【平岩国泰氏】 月曜日に来たくなる学校をつくる

理想の学校のキーワードとして「ウェルビーイング」を掲げる新渡戸文化学園の平岩国泰理事長。「月曜日に来たくなる学校」にしたいと、副業や独自の挑戦を歓迎するなど、教師の幸せを追求した職場改革を進めている。そうした職場環境に魅力を感じ、最近では公立校から移籍して来る教員も少なくないという。公立も含め学校現場が抱える職場としての課題を深掘りし、教師が幸せに働くためのスキルについて考える。(全3回の最終回)

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公立校と合同の教員研修
――公立でバリバリ頑張っている教員が私立に異動するケースが、ここ最近加速しているように思います。

本学園にも、公立校で膨大な仕事に追われて理想の教育を追求しきれなかったという人が、移籍して来ています。ただ私はいつか、自分たちの実践を広く知ってもらうことで、公立校の進化に貢献したいと思っています。

公立校は、教育の中心的存在にあります。そんな重責を担っている公立校の先生が、自身の幸せを追求できる環境にいないことには、歯がゆさと危機感を感じます。

私は現在47歳です。現役でバリバリと働けるのは、あと20年ほどでしょうか。その間に全ての学校の先生たちが幸せそうに働いている姿を見ることが、大きな夢の一つです。その実現に向け、進化させている面もあります。

――具体的に何か動いているのでしょうか。

公立校など学校枠を超えた研修や取り組みを構想する平岩理事長

今年の夏は近隣の公立校の先生方に声を掛けて、一緒に研修ができればと考えています。また、これを皮切りに、学校間の枠を超えた取り組みを進めたいと思っています。先生同士が、学校間を留学する取り組みも始めたいです。コロナが落ち着いたら、児童生徒もそうした活動に加わることで、新たな学びや発見のきっかけになるでしょう。

また、毎年実施している勉強会を、ネットで配信して全国の先生と共有する試みも実行しようと考えています。

――公立と私立は分断されがちだと思うので、その垣根を越えて交流する機会はお互いにとって貴重なものになりそうですね。

自組織を越えて、広い視野を持って教育を描くことが、これからますます大切になってくるように思います。

私は、教育関係の仕事に就いている人は、みんな仲間だと思っています。子供たちを思う気持ちはみんな同じですので、一緒に協力しないと、すごくもったいないと思いませんか。

例えば、日本中の先生が毎日、黒板に板書をしていますが、授業が終われば消してしまいます。小学校だけで考えても、約2万校の先生の経験やスキルの詰まった板書が、ほとんど日の目を見ずに消えているわけです。それがとてももったいないと感じています。それらの板書を全国で共有して知見を集めれば、もっと良い授業実践が生まれるかもしれません。あるいは、それを基にスライドを作れば、省力化にもつながります。

各学校が自律的に運営することはもちろん大切ですが、学校間での協働ももっと生まれるべきではないでしょうか。

管理職に求められる3つの支援
――学校のリーダーとして、教員が幸せに働く環境を整えるために何ができるでしょうか。

私の場合は、先生自身が選び取れるように選択肢を増やす支援、具体的な業務改善や効率化の支援、精神的に励ます支援の3つを心掛けています。

管理職には3つの支援が求められると話す

まず、選択肢を増やす支援では、先生が一人の人間として彩り豊かな人生を送れるよう、選択できる余地をつくっていくことを大切にしています。「副業がしたい」「週4で働きたい」などのニーズがある限り、選択肢をつくってそうした働き方を実現可能にしていくのが自分の役目だと思っています。

二つ目は業務の効率化を図り、選んだ選択肢を実行できる環境を整えることです。既存の業務を見直して無駄な業務をなくす必要もありますし、ITなどを活用して業務の効率化を図れるなどの具体策も講じていかなければなりません。

最後に、最も大切にしているのは、一人一人の声をしっかりと聞くことです。本学園には現在150人ほどの教職員が在籍していますが、毎年夏に全員と個別面談をするようにしています。1人当たり30分の面談ですが全力で向き合います。学校の現状や未来を考える上で貴重な時間となっていますし、皆さんの成長支援をするのが私の責務です。

面談では一人一人に、自身の目標を聞かせてもらいます。「教師を目指していた頃、どんな先生になりたかったですか」「今はどのあたりにいますか」「これからどんなふうになりたいですか」といった具合です。

――使える予算や人員が限られている公立では、どのような手だてが考えられるでしょうか。

個人あるいは学校単体でできることとしては、分業の発想を持つと、時間の使い方が変わってくるように思います。

多くの学校で「〇〇学級」という表現がなされているように、児童生徒の問題や責任を担任が一人で背負ってしまいやすい構造があります。何か問題を起こした子がいると、「〇〇学級ですね」などと言われてしまうこともあります。

しかし、本来は「みんなの学校」の「みんなのクラス」の「みんなの子供たち」です。先生方一人一人の考え方がそうやって変わってくれば、業務の割り振り方や働き方に対する意識も変わっていくのではないでしょうか。

