保護者の私費負担増と教員の自腹購入 福嶋尚子准教授に聞く

「学校の近くに100均をつくったらよく売れるだろう」と言われるほど、教員の自腹負担が常態化している一方、保護者の私費負担も年々増している。文科省が行った2018年度「子供の学習費調査」によると、公立中学校に子どもを通わせる保護者が負担する学校教育費の平均額は、年間約14万円。憲法で「義務教育無償」を謳いながら、なぜこうなるのか。千葉工業大学の福嶋尚子准教授(教育行政学)に聞く。(全2回の最終回)

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本当に必要な教材を選んでほしい
――教材を選ぶ際、教員はどんなことに気を付けたらよいのでしょう。

先生方に教材を準備する余裕がないというのはとてもよく分かるので、言いづらいことではあるのですが、「教材作り・教材準備を楽しめるような教員人生にするために、どうしたらいいか」ということを、ちょっと考えてみてほしい気がしています。いま保護者に買ってもらっている教材は、業者から出てきたリストから「どれにする」と選んでいるだけで、宿題もそこから「じゃあ何ページね」と出しているだけなんですよね。

もちろん、余裕がない中でそうせざるを得ないというのは百も承知なんですが、先生方が授業作りをするときの楽しみは、本当は「どういうプリントを作ったら分かりやすいか」とか「どういう模型を作ったら子どもたちの頭の中でイメージしやすいか」といったことを考えて、準備しているときにあるのではないのかと思います。

その一環で保護者負担が生じるのであれば、「これこれこういう必要があって、この教材を作りたいんです、そのためにはこれが必要で」と、きちんと説明できるでしょう。そうすれば「意味がある支出なんだな」と分かって、保護者も気持ち良く払えると思うのです。いまは先生方も時間がない中で、パパパッと選んだものを「買ってください」と言っている状態なので、保護者も納得しづらいのでは。

だから教材費を安くしてくださいというよりは、「本当に必要な教材を選ぶ・作るという権限(補助教材選定権)を、ぜひ行使してください」というように、私は普段から学生にも言っています。そのとき頭の端っこにでも、私費負担のことを置いておいてくれたらありがたいのですが。

いま教材を選ぶのは、年度初めの始業式前の1、2日ぐらいのところで一気にやっているとも聞きますが、「え、そんなに早くやっちゃうの」という感じもします。中学や高校だと、その教科を教えたくて、その教科の免許で先生になっているわけですよね。そうしたらやはり、授業づくりの楽しさをもうちょっと追求してほしい。教科書会社や教材会社に提示されるがまま、前例踏襲で買うというのは、やめてほしいなと思うのです。

「先生の自腹問題」の解決を
――お金がかからないよう、家にあるものをもってきてもらおうと思ったら、保護者からそれも困ると言われることがあります。たとえば新聞紙など、いまはとっていない家庭も多いらしく。

そういったものは、種類にもよりますが、「〇〇回収ボックス」を学校に置いておけばいいと思います。新聞紙とか、お菓子の空き箱とか、入れておくボックスを置いておいて「見つけたときに持ってきておいてね」ということで。

逆に調理実習の材料系は、持参を求めるよりは学校で用意して頭割りしてくれた方がいいですね。現物持参で「煮干しを2本持っていくために、要らないのに1袋買った」みたいなことになるよりは、ずっといいと思います。公費負担にできれば一番いいのですが。

裁縫道具などは現物持参でなく、学校の備品にしてもいいかもしれません。調理実習の道具は学校に全部あるので、同じように考えればいい。技術の道具もそうですね。もっとも、水着やリコーダーを共有するのは抵抗があり、衛生的にも問題です。また、図工の絵具や筆、書写道具は、かなり汚すので個人持ちの方がいいというのも、分からないでもないですが、学校備え付けに変えられるものもあるはずです。公費でどうしても足りないのであれば、1家庭いくらというように割ってお金を出すかたちでも、各家庭の負担は減るでしょう。

