【平岩国泰氏】 週4勤務、副業大歓迎の職員室

副業可、週4勤務OKなど、教員の画期的な働き方を認めている学校がある。東京都中野区にある新渡戸文化学園だ。幼稚園から短大まで設置する同学園では、児童生徒の学び方のリデザインはもちろん、教員の働き方も大きな進化をはかるなど、斬新な手法で学校改革を推し進めている。2年前に理事長に着任した平岩国泰氏は「先生方には、一人の人間として彩り豊かな人生を送ってほしい」と語る。平岩理事長へのインタビューを通じ、これらからの教員の働き方や学校組織の在り方について新たな可能性を探る。(全3回の1回目)

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「どの子もわが子」で、学校の働き方改革
――新渡戸文化学園には、どんな教員が勤務しているのでしょうか。

企業での勤務など教職以外の社会人経験を持つ先生が、全教員の4割以上になります。現在、絵本作家やYouTuber、大学教員など学外で活動しながら働いている先生も、同じく4割以上います。

例えば、昨年度から勤務している小学校の先生の前職は、学習塾の講師です。週4日は本校で働き、残りの1日は前職の学習塾で引き続き働いています。クラス担任も持っていますが、担任としての運営に大きな問題はありません。

――担任が週1日学校にいないという働き方は、以前はなかなか受け入れられなかったように思います。

確かに、「担任がいない間に、児童に何かあったらどうするんだ」と、懸念の声が上がりそうですよね。

しかし私は、一人の先生が朝から晩までクラス全員を見続けることの方が、無理があると思います。もちろん、一人でじっくりと児童生徒に向き合いたい先生もいるでしょう。でも、それを全ての先生や児童生徒に強いれば、お互いに負担が大きくなりすぎるのではないでしょうか。代わりのいないプレッシャーはとても大きいものです。一人でじっくり見るか、複数の目で見るか、先生のスタイルによって組み合わせられるのが理想形だと考えています。

例えば、毎日の朝の会も、必ずしも担任がやらなくてもいいのではないでしょうか。ベースは担任の先生だとしても、今日は体育の先生、明日は国語の先生…といった形で学校の中で分業を進めていけば、教員の負担軽減につながりますし、児童生徒の学びの幅も広がるように思います。

「どの子もわが子」の合言葉で、本学園では現在、そんな体制をつくれるように動いているところです。

平日でも気軽に休める職場づくり
――新渡戸文化学園の先生方は、新しいことにチャレンジしたり、外部に取り組みを発信したり、楽しそうに働いているイメージがあります。

「先生が人生を楽しんでいる姿を子供たちに見せたい」と話す平岩理事長

先生方には、一人の人間として彩り豊かな人生を送ってもらいたいという願いがあります。そして、人生を楽しむ姿を児童生徒に見せてほしいのです。

先生になることが、修行僧のように何かを犠牲にして、苦しくしんどい世界に飛び込むというイメージが先行しているように感じます。教師という肩書を週末も着けっぱなしで、プライベートのいろいろな楽しみを諦めなければならないと考えている人も多いでしょう。

私たちの学園の教員ではありませんが、とある先生が「私は自分の子供の授業参観に一度も行ったことがない」と、泣きながらおっしゃっていたことがあります。確かにそうです。授業参観は平日にあることも多いので、先生は行きづらいのです。

その言葉を聞いた時、先生が平日でも気軽に休める職場をつくりたいと心から思いました。本来なら、たとえ担任を持っていたとしても、別の先生に代わりに入ってもらって休みを取ればいいだけなのです。しかし、今の学校現場はこういった考え方がまだまだ少数派で、有給休暇さえ申請しづらいところも少なくありません。

先生だから平日に休暇を取れないなんて、普通に考えたらおかしい話です。クラス担任を持ったら、休日返上で24時間、児童生徒の責任を一人で負わなければならないのでしょうか。何より学校外で起こったことは家庭や地域で対応する必要がありますし、学校内で起こったことも、担任だけでなく複数の先生がチームで対応した方が児童生徒にとってもいいはずです。

――教員の働き方について、全国的にどんな課題があるとお考えですか。

多くの先生が多忙すぎて、自分自身の学びを深めるなど、インプットする時間が不足しています。

本学園は勤務時間が午後4時45分~5時に終わります。理想は定時に学校を出て、映画を観に行く先生がいるような職員室です。

遅くまで残業して疲れ切って朝を迎えるよりも、映画を1本観たり、家族とゆっくり夕食をとったり、本を読んだりと充実した時間を過ごして次の日を迎える方が、良い授業ができるのではないかと思います。

――そうした理想の実現に向けて、新渡戸文化学園ではどのような取り組みをされているのでしょうか。

例えば、うちの小学校は各学年2クラスなので、その2クラスに3人の先生がついています。そのため、先ほど紹介した先生のように、週4勤務でクラス担任を持つという働き方が実現しています。

