北欧の教育最前線 成績表が存在しないデンマークの多様なテスト

デンマークでは、国民学校9年生(日本の中学3年生に相当)まで成績表が存在しない。歴史的に、筆記試験やその点数、順位などは重視されてこなかった。一方、子どもの学習に生かすためのテストや、知識を応用したり、対話を通して問題解決を行わせたりするような口頭試験が行われている。

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対話形式の口頭試験

9年生の英語の口頭試験では、生徒に2つの課題が与えられる。生徒がトピックを選択し、それについてプレゼンテーションを行う課題と、指定されたトピックについて会話とインタビューを行う課題である。

プレゼンテーション課題を受ける生徒は具体的なトピックを一つ選び、事前に参考資料を集める。例えば、「米国における生活」というトピックには「Black Lives Matter」や、アノニマス(インターネット上の活動家集団)、アメリカンドリーム、死刑、十代の妊娠などが含まれる。

生徒は教員の指導を受けながらプレゼンテーションの準備を行い、口頭試験前日までに発表要旨を提出する。当日は試験官2人(生徒を教えている教員と、生徒が通う学校外の教員)の前で5分以内のプレゼンテーションを行う。その後、試験官から質疑と評価コメントを受ける。生徒1人当たり20分以内で終了する。プレゼンテーションの内容に関する質問は、生徒を教えている教員から行われ、外部の教員は論理を明確にするための質問のみをする。

会話とインタビューの課題では、生徒がカードを1枚選び、そのカードに書かれている質問やイラスト、写真に沿って2人の試験官と8分間以内で議論する。このとき、議論は生徒が主導する。

以上のように、英語の口頭試験では、第二言語である英語を用いて自分の考えを表明する力や、ディスカッションの力が測られる。

テスト結果は子どもの学習に還元

デンマークでは、数学や理科など、語学科目以外でも口頭試験が実施されている。その背景には、今日のデンマーク社会に今なお影響を及ぼす、グルントヴィ(1783-1872年)の思想がある。

詩人、牧師、政治家であったグルントヴィは、他人の言葉をただ繰り返して答えるような筆記試験には、価値を見いださなかった。彼は、教員と子ども、また子ども同士の対話によって起きる相互作用や学びを重視していた。

もちろん、学校では教員が子どもたちの理解度を見るために、授業の中で小テストなどを行っている。しかし、義務教育修了試験では、身に付けた基礎的な知識を紙の上で再現する力だけではなく、その知識を応用・活用する力や、他者との対話を通して困難な問題の解決に取り組む力を総合的に測ろうとしている。

私たちがイメージするような筆記試験だけでなく、パソコンや関数電卓を持ち込んで受けるテストや、上述のような口頭試験が実施されているのは、そのためである。

このようなテストの結果はランキング化されることはなく、試験日の翌日には教員がウェブ上で確認できる。口頭試験については、教科担当の教員と外部の教員によって観点別に評価され、その場で子ども一人一人に詳細な結果が伝えられる。

教員は、テストの結果を踏まえた授業改善をすぐに行うことが期待されている。テストで測りたいことが教員間で共有され、測りたいことに適した評価方法が複数採用され、その結果が子どもたちの学びに還元されるサイクルが形成されていると言える。

大学生もグループワークの課題に取り組む

教員養成課程でも

対話を通じた相互作用を重視する姿勢は、大学の教員養成課程においても同様だ。教員養成系大学における学生の評価方法を教えてもらったところ、授業中の発言をはじめとした参加度や、学生同士で協働することに重きが置かれていた。

また、レポートや筆記試験、口頭試験で学生一人一人を多角的に評価している。口頭試験では2~3人で行うグループワークを課して、授業担当教員と外部の教員(多くの場合、高校教員)によって観点別の評価が実施されている。初等教育から高等教育に至るまで、評価の在り方が一貫していることが分かる。

このように、デンマークでは口頭試験を含む多様なテストを実施することで、一人一人の力を多角的に把握し、次の学習に生かすために評価しようとしている。対話や相互作用を通じて発揮される力まで試験で捉えようとしている、興味深い事例だ。

 

(市川桂=いちかわ・かつら 東京海洋大学准教授。専門は比較教育学)

 


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