【大学ランキング4位】 地元で学んで地元で未来を描く

自己肯定感が、未来を描く土台になる――。共愛学園前橋国際大学の大森昭生学長は、これからの時代に必要な力の一つに自己肯定感を挙げる。諸外国と比較しても目立って低い日本の若者の自己肯定感は、どのように育んでいけばよいのか。「本学の学生は社会に出て学んでいる。実社会でのチャレンジを通して、自分が“社会に果たせる役割”を感じることで、学生たちは未来を描き始めることができるようになる」と大森学長は話す。同学の学びの実践からそのヒントを探る。(全3回の最終回)

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学びの高大接続は動いている
――大学入試改革の頓挫で見直しを迫られている高校と大学の接続について、どのようにお考えですか。
「高大接続で重要なのは、学びの接続」と話す大森学長

これまで「高大接続改革」が「大学入試改革」と同義で語られてきたところがありますが、私は「高大接続」で重要なのは、「学びの接続」だと考えています。入試ももちろん重要ですが、「学びの接続」のための一つのツールにすぎません。

地方において高校と大学の「学びの接続」は、すでに大きく動いています。現状の高校教育改革の半歩先にいるのが大学です。これまで大学が取り組んできた教育の質の転換と保障のノウハウを、高校の「探究」や「社会に開かれた教育課程」「カリキュラムマネジメント」等に生かしてもらうなどして、大学は積極的に高校教育改革に関わっていくべきです。

本学はすでに、地元の多くの高校と学びのコラボレーションをしています。例えば、高校生がうちの大学に来て、大学生とアクティブ・ラーニングを展開した「高大連携コラボゼミ」や、探究学習や主権者教育プログラムのレクチャー、地域探究学習のコラボなど、教員も学生もさまざまな連携をしてきています。

これまでの大学と高校は、偏差値だけでつながっていました。でも今は、“学びの中身”でつながり始めており、それこそが「高大接続」ならではのメリットではないでしょうか。

「自己肯定感」が未来を描く土台になる
――先々の社会の変化を捉えながら改革を続けて来られましたが、これからの時代に必要なのはどのような力だと考えていますか。
社会とつながる学びは、自己肯定感を育む意味でも重要

新学習指導要領で示されている方向性については、私もその通りだと思います。ただ、これからどんな学びを展開していくか、あるいはどういう大学になっていくかに関しては「分からない」んですよね。

この「分からない」というのは、ネガティブな意味ではありません。予測困難な時代を生きる上では、未来は「分からない」と自覚することが、まず重要だと捉えています。

もちろん、本学も「10年後にはこうなっているだろうから、こうしましょう」というような中長期計画を立てています。しかし、10年後に本当にそうなっているのかは、誰にも分かりません。だからこそ、自分たちが想像していたことと違うことが起こったときに、自分たちの間違いや方向性を正していけるような柔軟性を、大人も子供も身に付けておくべきでしょう。

そして、いろいろな方が言われていることですが、私も「自己肯定感」は重要だと思っています。

――これまでのさまざまな調査によると、日本の子供たちは他国と比較しても、自己肯定感の低さが目立ちます。どうすれば高められると思いますか。

自己肯定感は未来を描く土台になります。だから、私は非常に大切だと思っています。

数年前に、県内有数の進学校の高校生と本学の学生が参加して、一緒にキャリアデザインを考える学びを行いました。

その中で、「何年後かの自分を描いてみよう」というお題が出されたのですが、高校生の回答が「ブラックな企業に勤めてしまう」「結婚できていない」など、暗いものばかりで驚きました。一方、本学の学生は「将来、起業したい」「先生になる」など、明るい未来を描いていました。

「あの高校生の悲観的な感じはなぜなんだろう?」と、ある教育機関の方にこの時の話をしたら、「今の高校生は、全体の傾向としてそうですよ」と言われたんです。

では、うちの学生が未来を描けているのはなぜなのか。うちの学生は、大学へ入ってから地域や地元の企業などに出て行って学んでいます。企業に行った学生は「企画書持ってくるのが遅い!」と怒られたり、それこそ寝坊して叱られたり、いろんな失敗も経験します。そうした経験を通じて学生は「どうやら失敗しても、この社会で生きていけるみたいだ」ということを、身をもって知るようなんです。

