【平岩国泰氏】 「なりたかった先生」になれる環境と余裕を

「今の学校現場は、先生が幸せになるという視点があまりにも欠けている」――。新渡戸文化学園の平岩国泰理事長は、現状をこう憂慮する。幼稚園から短大まで、総勢150人の教職員を抱える同学園が近年取り組むのは、教師が幸せになれる学校づくりだ。「頑張っているのに報われない」「子供の模範となるために、厳しくするのがしんどい」――。そんなやり場のない苦しさから脱出するには、どんな手だてがあるのか。教師がやりがいを持って働ける仕組みづくりや、マインドセットの手法を平岩理事長に聞いた。(全3回の2回目)

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教師が「指導する」モデルの限界
――教員の幸せに向けて尽力するようになったきっかけは、何かあったのでしょうか。

私はもともと民間企業に15年間勤めていました。そのため、学校や先生と関わるのは、自分の子供を介してが多かったのですが、苦しんでいる姿をたくさん見てきたのが一つのきっかけになっています。

特にわが子の通っていた小学校は、あるクラスが学級崩壊状態になってしまいました。1年で担任が何度も変わり、先生が次々に辞めていきました。その中に定年目前のベテランの先生がいたのですが、「こんなはずじゃなかった」と苦しそうに学校を去っていく姿を、何とも言い難い思いで見ていました。

その先生は、どちらかというと古いタイプの指導法をする人で、きつい言葉で児童を抑えつけるタイプでした。それが一部の児童から反感を買った形で、授業も学級経営もままならない状態になってしまったようです。

――自身は頑張っているのに報われない。こういったケースは大なり小なり、全国のどこの学校でも起こっているように思います。

先生は頑張っているし、児童生徒も決して昔と今とで大きく変わったわけではありません。しかし、出口のないところで行き詰っているような閉塞(へいそく)感を覚えます。

まず、教師が児童生徒を「指導する」というモデルが、限界に来ています。昭和の時代は、社会や家庭が教師を支える構図があったことで、そうした指導がうまく機能していたように思います。

教師が指導するモデルの限界を指摘する平岩理事長

しかし、今はさまざまなツールを活用すれば、児童生徒が自分自身で学び方をデザインしたり、広げたりできる時代になりました。そうなると、1人の教師が全児童生徒の学びをコントロールしながら進めていくことは難しいのです。

これからの教師は前や上から指導するのではなく、児童生徒に伴走することが求められるようになります。これまでは板書をしながら一律に教えていたわけですが、これからは動画教材などを活用しながら児童生徒の横に並び、「今の説明分かった?」「どう感じた?」などと声を掛けながら進めていく。そのような方法も組み合わせた方が、学習効果も高いように思います。

さらに、日本の先生は完璧な人間像を演じさせられる風潮があります。「指導」という言葉からも分かるように、「子供の模範にならなければいけない」という見えないプレッシャーが存在するのです。その結果、児童生徒の前で隙を見せるわけにいかず、強く指導してしまう。先生自身が、苦しい負のスパイラルから抜け出せなくなっているのです。

先生だって遅刻をすることもあるし、時には忘れ物もします。仕事に集中できないこともあるでしょう。基本的に、大人も子供も変わらないんです。それを受け入れて、前や上から指導するのではなく、横や後ろから児童生徒を見守ってほしいのです。いろいろな先生や大人がいてよくて、その違いや個性を児童生徒たちに積極的に見せ、「大人は結構楽しいから、みんなも早くおいで」と言えるような先生を増やしたいと思っています。

何より、先生が伴走型に変わっていかなければ、この苦しいレースのゴールは見えてこないのではないでしょうか。

学校運営も校則も子供主導で
――教師が伴走型になるために、新渡戸文化学園ではどんな取り組みをしていますか。

授業だけでなく、学校の運営自体を児童生徒に渡していこうという動きが活発化しています。行事や校則についても、生徒主導で見直しを進めているところです。

例えば今、制服について検討しているようで、先日もある生徒が既存の制服が導入された経緯や当時の状況を私に質問しに来ました。その後は当時の状況と現在の状況を照らし合わせながら、課題点を洗い出していました。また、そうやって作った方針を保護者にも共有し、児童生徒、保護者、教員の三者で対等に意見交換をしながら、固めていっているところです。

その議論の中で、生徒から学校指定のセーターを廃止したいという意見が上がりました。保護者にもアンケートを取り、結果は賛成が7割、反対が3割でした。教員からは「7:3だから賛成多数で可決することもできるよ」とアドバイスがあったのですが、生徒は「3割の人たちの言い分を聞かずに決めたくない」とのことでした。今は、その3割の反対意見を詳しく聞こうと動いているところです。対話のお手本のような動きでとても感心しました。

児童生徒がこうやって課題と真正面から向き合い、自分で解決しようと主体的に動けるのは、普段の授業や学校生活の中で先生方がしっかりと児童生徒と対話し、信頼関係を築いてきたたまものです。「いくら話し合っても、結局最後は大人が決めるんだろう」と不信感を持ってしまうと、うまくいきません。自分たちで決められるという感覚を持てているからこそ、責任を伴った話し合いができているように思います。

