもらい、児童たちの指導にあたる。この指導員は、民間委託とともに設置された「人材バンク」に登録した競技の経験者たち。児童らは好きな種目を選んで、部活動に参加できる仕組みだ。

名古屋方式で約1500人の教員の負担軽減

この取り組みによって、教師の負担はどれだけ軽減されたか。同市教委が調べたところ、小学校の部活動指導にあたっていた教員は、導入前の約2800人から約1300人に減ったという。1500人もの教員が部活動業務から離れたことになる。

児童らの反響も上々だ。同市教委の調査では、現在、児童全体の約6割が部活動に参加しているとみられ、民間委託以前より増えたという。また、8校を抽出した児童たちへのアンケート調査で、民間委託後の部活動について、「楽しい」「普通」「楽しくない」など5段階で満足度を聞いたところ、平均4.5の高評価となり、子供たちの満足度も高いことが分かった。

「空いた時間でコロナ禍の対応」

民間委託された部活動の様子(名古屋市教委提供)

大宝小学校の西脇教諭は、民間委託以前は平均で週3日、準備時間などを含めて毎日2時間程度、部活動指導に時間を割き、半年に2、3回は大会などのため休日出勤が生じていたという。部活動を離れた現在は、教材研究や児童の提出物にコメントを書き込む時間などがしっかり確保できるようになった。

「コロナ禍での授業形態の見直しに当てられたのも大きかった。また、保護者へ連絡する時間もとりやすくなった。スタートしたからには、いい方向に進めたいと思う」と語る。

名古屋市教委は昨年秋からの民間委託の効果を踏まえ、今年9月から市内の公立小学校262校全校に対象を広げる。同市教委部活動振興室の津田淳一郎室長は「大規模な事業のため、安定した指導者の確保や人材の育成といった課題もあるが、しっかりと対応しながら児童、教員にとって望ましい形になるよう軌道にのせていきたい」と語る。

2年後の地域移行に向けてモデル事業へ

教師の長時間勤務の要因とされる部活動。文科省が今年3月にツイッター上に開設した「#教師のバトン」には、「授業も部活動も担任も1人でやるのは無理」「子供も大人も精神的に疲弊している」などと、部活動の負担に対する悲鳴に近い現場の声が絶えない。

こうした中、文科省は昨年9月、23年度から休日の部活動の段階的な地域移行を進める方針を示し、環境整備に向けた具体的なスケジュールを明らかにした。まず土日の教員の部活動の負担を減らしたいとの考えからだ。

今年度は2億円を予算化し、各都道府県に2カ所、各政令市に1カ所ずつの計114の拠点校を設け、各校ごとに▽地域人材を確保・マッチングする仕組みの構築▽生徒への適切な指導に必要な地域人材の研修の実施▽地域部活動の運営団体の確保――などの実践研究に取り組む。

スポーツ庁政策課は「1市1カ所にとどまらず、複数校で実施したいという自治体もあり、拠点校は200校程度に上る見通しとなっている。基本的に取り組みの中心は地域の受け皿づくりで、地域のスポーツクラブや実業団から指導者を派遣してもらうなどの連携をいかに進めるかが、カギになると考えている」と話す。今年度と来年度の2年間、拠点校の実践研究の成果を発信しながら、本格的な地域移行への準備を進めたいとしている。

つくば市の中学校では

部活動の外部委託に全国的にも先駆的に取り組んでいる茨城県つくば市。各校が独自に保護者や地域スポーツ団体と協力して市民クラブを設置し、平日の部活動の一部を委託する方式で、昨年度までに3つの中学校で実施。今年度中にさらに2校で同様の取り組みを始める。

谷田部東中学校で外部委託されている部活動の様子(洞峰地区文化スポーツ推進協会提供)

文科省が進める地域移行の拠点校の1つ、谷田部東中学校の八重樫通校長は、前任の茎崎中学校で校長を務めていたときから、部活動改革の必要性を強く訴えてきた。

「4人の子供がいるのに部活動で重い負担を抱える教員や、病気になる教員も見てきた。働き方改革の本丸は部活動改革であり、生徒を元気にするには教員も元気にしないといけないと考えた」と話す。

そこで茎崎中学校では、保護者らと話し合いを重ねて地域のスポーツ活動を支える市民団体を設立し、指導者への謝金などの活動資金を確保するためのクラウドファンディングを実施。100万円以上を集めて、部活動の存続と働き方改革を両立させた。

昨年、谷田部東中学校に移ってからも、同校の部活動の受け皿となっている市民団体「洞峰地区文化スポーツ推進協会(DCAA)」と連携して、ひと月当たり平日3日間、1回2時間程度、野球やサッカーなど8つの部活動で指導者を派遣してもらっている。今年度は休日も一部の部活動の委託を始めている。

「土日の部活動移行」には休日ならではの課題も

ところが部活動の休日の地域移行にあたっては、新たな課題に直面したという。

「平日なら校舎に教員が残っているが、休日に部員がけがをしたら教員がいない上、保健室も利用できない。休日ならではの対応策が必要になった」(八重樫校長)

このため同校では、部活動のある休日はスポーツ医学のトレーナーを雇い、常駐することにした。また、技術力の高い指導者ほど休日は他のクラブで本格的な指導にあたるケースがあり、スケジュールの調整も課題になるという。

八重樫校長は「財源も集めながら工夫して取り組んでいるが、どの学校でも簡単に取り組めるものではない。今年度いっぱい取り組んで、安全対策を含めて課題を整理して、他の学校でも役立てられるように報告したい」と語る。

「部活動指導員」との組み合わせで改革を

文科省が進める部活動改革のもう1つの大きな柱が、4年前から始めた教員に代わって生徒らの指導にあたってもらう「部活動指導員」の配置だ。今年度は12億円を予算化し、全国で1万800人の配置を目指している。しかし、現時点で確保されているのは6000人ほどで、4000人程度の空きがあるという。

思うように配置が進まない理由の1つは、費用負担の問題だ。事業費は国と都道府県、市町村が3分の1ずつ負担することとなっており、財政上の理由で踏み切れない自治体も多いとみられる。また、都市部と異なり、地方に行くほど部活動の指導にあたれる人材は限られ、指導員の確保が難しい実態もある。

こうした事情を踏まえつつ、スポーツ庁は「地域に受け皿を作って段階的に移行する取り組みと、部活動指導員を組み合わせて、部活動改革を進めたい」との方針だという。

同庁は部活動改革が思うように進まない背景には、部活動に対する日本独特の意識の固定化もあるのではないかとみている。

政策課の担当者は「部活動は厳しいのが当たり前、先生も土日も出てくるのが当たり前という意識が、定着してしまっている面もある。部活動改革に積極的な学校も出始めたが、全体からみれば一部にとどまっているのも事実。本格的な地域移行などに向けては国がモデルを示して、少しずつ部活動を巡る意識改革を進めていくことが必要だと考えている」と話す。

(山田博史)

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