個人持ちであっても学校に置いておけばいい物も、意外とあると思うんです。特に今、単元によっては頻度が減って、年数回しか使わないものもある。

ただし、学校に置いておく、あるいは学校に備え付けにする場合、管理するコストが別に発生するので、先生方の働き方の問題にかかわってきます。だからこれもやはり先生方をちょっとラクにしないと、実現が難しい。いまは先生方にたくさんの負担を強いていて、家庭にも相当の負担がかかっているので、その負担に向き合わないと、どちらかだけ軽くしてくださいとは言えないところがあります。

ただ、先生方も「自分たちが大変だから保護者に負担をかけていい」とは思わないでほしい、とも思います。そもそも先生方にとっては仕事で、やはり保護者とは立場が違いますから。それを言うのもはばかられるくらい、いま先生方が大変なのも分かるのですけれど。

私は、先生方の働き方や自腹購入の問題を何とかしないと、保護者の私費負担の問題は改善しないと思っています。解決の順番としては、教員が先でしょうか。保護者の負担がなくなっているのに、教員が自腹を切っている、という状況はちょっと考えられないので。

先生方が自腹を切っている部分を何とか公費にして、公費を何とかもっと使いやすい仕組みにしていくと、たぶん先生方も「じゃあ、保護者の負担もちょっと考えないと」という思考の余裕が生まれるんじゃないかと思います。

福嶋尚子准教授
公費の不足と使いづらさに声をあげて
――公費で物を買おうとすると、購入先が限られてしまうし、手間も時間もかかるので、先生の自腹や、保護者負担に流れやすいという話も聞きます。

そうですね、いまは公費だと使いづらい仕組みだから自腹になってしまいます。私も大学の教員として、授業準備のために百均でいろいろ買って教材をつくるのでよく分かるんですが、やはりそこは公費を使いやすいシステムにして、公費で買うようにしていかないといけません。「公費が使いづらい」という声を、もっと先生方や事務職員が上げてくれたらいいと思います。

先日ツイッターで見た話ですが、新任の先生が「理科の実験道具はどうやって用意したらいいんですか」と相談したら、主任の先生が「君はまだ初任でお金がないだろうから買ってあげるよ」と得意げに言ったと。「え、実験道具が自腹なんですか」と聞いたら「当たり前だ」と言われた、という話があって。いやいや、そこで主任の先生は、実験道具が自腹なのはおかしいよねと初任の先生に言ってほしい。

――なぜ誰も、改善を求めないのでしょうか。

きっと「自分で払えば済む」「自腹の方が簡単だ」と思ってしまうのですね。問題だということに気付かずに「こういうものだ」と思って払っている先生が多いのではないかと思うので、それも「本当はおかしいことだよ」と気付かせてあげなければいけません。

『隠れ教育費』(2019)という本を書いたとき、ちょっと悲しかったのが、教員をやっている古い友人たちから「保護者の負担より、教員の自腹の方が大変なんだよ」と言われたことでした。分かるんですよ、分かるのですが、そこは保護者と先生では、権限も立場も全く違うのです。でもやはり、そんな環境に教員はいるんだな、ということも痛感しました。

教員の自腹も、保護者の私費負担も、根っこは同じで、公費不足と公費の使いにくさです。ですから保護者を味方につけるような対話の仕方を探してほしいなと思います。「ここにお金をかけるのはどうなのか」と思うものは、保護者にも意見を聞いてみると、賛同して後押ししてくれることもある。

お金の問題は特に、先生方と親が対立する構図にはまってしまうことがよくあるのですが、先生方が自腹を切っていることを保護者は知った方がいいし、保護者が年10万円以上も負担していることを先生方も知ってほしい。そういうことを知ったときに、「お互いに大変だから、両方の負担を軽くするために考えませんか」と対話をする方向に近づきます。

そしてそうなったら、負担を減らすために、子どもの教育を受ける権利を保障するために、どうしたらいいだろうということを話し合うほうが、ずっと建設的で、現実的だと思うのです。

(クローズアップ取材班)

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