免許更新制の見直しだけではない 教員制度改革を巡る論点

中教審で本格的な議論が始まっている教員制度改革。負担が大きいとされる教員免許更新制の見直しに注目が集まるが、教員の養成、採用、研修を巡る課題はそれだけではない。教員採用試験の倍率が低下する中で、どのようにして教職を魅力ある仕事にしていくか。関係者に取材した。


教師の養成・採用・研修を根本的に検討

3月12日に萩生田光一文科相が諮問した「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」では、ICTの活用と少人数学級を両輪にした「令和の日本型学校教育」を実現するための質の高い教師の確保に向けて、これまでの教師の養成・採用・研修にとらわれることなく、根本的な部分にまでさかのぼった検討を行い、必要な改革を実施するとしている。

そして、その主な論点として▽教師に求められる資質能力の再定義▽多様な専門性を有する質の高い教職員集団の在り方▽教員免許の在り方・教員免許更新制の抜本的な見直し▽教員養成大学・学部、教職大学院の機能強化・高度化▽教師を支える環境整備――の5つが挙げられている。諮問を受けて中教審は「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」を立ち上げ、議論を進めている。

中教審への諮問のポイント(文科省HPより)
自律的、自主的な研修の保障が不可欠

「今回の諮問には、これまでの教師の養成・採用・研修を根本から変えるというメッセージが込められている。確かに現状の課題はあるかもしれないが、果たしてこれまでの養成・採用・研修の仕組みは、根本的に見直す必要があるほどの課題があるのだろうか」

そう首をかしげるのは、筑波大学の浜田博文教授だ。浜田教授が会長を務める日本教師教育学会は6月14日、特別部会に向けて要望書を提出。諮問の内容には今後の教員養成や教職の在り方に重大な影響を及ぼす事項が含まれているとして、慎重な議論を求めた。

要望書では、当初から多くの問題があった教員免許更新制の廃止が検討されていることを評価した上で、それに替わる研修は、教師や学校が自律的、主体的に研究活動ができるような環境を整えるべきだとしている。

これについて浜田教授は「例えば、『オンデマンドのコンテンツを視聴すれば研修と認める』といったようなことでいいのか。子供のコンピテンシーを育てる立場にある教師が、受け身の研修ですぐに陳腐化するような知識やスキルばかり身に付けるのは矛盾している。本来は、もっと教師自身が自律的、主体的に学ばなければいけない。それを研修として保障することが重要だ」と説明する。

また、要望書では、社会人経験者などが教員免許状を取りやすくするために、極端にハードルを下げたり、特別免許状や臨時免許状を授与しやすくしたりするといった方策は、かえって教職の魅力を下げるとも指摘。

「ICTなどの専門的なスキルのある人が学校現場に入ること自体は大切だが、それはスクールカウンセラーのように専門職として入ればいいのであって、なぜ教員免許状を与える必要があるのか。そういう人がどんどん増える状況は、教職課程で頑張って教員免許状を取った人にはどう映るだろうか。教員免許状を取りやすくすることは、結果的に教職の社会的評価を下げることになる」と浜田教授は危機感をあらわにする。

日本教師教育学会の要望書の全体像(同学会要望書より)
教員の学びも個別最適化を

「教員免許更新制はなくすべきではない。なくしてしまうことは教員免許制度の退化につながる」

そう指摘するのは、特別部会の下に設置された教員免許更新制小委員会で臨時委員を務める、松田悠介・松田グローバル人財研究所代表取締役社長だ。松田社長は、教員免許更新制が教員の大きな負担となっている面は解消すべき問題だとしながらも、10年スパンで教員が学び続けることは、教員の質の担保につながると強調する。

では、どのように教員免許更新制を見直すのか。松田社長が期待を寄せるのは、5月20日に教員養成部会と合同で開かれた第2回会合で、文科省側が示した「『令和の日本型学校教育』を担う教師の学び(新たな姿の構想)」で描かれた、オンラインによる研修コンテンツのプラットフォームだ。

「質が高いコンテンツが集約され、それを受講することで単位が認められるようにすれば、教員は免許更新講習のためにわざわざ出張する必要はない。キャリアパスや興味に応じたコンテンツを学べるようにすることで、教員の学びも個別最適化される。教員免許更新制を教員がわくわくして学べるものにアップデートすべきだ」と話す。そうしたオンラインプラットフォームを構築することで、これまでの教員免許更新講習にかかっていたコストも効率化できるとみる。

また、教育に関心があり、教員免許状を持っていない社会人を選考・研修し、学校に2年間配置する取り組みを行っている「Teach For Japan」の創設者・理事でもある松田社長は、そうした人を対象に教育委員会が免許を与える特別免許状制度の積極的な活用を提案。

「特別免許状制度によって先行事例をつくることが、結果的にシステムの改修につながる。一方で、システム全体を考えれば、普通免許状が本流であることは確かで、普通免許状を原則とする現行制度は維持されるべきだ。より重要なのは、学校現場に入った後に、教員が学び続けられる仕組みやゆとりをつくることではないか」と強調する。