また、先生自身が、もっと自分の時間を大切にする意識を持ってほしいと思います。なし崩しで残業するのではなく、勤務時間の使い方を工夫し、早く帰れそうな日は定時で退勤する。そうした小さな積み重ねが、自分自身のためであるとともに、これから教師を目指す後輩たちのためにもなります。

人間は自分だけのためには、なかなか頑張りきれないものです。ですから、未来の後輩のためだと思って、「今日は早く帰ろう」と考えてみてほしいのです。言うまでもなく、管理職は現場の教員がそれを実現できるように、先頭に立って尽力しなければなりません。

月曜日に来たくなる学校をつくる
――理想の学校と聞いて、どのような学校を思い描きますか。

キーワードは「幸福」だと思うんです。笑顔の多い学校ほど、良い学校だと思います。しかし、今の学校は先生にも子供にも緊張や我慢を強いて、やりたくないことをやる場面が多々あります。それが教育だと思い込んでいる人もいます。

やりたくないことや苦手なことを強いられ続けたら、誰だってしんどいですよね。それよりも自分の良いところを認めてもらって、自分の長所を感じることができる学校の方が、心理的安全性を感じながら過ごせます。野球やサッカーも、全てのポジションをこなせる人はなかなかいません。「足が速いから」「守備がうまいから」など、一人一人の長所を生かしながら戦っているわけです。

教育界でも「ウェルビーイング」という言葉が、使われるようになってきました。時代は大きく変わろうとしています。サスティナブルやSDGsという考え方で、社会をつくることが主流になりつつあります。その次の段階として、「持続可能になった世の中で何をしたいか」という問いへの答えが、ウェルビーイングなのだと思います。

ですから学校は、大人も子供も笑顔になれて、幸せを感じられる場所にしていくために、何が必要かを突き詰めていくべきではないでしょうか。子供たちも先生も、月曜日に来たくなる学校をつくっていきたいですね。

幸せになる手段として仕事がある
――月曜日に来たくなる学校、すてきですね。

月曜日に来たくなる職場をつくることは、私の夢の一つです。楽しそうに働く先生たちの姿を見て、「大人って面白そうだな」と児童生徒にわくわくしてもらいたいんです。

しかし、現状は逆のイメージの方が強い印象です。

日本人は特にそうですが、仕事は我慢するもの、つらいものだという意識が刷り込まれています。あるいは仕事を優先するあまり、人間性まで曲げてしまったり、不幸に陥ったりする人もいます。

仕事は人間が幸せに生きるために生み出したシステムなんですから、それに振り回されるなんて本末転倒だと思いませんか。逆に仕事の方が、人間の都合に合わせるべきとも言えます。

例えば、長い人生の中で、「仕事を頑張れるとき」と「ちょっとスローダウンしたいとき」があります。これまではそんな自己都合的なことは、ほとんど許されてきませんでした。

育児のための短時間勤務も、少し前までは子供が3歳になるまでしか取れなかった会社が多かったです。そのこともあって仕事を諦めた大人も多かったと思います。でも、子供が小学生になっても中学生になっても、家族との時間を優先させながら働くことだって、すてきな生き方だと思います。子育てに限らず、さまざまな理由で多様な働き方が認められるべきです。「夜は自分の勉強に充てたい」「そもそもライフスタイルとして8時間勤務は疑問に感じる」など、それぞれの考え方を尊重し、多様な働き方、生き方を認めていく時代に差し掛かっているのです。

一方でこの理想は、職場では全員が意識高く、良いパフォーマンスを発揮するという前提があってこそ実現できることです。その意味でも、「ズルをする人がいるかもしれないから、全部禁止しておこう」と性悪説で決められてきたこれまでの社会のルールを、少しずつ見直していかなければなりません。

企業や組織の成長も大切だが、働く個人が不幸になる現在の構図の限界を指摘する

仕事は、人間性をねじ曲げてまでするようなものではありません。もちろん、企業や組織の成長も大切ですが、そのために働く人間が不幸になっているような構図には、もう限界が来ています。社会全体も「幸せになるために働く」という意識に少しずつ変わってきていますし、私たち学校現場も後に続かなければなりません。

私たちは今年から始まった新5カ年計画において、KPI(重要成果指標)として「子供の幸福度」「先生の幸福度」を置きました。偏差値での競争ばかりでなく、各校が「幸福度」を自慢し合うような社会を思い描いて、これからも頑張ります。

(板井海奈)

【プロフィール】

平岩国泰(ひらいわ・くにやす) 特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年、東京都生まれ。96年、慶應義塾大学経済学部卒業。30歳のとき、長女の誕生をきっかけに“放課後NPOアフタースクール”の活動を開始。2011年に会社を退職し、日本の子どもたちの「社会を巻き込んだ教育改革」に挑む。“アフタースクール”は活動開始以降、5万人以上の子どもが参加。グッドデザイン賞を過去に4度受賞、他各賞を受賞。13年より文科省中央教育審議会専門委員。17年より渋谷区教育委員、学校法人新渡戸文化学園理事。 19年より同学園理事長を務める。著書に『子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門』(夜間飛行)など。

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