教師の幸せ=児童生徒の幸せ
――とはいえ、最初から児童生徒を見守れる教師ばかりではなかったのではないでしょうか。

理事長になってから2年がたちますが、以前は児童生徒に指導的だった先生も、変わってきている様子が見受けられます。

先生方に「どうですか?」と声を掛けると、「本当はこんなふうに生徒とじっくり話しながら過ごしてみたかったんです」と、口をそろえます。

どの先生も皆、そうなのではないでしょうか。子供を怒鳴って強く指導する教師を志したという人はいないと思います。子供たちが自律して、幸せに生きていくための手伝いをしたいと思って先生になったはずです。その出発点を思い出してもらうのが私の役割です。

一方で児童生徒に委ねるスタイルは、時間もかかりますし、労力もいります。強い言葉で抑えてしまった方が、簡単なときもあります。日々の業務に追われていると、なかなか新しいことにチャレンジする時間も取れないのが現実でしょう。だからこそ、現場の先生が安心して挑戦できる環境を整えなければなりません。そうすることで先生の仕事に対する充足感も上がりますし、子供たちの学びの質も向上するのです。

――児童生徒の幸せと、教師の幸せは両立できると思いますか。

教師の幸せと児童生徒の幸せは両立できると強調する

私は、絶対に両立できると信じています。その二つのスパイラルがぐるぐる回って相乗効果を発揮するというのが、これから求められる学校の姿です。

今の日本の学校は、教員が幸せになるという視点があまりにも欠けているように思えます。幸せな人こそ、誰かを幸せにできます。逆に言えば、幸せを感じていない人が、他人を幸せにしようと頑張り続けることは、とてもしんどいことです。

私は理事長という立場上、児童生徒と直接関わる機会は決して多くありません。私の役割は、現場で奮闘する先生の幸せをつくることであり、自分は先生方の応援団長だと思っています。

自分以外の誰かのために頑張れるか
――平岩理事長は、なぜ学校教育に携わるようになったのでしょうか。

大学では経済学部を専攻し、新卒で商業施設を展開する丸井に入社させていただきました。30歳で子供が生まれたのを機に、「何か子供に関することをライフワークにしたい」と思うようになり、着目したのが子供の放課後問題でした。子供が安全に充実した放課後の時間を過ごせるために、何ができるのかと試行錯誤し、35歳でNPO法人を立ち上げました。

当時はサラリーマンとの二足のわらじで、何とか軌道に乗せようと必死でした。一方で注力すればするほど、子供の放課後には多くの課題があって、「気付いたならば見過ごせない!」との思いが募り、37歳の時に会社を「卒業」しました。

その後、学校を活用して地域と共に子どもを育てる「アフタースクール」を取り入れてほしいと、さまざまな教委に足を運びました。でも、「いいね」とは言ってもらえるものの、「残念ながら、あなた方には実績がないから」と断られてばかりでした。確かに当時は実績がなかったのですが、「実績ゼロは永遠にゼロのままなのか」と、途方に暮れていました。

そんな時、本学園の豊川圭一前理事長にプレゼンする機会をもらいました。今でも忘れられないのですが、理事長室に入って資料を取り出そうとかばんをゴソゴソしていたら、前理事長が唐突に「君の夢は何だ?」と質問してきたんです。とても焦りました。資料を出す手を止めて、汗をかきながら、自分がどうして放課後の問題に着目したのか、それをどうやって解決して日本中の子供を輝かせたいかという思いを、一心不乱に話し続けました。

その日、理事長室を出る最後に「君とやろうじゃないか」と握手をしてもらって、新渡戸文化学園の一員になりました。当初は「アフタースクール」の人として出入りしていましたが、だんだんと幼稚園や小学校全体の教育に関わるようになり、今に至ります。

私たちはよく「新渡戸のためだけに頑張るんじゃない。新渡戸のためはもちろんだけど、それを通じて日本中の学校を良くしよう」と言っています。本学園でいろいろな取り組みをして、そのいいところも失敗も他の学校が参考にしてほしいという思いは常に持っています。

利己より利他。他人のために頑張れる人を積極的に仲間に迎え入れているという

――自分たちのためだけではないというのは、すてきな視点ですね。

本学園の教職員を採用するときも、その基準は大切にしています。もちろん教科としての実践力やパッションも見ていますが、その人のパフォーマンスが利己か利他かを必ず見るようにしています。誰かのために頑張れる、利他の気持ちがある人を採用するようにしているのです。

さらに「新渡戸の戦力になってくれるか」という視点は持ちつつ、「新渡戸でこの先生が幸せになれるか」という視点も大切にしています。職員室や教室にいるその人の姿や表情をイメージして、「ああ、この人は新渡戸で幸せになれそうだ」という人を採用するようにしています。

 

(板井海奈)

【プロフィール】

平岩国泰(ひらいわ・くにやす) 特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年、東京都生まれ。96年、慶應義塾大学経済学部卒業。30歳のとき、長女の誕生をきっかけに“放課後NPOアフタースクール”の活動を開始。2011年に会社を退職し、日本の子どもたちの「社会を巻き込んだ教育改革」に挑む。“アフタースクール”は活動開始以降、5万人以上の子どもが参加。グッドデザイン賞を過去に4度受賞、他各賞を受賞。13年より文科省中央教育審議会専門委員。17年より渋谷区教育委員、学校法人新渡戸文化学園理事。 19年より同学園理事長を務める。著書に『子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門』(夜間飛行)など。

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