教職の専門性とどう向き合うか

教員養成の現場では今、どのようなことが起きているのか。

学生の多くが教員志望者である上越教育大学の安藤知子教授は「学部の学生はもともと教員を志して入学しているので、教員以外の進路に変えることはあまりないが、学校現場の多忙な状況については相当関心を寄せていて、不安も大きいようだ」と話す。授業ではそうした学校の現実を隠さずに伝えつつ、教師が専門職であることの意味ややりがいについて意識的に教えているそうだ。

「学生にとっては一生を左右する職業選択なので、空々しいアピールはできない。学生は、教科に関することにとどまらない教職の専門性を学び、知識やスキルだけではない、教師としての資質と向き合うことが重要だ」と安藤教授。同学は教員養成に特化していることから、現職の教員と一緒に学んだり、授業やボランティアとして学校現場に行き、子供と直接触れ合ったりする機会も多くある。そうした体験を通じて、座学の授業では分からない現場のリアルや教職の魅力を実感することになるという。

また、宇都宮大学と群馬大学では、2020年度から共同教育学部を開設し、両大学の教職課程の科目をお互いの学生が受講できるようにした。例えば、宇都宮大学で設けられる科目を、同学の学生はリアルで、群馬大学の学生は遠隔システムで教室から受講している。同じ教職課程の「教育原論」の授業でも、宇都宮大学と群馬大学の教員が1単位ずつ分担することで、多面的に学べるようになったり、特別支援教育は5領域全てに対応できるようになったりするなどのメリットがあるという。

共同教育学部の開設準備を担当した丸山剛史准教授は「遠隔先の学生の表情が分かりにくかったり、ティーチングアシスタントを確保するのが大変だったり、まだ始まったばかりで想定外の問題も多い」と話す。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、共同教育学部の効果が出てくるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。

中学校の「技術」に関する教科指導法も担当している丸山准教授は、「技術」をはじめとする免許外教科担任の多い教科について、一部の教育委員会で複数教科の免許状を持っている志願者に加点するなどして、その教科の免許を持っていない教員が授業を担当する免許外教科担任の解消を目指す取り組みが行われている状況に、疑問を投げ掛ける。

「中学校で複数免許を取得しようとすれば、必要な単位数が増えて学生の負担は重くなる。教科の専門性を深める時間も十分に取れなくなるため、かえって専門性を薄めてしまうのではないか。複数免許を取得することを、学生にはあまり勧められない」と指摘。学校配置を見直すなどして、どの教科も専門の教員を配置できる規模にするなどの抜本的な対策を取らない限り、免許外教科担任の問題は解消されないとみている。

正規の教員を増やさないと学校は立ち行かない

一方で学校現場では、非正規教職員を巡る問題も深刻だ。

これまで少人数学級の実現に向けて独自の試算結果などを発表してきた市民団体「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」事務局長で、元小学校教員の山﨑洋介さんが調べたところ、文科省への情報公開請求を基に、有期雇用の県費負担教職員だけに絞って試算した場合でも、非正規教職員はこの14年間に1.8倍に増加していた。実際には非正規教職員は地域ごとにさまざまな名称や運用があり、文科省も教育委員会も正確な実態把握ができていない状況にあるという。

公立小中学校における県費負担の非正規教職員の推移(ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会「教職員実数調査」より)

「教育委員会は将来的な少子化を見越して、新規採用を抑制するとともに、人件費負担の軽減のため、非正規教職員を増やしてきた。将来の展望を描けないまま不安定な雇用が繰り返される中、多くの非正規教職員が教職の道を諦め、どんどん学校から離れていっている。どこかで歯止めをかけないと、このままではますます非正規教職員が増やされていく」と警鐘を鳴らす。

また、教員の長時間労働の解消のために、学級担任以外の教員を増やし、教員1人当たりの持ちコマ数を減らすことが重要だと主張する。そのためには、義務標準法で教職員標準定数を算定する際に用いられる、学級規模ごとの学級数に「乗ずる数」として定められている係数の数値を見直す必要があると提案。

現状では、例えば、6学級の小学校であれば「乗ずる数」として「1.292」を掛けて算出された「7.752」を小数点以下で切り上げ、実際の学級数より2人多い8人の教員がその学校に配置されることになる。この学級数によって設定されている「乗ずる数」を改善すれば、学級担任以外の教員の数も増え、教員1人当たりの持ちコマ数が減るなどの負担軽減につながる。

「学習指導要領で授業時間と授業内容が増えていったにもかかわらず、『乗ずる数』は変わらないままだ。少人数学級制と合わせて、非正規教職員の問題と『乗ずる数』の適正化も議論していかなければ、このままでは学校は立ち行かなくなる」と指摘する。

(藤井孝良)