【北欧の教育最前線】 受講生に時給? スウェーデンのサマースクール

日本にも北欧にも、夏が来た。休暇を心待ちにしている人がいる一方で、夏期講習で「勝負の夏」を過ごす受験生もいるだろう。スウェーデンには受験はないが、それでも夏期講習にいそしむ若者たちがいる。そしてその数が近年増えている。いったい何が起こっているのだろうか。

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高校に入るために

スウェーデンでは、夏休み明けに新学期を迎える。6月は卒業、8月が入学・進学のシーズンだ。

その間に夏期講習を受けるのは、高校に入学するために必要な成績が取れなかった、あるいは、取れないリスクがある生徒たちだ。

日本と違って、スウェーデンでは高校進学の際に学力試験は行われない。しかし、高校に入学するためには、日本の小中学校にあたる基礎学校の最終成績で、スウェーデン語、数学、英語を含む、いくつかの教科に合格している必要がある。

この要件を満たさない生徒は、高校のイントロダクション・プログラムに入り、補充学習を行うことになる。イントロダクション・プログラムでは、各生徒が個人のニーズに合わせた内容とペースで学習を進め、高校の正規課程への進学を目指す。実際には、1年後に約半数の生徒が高校に進学していく。その他の生徒は、2年以上かけて高校に進学したり、3年間学んだ後に、成人教育に移ったり、就職したりとさまざまだ。

イントロダクション・プログラムに入るのは決して特異なケースではない。近年、その数は高校入学者の15%ほどにものぼる。スウェーデンでは、学年が多少ずれてもあまり気にすることはなく、イントロダクション・プログラムに通った分、長く高校生活を送ってもハンデにはならない。すでに義務教育段階で、発達の状況に合わせて学年をずらしている人もいる。

それでも、できることならイントロダクション・プログラムではなく、ストレートに正規の高校課程に入学したいと考える生徒は多い。彼らを救うのが、6月の卒業式を終えた後、8月に新学期が始まるまでの間に行われるサマースクールだ。

サマースクールの機会保障

サマースクールは、正式には休暇学校という名称で、学校教育法に規定されている。

スウェーデンではボートで夏を楽しむ人も多い

先に述べた高校への入学要件を満たせないまま卒業した生徒や、8月に最終学年になるが、卒業時に要件を満たさないリスクがある生徒に対して、基礎学校が夏季休暇中に講習を行う。生徒にとって受講は任意だが、基礎学校は必ず6月中に講習を開かなければならない。

高校入学前に補充学習を行うサマースクールは以前からあり、コミューン(日本の市町村に相当)の裁量や予算で実施されていた。2014年以降、国から補助金が出るようになり、生徒数が増えた。17年には学校教育法で開設が義務化され、生徒数はさらに増加している。

コロナ禍の影響も見逃せない。変異種の感染拡大対策のために中学校の多くが遠隔授業になったことで、教育の質が下がり、サマースクール受講生はさらに増えたという。学力不足の懸念から、下級生に対象を広げている学校もある。

サマースクールの授業では、対象の教科を集中的に学ぶ。例えばある生徒は毎日4時間ずつスウェーデン語を勉強して、最後にテストを受けて合格を目指す。合計すると36時間分になり、毎週1時間ずつ半年間の授業時間に匹敵する。普段の時間割では、毎日複数の教科の授業を受け、それぞれが少しずつ積み上げられていくが、1つの教科を集中して学んだ方が効果的な場合もあるだろう。

勉強してお金がもらえる?

コミューンによっては、サマースクールの受講生に、一般的な夏休みのアルバイト代に相当する時給を払うところもある。若者たちは夏休みにアルバイトをすることが多いため、その代わりにサマースクールに来てもらう策だ。

若者が、成績不振なまま高校にあがった場合、中退などのリスクが増え、社会保障にかかる費用が多くなる。時給を払ってでも高校入学前に学力をつけてもらった方が、社会全体としては経済的だという考えからだ。

とはいえ、自分の成績を上げるために時給をもらえるなんておかしい、と思われるかもしれない。スウェーデン国内でも、反対意見がある。学期中に努力して良い成績をとって、夏のアルバイトが見つからない生徒もいるはずなのに、成績が悪かった生徒だけが夏に勉強して給料をもらうのは筋が通らないというわけだ。

サマースクールに国家予算が使われるようになった数年前から、こうした疑問の声も大きくなっているが、現在も禁止などには至っていない。これからどうなるのだろうか。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)


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