子どもの声が届く地域を取り戻す 放課後の居場所づくり

地域の課題の一つとなっているのが、放課後の子どもたちの居場所づくりだ。少子高齢化や防犯意識の高まりなどから、学校や家庭以外で、子どもたちが自由に遊んだり、安心して過ごしたりできる場所が少なくなっている。こども庁の創設によって、こうした課題にスポットライトが当たる可能性は十分にあるが、まだ具体像は見えてこない。地域における子どもの居場所をどうやって取り戻すべきか、各地の取り組みを追った。


大学生が運営する駄菓子屋

夏休みが間近に迫った7月、東京都足立区にある関三通り商店街には、子どもたちの歓声があふれていた。都内9カ所で学童保育を運営しているNPO法人「Chance For All(CFA)」が新たな取り組みとして始める駄菓子屋「irodori」がオープンを迎えたのだ。店内には100円玉1枚でも十分買える価格の懐かしい駄菓子が並び、奥には広いフリースペースがある。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着けば、子どもたちが買ったお菓子を食べたり、宿題をしたり、自由に過ごす空間として利用する予定だ。フリースペースの壁には大きな黒板があり、来店した子どもたちが早速、思い思いにチョークを手に取って落書きを始めた。

駄菓子を選ぶ子どもたち

「irodori」を運営するのは、CFAの学生チームだ。昨年10月にプロジェクトを立ち上げ、商品の仕入れからクラウドファンディングによる資金集めまで、店づくりのほとんどを担った。オープンまで1カ月に迫り、店づくりが佳境を迎えると、CFAに通う子どもたちも一緒になって、内装やオリジナルの家具を手作りした。

「駄菓子屋は今まで行ったことがなかった。もう少し大きくなったら、私も店員さんになって手伝ってみたい」と、この日のオープンを待ち遠しくしていた子どもたち。大学で建築空間のデザインを学ぶ東洋大学ライフデザイン学部3年生の工藤綾乃さんは「大学の授業で設計図を作ることはしていたが、実際に自分のデザインを形にしたのは初めての経験。ハードスケジュールだったが、仲間や子どもたちと『Do it together』で、思っていた以上にゼロからやらせてもらえた」と興奮を隠せない様子だ。

駄菓子屋に価値を見いだした学生たちの挑戦に、周囲も期待を寄せる。「irodori」が入ることになった空き店舗の大家である長幡哲広さんは「商店街の真ん中で好立地なので、実は他にも何件か入居の申し込みがあったが、若い人たちの熱意が伝わってきて、彼らに貸すことにした。子どもたちの声が響けば、この商店街にも活気が生まれる」と語る。

CFA代表の中山勇魚(いさな)さんは「ここに駄菓子屋ができたことで、子どもたちが商店街をより身近に感じてくれる。また、商店街の人たちが子どもたちを見守り、声を掛けるようになれば、地域の安全安心も高まる。それこそが地域の資産になるのではないか」と、駄菓子屋の復権に可能性を感じていた。

「irodori」という店の名前には、いろいろな色と色が重なることで、違った色になるように、子どもたちや地域の人たちが交流して新たな可能性が生まれる場所になるようにという思いが込められている。学生チーム代表を務める青山学院大学国際政治経済学部2年生の飯村俊祐さんは「ここまで大変だったが、いろいろな人に支えられて、地域に受け入れられて、スタートを切ることができた。やる以上は継続させないといけない。メンバーにあまり負担をかけずに、どう回していくのが課題だ」と気を引き締めている。

学童保育と放課後子ども教室を一体運営

放課後、子どもたちは校門を出ずにそのまま校舎内の「アフタースクール」の教室に三々五々やって来て、読書や宿題、工作、遊びと、思い思いの時間を過ごす。「体育館で遊んだり、プログラミングをやったりするのが楽しい」「ここは友達がたくさんいる」と子どもたちは口をそろえる。

思い思いの放課後を過ごす子どもたち

千葉市立稲浜小学校では、2017年度からNPO法人「放課後NPOアフタースクール」が市教委からの委託を受けて、学童保育と放課後子ども教室を一体にした「稲浜小アフタースクール」を運営している。現在は90人ほどの児童が利用登録をしているが、毎日利用する児童もいれば、家庭の事情に応じて特定の曜日だけ利用する児童もいる。待機児童問題で課題となっている高学年での利用ニーズも高く、習い事が始まる前に立ち寄ったり、夏休みの間だけ利用したりすることもできる。

稲浜小アフタースクールは校舎内の教室を改装しているため、子どもたちは特別教室や体育館、校庭などの施設も遊び場として利用できる。放課後も子どもが学校にいることは分かっているため、教師や保護者も安心でき、今では評判を聞きつけて「アフタースクールがあるから稲浜小の学区に引っ越してきた」というケースもあるという。

アフタースクールのもう一つの特徴は、充実した体験プログラムの存在だ。取材した日は、世界自然保護基金に所属する研究者と共に、クイズなどを交えて海洋資源の保護について解説する「タイムトラベルツアー」がオンラインで開かれていた。これは、住友生命が全国の学童保育などの放課後団体向けに支援しているプログラムの最新版で、子どもたちの理解度や反応を見るために、アフタースクールと連携して試験実施をしているのだという。

稲浜小アフタースクールでは、この他にも、外部講師を招いての英語やヨガ、プログラミングなどの講座が定期的に開催されたり、スタッフによる工作や学生によるウォーターサバイバル大会などが企画されたりしている。責任者である松盛雅香(みやか)さんは「これらの体験プログラムへの参加はあくまでも選択制で、その日どう過ごすかは、子どもが自分で決めている。大人はできるだけ見守る姿勢で、子どもたちの自律性や主体性を育てている。自分の気持ちを言葉にするのが苦手な子もいるので、うまくフォローしながら、少しずつリーダーシップやコミュニケーションを取れるようにするなどして、成長を促している」と、スタッフの基本スタンスを説明する。