つまり、本学の学生が地域と、あるいは社会とコミットしているのは、「社会の中で自分はどういう役割を果たせるのか」と考える機会があるためであり、それは自己肯定感を育む意味でも重要なのです。実社会の中でのチャレンジを通して「とりあえず生きていけそうだ」という感覚を持つと、未来を描き始めることができるようになる。そこがまず、大事なのではないかと思います。

でも、ほとんどの高校生はそんな経験をしていないから、自分が社会に出て生きていけるかどうかなんて分かりません。入ってくるニュースは暗いものばかりだし、親は職場の愚痴しか言わない。これでは、自分の未来なんて描けるわけがありません。

私は今、群馬県の青少年健全育成審議会長を務めさせていただいています。大きな社会問題として、成人の「引きこもり」がありますが、高校や大学時代に引きこもるケースよりも、社会人になってから引きこもるケースの方が多いのです。

現実とのギャップに折り合いがつけられないことが、大きな原因の一つでしょう。当然、そうした現実をつくっている大人の問題でもあるわけですが、高校や大学時代に実践を通して社会を経験していれば、そのギャップも少しは埋められるのではないでしょうか。

学びを地域に委ねる
――「社会に開かれた教育課程」が持つ可能性は大きいですね。
地元で学んで将来を描こうとしている若者たちにエールを送る

私は「大学にはできないことがたくさんある」という覚悟を持っています。学校の先生は教科のプロ、教育のプロだし、われわれ大学教員も各専門分野のプロです。でも、学校や大学には現場も実践もありません。だからこそ、学校を外に、社会に開いていく以外に方法はないのです。地域に委ねれば、素晴らしい先生が山のようにいます。

かつて、地元の企業は「地元の大学なんて駄目な大学だ」と思い込んでいましたし、大学は大学で「地元の企業なんて中小のブラック企業しかない」と思い込んでいました。その結果、地域と地方大学の不幸な関係が出来上がっていました。

ところが、学生を真ん中に置いて向き合えば、「なんだ、地元の大学の学生だけど、結構いいやつがいるじゃないか」と、リアルな姿が見えるようになります。地域と大学がネガティブな関係からポジティブな関係に転換していくためには、中心に学生を置けばいいだけだったと、私たちは教育の在り方を変えていく中で気付きました。

――こうした関係性の変化が、地方創生にもつながるのですね。

地方創生にはさまざまな観点がありますが、やはり一番は人口減をくい止めることです。その「社会減」の真ん中に大学があるから、常に大学は地方創生とセットで語られる宿命にあります。

本学は県内就職割合が73%(2019年度)です。若者の人生は若者のものであって、地方創生のためのものでもなければ、大学のためのものでもありません。でも、地元でいろいろな活動をして、地域の大人たちと触れ合っていくと、結果として「ここで頑張ってみようかな」となることも多い。

今後、地方と世界がダイレクトにつながるような時代にますますなっていけば、「仕方がなく」地元にとどまるのではなく、フラットな選択肢の一つとして地元にとどまることになります。もちろん、東京に行く人がいてもいいし、世界に行く人は行けばいい。でも、群馬に残ることを選ぶ学生も、普通に「すごい」と言ってもらえるようになるはずです。

地元で頑張って学んで、そこで将来を描こうとしている若者たちに、「それでいいんだよ」と言ってあげられる。そんな社会をつくっていくことが、われわれ大人の使命だと思っています。

(松井聡美)

【プロフィール】

大森昭生(おおもり・あきお) 1968年、宮城県仙台市生まれ。東北学院大学文学部英文学科、同大学院博士課程にて研究。96年に学校法人共愛学園に入職、共愛学園前橋国際大学国際社会学部長、副学長等を経て、2016年より47歳で学長となる。21年より共愛学園前橋国際大学短期大学部学長も兼ねる。専門はアメリカ文学で特にヘミングウェイを研究。中教審の各種委員、内閣官房地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けた検討会議委員などのほか、群馬県青少年健全育成審議会会長等地域における各種公的委員を多数務め、各地での講演多数。3児を育てており、2人目・3人目の出産に際し、育児休業を取得。群馬県総合表彰(男女共同参画社会)。前橋市スーパーシティの統括アーキテクトや「めぶく。プラットフォーム前橋」副会長など、前橋市のまちづくりにおける各委員も多数務める。全国の学長が注目する学長ランキング4位(大学ランキング2022)。

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