高校生の探究心を開拓する 宇宙教育時代の幕開け

ヴァージングループの創業者が設立した米の宇宙旅行会社が、宇宙船の試験飛行を成功させたニュースが話題だが、日々進歩している宇宙開発に今、日本の高校生もさまざまな形で参加し始めている。未知の宝庫である宇宙をテーマにした探究型学習と聞いただけで胸が躍るが、日本ではまだ、宇宙は特別なものとして捉えられがちだ。宇宙を通じて高校生たちは、どんな未来社会を描こうとしているのか。各地の事例を取り上げる。


月面移住の課題を想定したPBL

「プロジェクトN」で生徒が3Dで制作したモックアップ(Zoomで取材)

「月での生活は骨折リスクが高まる。だから、専門医がいなくてもその場で治療できる機械を至る所に設置する」「宇宙でも生きられる線虫を使って、トイレでできるガン検査を」「放射線で色が変わるウェディングドレスに身を包み、月で結婚式をしよう」

オンライン上では、全国のキャンパスから選ばれた生徒が、次々にユニークな提案を発表していた。

広域通信制高校のN高校が、企業などと連携し、通学コースの生徒を対象に2017年度から手掛けている課題解決型学習「プロジェクトN」。今年度の4~6月に実施したプログラムでは、姉妹校のS高校が茨城県つくば市で開校したのに合わせ、同じつくば市内に筑波宇宙センターを構える宇宙航空研究開発機構(JAXA)とタッグを組んで「Project LoM!? Live on the Moon!?」と題した活動を展開した。生徒は人類の月面移住を想定し、そこでの生活を健康に過ごすためのアイデアを検討。地球上での今日的な課題解決にも応用できることを提案した。

毎回の授業では、近未来の宇宙飛行士の活躍をリアルに描いたことで話題となった人気漫画『宇宙兄弟』(小山宙哉作、講談社)のワンシーンを紹介しながら、困難な課題に立ち向かうためのマインドも学んだ。

それぞれのグループでは、JAXAから提供を受けた資料などを活用しながら、宇宙空間や月面で、どのような生活上の課題があるかを調べ、アイデアの検討過程では、詳細なターゲット像を設定したり、3D映像や模型などによるアイデアを具体化させた「モックアップ」を用いて説明したりした。

あるグループは、宇宙空間では骨粗しょう症や骨折を起こしやすいこと、地球上のように適切な医療がすぐに受けられない可能性があることを踏まえ、3Dプリンターとナノマシンの技術を使い、短時間で誰でもギブスを作ったり、骨折の治療が行えたりする機械を、AEDのようにいろいろな場所に設置することを提案。地球上でも、例えば長距離選手など疲労骨折が多い人にも、この技術を転用できるとアピールした。

また、審査の結果、最優秀賞に輝いたグループは、放射線が強い月面であっても、将来的には結婚式が行われると大胆に予想。人体に有害な放射線を逆手に取り、放射線を遮断するだけでなく、放射線量によって色が変化する特殊な生地を使ったウェディングドレスを考えた。

最終発表で審査員をした『宇宙兄弟』の担当編集者である小室元気さんは「1グループ目からこんなクオリティーの発表が続くのかと驚いた。かつては宇宙で水が浮かぶことを知るだけですごいと思っていたが、今の高校生はその先もしっかり想像している。『宇宙兄弟』の編集会議に来てほしいくらいだ」と評価した。

同じく審査員でJAXA宇宙教育センターの鈴木圭子さんは「どのチームも一生懸命に取り組んでいたのがよく分かる。1位に選ばれなくて悔しいというガッツもあって頼もしい。日本がここまで来たのも、1位を狙ってきたからだ。一方で評価を気にせずに自分たちの考えを進めていくことも大事だ。自分たちのカラーを大切にして取り組んでいってほしい」とエールを送った。

小型人工衛星を打ち上げる部活動

小型人工衛星の打ち上げに挑む宇宙探究部のメンバー(クラーク記念国際高校提供)

広域通信制高校のクラーク記念国際高校は7月、創立30周年を記念して、22年度中に宇宙をテーマにした探究型学習のプログラムを独自開発すると発表した。中でも目玉となるのは、部活動として「宇宙探究部」を創設し、実際に小型人工衛星を打ち上げることだ。