コロナ禍で痛感した子どもの権利の大切さ

夏の日差しを浴びながら、子どもたちが泥だらけになって駆け回る。ここでは水遊びやたき火をしても、大人から怒られることはない。ただ何もせず、のんびり過ごしてもいい。「川崎市立子ども夢パーク」は、その名の通り、子どもたちが思いきりやりたいことをして過ごせるちょっと不思議な公共施設だ。

「今の子どもたちは時間がどんどん奪われて、やらなければいけないことで縛りつけられている。ここでは、大人から禁止されたり、怒られたりすることはない。子どもたちがやってみたいことに思いきり挑戦できる。ただし、けがと弁当は自分持ちで」

子ども夢パークには、ゆったりとした時間が流れる

そう語るのは、昨年度まで子ども夢パークの所長を務めていたフリースペースたまりば理事長の西野博之さんだ。川崎市では、2000年に全国に先駆けて「子どもの権利に関する条例」を制定。条例の理念を体現する場所として、子どもたちの声も聞きながら03年にオープンしたのが子ども夢パークだ。広大な敷地の中に、手作りの木造遊具や井戸水を利用した大きな池などがあるプレーパーク、スポーツのできる全天候型広場などを備える。屋内施設には、音楽スタジオや学習交流スペースなどもある。全国初の公設民営型のフリースクールもあり、平日でも常に子どもたちの声があふれている。

そんな子ども夢パークも、昨年の新型コロナウイルスの感染拡大による1回目の緊急事態宣言では、大きな決断を迫られることになった。突然の一斉休校や緊急事態宣言で、西野さんが真っ先に懸念したのが、家庭での虐待の増加だった。

「こういうときこそ、開け続けなければいけない」と、西野さんはすぐに川崎市に働き掛け、子ども夢パークは休園することなく子どもたちを受け入れた。「個々のスタッフはプレーリーダーでありソーシャルワーカー。子どもたちはSOSを言えない。日常の居場所だからこそ、子どものちょっとした変化に気付けることがある。子どもの権利条例の理念に照らし合わせても、絶対に閉めてはいけないと思った」と西野さんは振り返る。

しかし、感染防止対策のために、ボールを使用した遊びなどは禁止せざるを得なかった。すると子どもたちは「どうしてボールが駄目なの?」と疑問を投げかけてきた。「ボールを使って遊ぶと密集して感染のリスクが高まるから」と説明すると、子どもたちは木の枝の先に花を付けてソーシャルディスタンスを確保したり、誰かがボールを持っているときは他のプレイヤーは動きを止める「だるまさんが転んだサッカー」などの遊びを生み出したりした。

その様子を見ていた西野さんは「当時は大人の方が思考停止していた。子どもたちは何がいけないかをはっきり理解し、自分たちで工夫して、どうしたらできるかを必死で考えていた。大人は対等なパートナーとして、もっと子どもの意見を聞かないと駄目だ」と、改めて子どもの権利の重要性を痛感させられたという。

毎年11月には、子どもたちが出店をつくり現金で商売する経験をする「子どもゆめ横丁」を開催しているが、これも中高生が中心となって一つ一つの問題をクリアしながら、感染防止対策を徹底した上で実現した。

コロナ禍が続く中で、政治の世界では突然、こども庁の創設に向けた動きが具体化している。このことについて西野さんは「日本では子どもの権利を学校でしっかりと教えていない。一体どこで学ぶのか。子どもは未熟な大人という発想ではなく、生まれたときから一人の人間として捉え、その存在をどう守り、育てるのか。それが子ども庁のベースであるべきだ」と、子どもの権利の保障を政策として社会に浸透させることの必要性を指摘する。

外遊びの環境整備こそこども庁で

こども庁創設を巡る議論の中でも、子どもの居場所づくりは重要なテーマの一つとなっている。

子どもの遊びや発達などに関わる研究者と企業による「子どもの健全な成長のための外あそびを推進する会」は6月、活動に賛同する自民党議員らと共に、加藤勝信官房長官に提言書を手渡した。同会では、少子高齢化や共働き世帯の増加などにより、日本では子どもが安心して外で遊べる環境が失われつつあるとして、こども庁が主導して子どもの外遊びに関する政策を推進するよう求めた。学校の校庭の積極的な開放や公園の整備といったハード面だけでなく、子どもの外遊びを見守りサポートする人材の育成、社会全体で子どもが遊びを通じて成長する価値を見直すことなどが必要だとしている。

同会代表を務める早稲田大学人間科学学術院の前橋明教授は、子どもが置かれているここ最近の状況に警鐘を鳴らす。「大人中心の夜型の生活になり、夕食や就寝の時間が遅くなっている上に朝も早いので、睡眠時間が短くなっている。外遊びで体を動かし、太陽光をしっかり浴びることが、子どもの成長には欠かせないと呼びかけてきたが、このままでは改善されそうにない」と前橋教授。同会の今後の活動として、「ワーキンググループを立ち上げ、政策を具体化するとともに、子どもの遊びに関する理論を構築したり、地域社会の理解を得ながら、子どもの外遊びの成功事例をつくったりしていきたい」と語る。

前橋教授は「そういう場があれば、子どもたちは学校で学んだことを放課後に遊びを通じて試そうとするし、友達と助け合いながら成長していく。子どもが熱中できる遊びの空間の価値を大人が理解しなければいけない。専門的な人材を育成し、親がそばにいなくても安全に遊べる環境をつくることも課題だ」と話す。

(藤井孝良)

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