その他にも、中高では部活動の大半を外部講師に任せています。希望する先生のみ技術指導をする仕組みで、実際に何人かは部活動で指導をしています。部活動に情熱を注ぐ先生もいますので、それも選べると良いと考えています。

一方で、本学園が先進的に働き方改革を進められているかと言えば、まだそうとは言い切れません。学校をリデザインしている途中なので、それに伴う負担もあり、平均して1人当たり月20~30時間は残業している状況です。しかし、多くの学校では、この倍以上の残業や持ち帰り業務をしている先生も多いのではないでしょうか。

副業は圧倒的にメリットが大きい
――副業を許可することによるデメリットはないのでしょうか。

副業を許可するデメリットを認めつつも、メリットの方が圧倒的に大きいと話す

もちろん、デメリットはゼロではありません。頼みたいことや聞きたいことがあるときに、その先生が学校にいなくて困ることもあるでしょう。時間割の編成にも工夫が必要になります。

でも、そうしたデメリットを差し引いても、得られるメリットの方が圧倒的に大きいと実感しています。

兼業することで先生個人の知見が深まるだけでなく、仕事に対する充足感ややりがいにつながり、子供たちに提供する教育の質も上がっているように思います。

例えば、本学園で週4日、教壇に立ちながら、他大学で教職課程の英語を教えている先生がいます。学校は実践の場、大学は研究の場として相乗効果を生みながら、未来の教育者を育む働き方は、画期的だと思います。また、別の先生は今年度から大学院に通い始めました。児童生徒に「先生も大学院で学んでいるんだよ」と話ができることは、子供たちにとっても良い刺激になっているようです。

教師に選択肢がある職場づくり
――とはいえ、副業など斬新な取り組みに前向きな教員だけではなく、従来の働き方が合っていると感じる教員もいるように思います。そうした意識の違いのすり合わせは、どのようにされていますか。

各教員のニーズや将来像に合わせて、働き方を選べる環境を目指すという

それは必ず直面する問題ですね。本学園でも、時間を掛けて対話を重ねているところです。

まず、大前提として、今までの働き方を決して否定はしません。週5日フルタイムで勤務している先生はもちろん素晴らしく、リスペクトしています。

全員が副業しなければいけないわけではなく、したい人はする、したくない人はしないという方針です。自己選択できることが重要だと考えています。

目指しているのは、先生それぞれが自分のニーズや将来像に合わせて、自由に働き方を選択できる環境です。だからどんな事柄も選択肢は必ず残しておき、そこのバランスを取るのが私の役割だと考えています。

また、私が理事長になってからの2年間で、学校が進むべき方向性についての共通認識を全教員間で図ってきました。そうして最終的に目指す方向性が共有されていれば、副業など手段的なもので考えの違いが生まれたとしても、対話で乗り越えていけると信じています。

――新渡戸文化学園では教育の目標を「自分も他人もしあわせにできる力を創造する、ハピネスクリエイター」と定めています。共通理解を図るまでに、大変だったことはありますか。

今でも定期的に、学校全体で理念を共有する場を設けています。

例えば年に2回、幼稚園から短大までの全教員が集まる全体集会があります。そこで何人かの児童生徒にフォーカスして、彼らの成長ストーリーを振り返ります。全体の話になるとどうしても抽象的になるので、「Aさん」「B君」など個人の1年をたどります。そうすることで、教育現場は感動する成長物語が溢れていることも改めて実感できます。

そうやって子供たちの成長を振り返りながら、一人一人の先生が「私たちの目指している『ハピネスクリエイター』や自律型学習者に向けて、児童生徒が成長していっている」と確認し合う時間を大切にしています。

私も含め、教育現場にいる人間は何より子供たちの幸せが喜びです。たとえ表面的に意見の相違があったとしても、「最後は子供たちのためになんとかしようね」という根っこの部分が同じであれば、学校組織は円滑に機能すると信じています。

(板井海奈)

【プロフィール】

平岩国泰(ひらいわ・くにやす) 特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年、東京都生まれ。96年、慶應義塾大学経済学部卒業。30歳のとき、長女の誕生をきっかけに“放課後NPOアフタースクール”の活動を開始。2011年に会社を退職し、日本の子どもたちの「社会を巻き込んだ教育改革」に挑む。“アフタースクール”は活動開始以降、5万人以上の子どもが参加。グッドデザイン賞を過去に4度受賞、他各賞を受賞。13年より文科省中央教育審議会専門委員。17年より渋谷区教育委員、学校法人新渡戸文化学園理事。 19年より同学園理事長を務める。著書に『子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門』(夜間飛行)など。

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