各キャンパスで希望者を募り、100人ほどのメンバーで構成される予定の宇宙探究部は、実際に人工衛星の企画・開発を行う「衛星開発チーム」と、人工衛星を運用する「宇宙ミッション実行チーム」、このプロジェクトについて世界に発信する「国際広報チーム」に分かれて活動。人工衛星の技術的な指導は、03年に世界初の1キログラム衛星「CubeSat」の打ち上げに成功した中須賀真一・東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授が行い、打ち上げには宇宙ビジネスを手掛ける「Space BD」が全面的に協力する。また、アンバサダーとして、宇宙飛行士の山崎直子さんが就任した。

衛星開発チームに志願した1年生の山根充輝(みつき)さんは「もともとものづくりが好きで、今はロボット開発に取り組んでいる。小さいころにスティーブン・ホーキング博士の本を読んで宇宙に憧れていたこともあった。宇宙でもロボットが活躍しているので、昔の夢と今好きなことがつながると思って入部した」と意気込みを語った。

しかし、いくら小型とはいえ、本当に高校生が人工衛星を設計することができるのだろうか。こうした疑問に対し、中須賀教授は「構造力学や宇宙工学、機械工学といったベースとなる知識がない高校生には、必要なときに必要な知識を教えていくのが非常に大事だ。大学生に教えるよりも工夫が必要かもしれないが、うまく教えることはできる」と自信をのぞかせる。

さらに「この人工衛星のミッションは自分たちで設定することになる。設定したからには自分たちで解決しなければならない。今の日本の教育は知識を与えて覚えさせるが、それがどう使われるのかを知る機会はない。こういう教育はよくない。問題解決のためにどんな知識が必要か、何を学ぶ必要があるかを知った上で学んでほしい。衛星開発はとてもしんどいプロセスだが、その先には大きな喜びがある。その感覚をぜひ生徒に経験してほしい」と高校生に期待を寄せる。

レゴブロックで宇宙エレベーターをつくる

上っていく宇宙エレベーターを見守る高校生(小林副校長提供)

宇宙開発の中でまだ実用化されてはいないものの、日本が世界をリードしている技術に「宇宙エレベーター」がある。宇宙エレベーターとは、地球と宇宙をケーブルでつなぎ、乗り物で往復することで、ロケットよりも効率よく宇宙空間への輸送を可能にする夢の技術だ。長年、軽さと強度を備えたケーブルに適した素材がなく、机上の空論とされてきたが、1991年にカーボンナノチューブが日本で発見されたことで、にわかに実現可能性が高まった。

実現に向けた課題の一つとして、地上と宇宙空間を垂直に移動する乗り物の開発がある。13年から始まった「宇宙エレベーターロボット競技会」は、この問題を解決するために、高校生を中心に子どもたちが宇宙エレベーターの乗り物のモデルを試行錯誤しながら作り上げる取り組みだ。昨年は新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となったものの、一昨年の競技会では地区予選を含め全国から48チームがエントリーするまでに拡大。今では高校生だけでなく、小中学生からの挑戦も珍しくない。

競技会ではレゴ社の教育用ロボットを利用した乗り物が、宇宙ステーションを模した目的地から吊り下げられた2.5~4.0メートルのテザーと呼ばれるベルトを行き来する。「制限時間内に卓球のボールをできるだけ多く宇宙ステーションに運ぶ」といった与えられたミッションをクリアするために、一度に運搬できる量を増やすか、往復にかかる時間をどれだけ節約するかなど、チームによって異なる戦略で競い合うのが魅力の一つだ。また、不安定な状態で垂直移動させるための機構やプログラム、モーター、センサーなどは、通常のロボットとは勝手が異なり、より工夫とトライ&エラーが必要とされることから、宇宙開発に通じるものづくりの面白さを味わうことができる。

実行委員長を務める小林道夫神奈川大学附属中・高等学校副校長は「ロボットやプログラミング、ものづくりが好きな子どもたちが、宇宙に興味を持つきっかけになっている」と参加チームが年々増えている競技会の活動に手応えを感じる一方で、日本の宇宙教育の現状には懸念もあるという。

「中学校や高校で宇宙について、しっかり学ぶ機会が少なすぎる。このままでは、宇宙開発が進む世界の中で日本だけ置いていかれてしまうのではないか。日本人の宇宙リテラシーが低すぎる。一部の人だけでなく、社会全体が宇宙のことや宇宙開発を支える科学技術に関心を持つような施策を、国として取り組む必要がある」と指摘。宇宙教育のすそ野を広げつつ、学校教育などで体系的に教えるべきだと強調する。

(藤井孝良)

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