【おいしい給食】学校全員で児童の食と健康を支える

 「吉村先生の授業で、命についてよく考えるようになった」――。東京都武蔵村山市立第七小学校の吉村康佑栄養教諭の授業を受けた児童たちは、こう口をそろえる。学校教育での食育の充実が謳われて久しいが、中心となる教科や教科書がない中で、どのように学びを展開するべきか、考えあぐねている教員も少なくない。「児童の自己肯定感を育み、自分の命も大切にできるようになってほしい」と語り、ユニークな実践を取り入れながら学びをデザインする吉村教諭に、学校で食育に取り組む秘訣を聞いた。(全3回の2回目)

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学校園で命の尊さを知る

 同小学校の児童が夢中になって取り組む食育活動の一つが、学校園を活用した取り組みだ。なす、ピーマン、トマト、きゅうり、稲……。1年を通して、各学年で計20種類以上の作物を育てている。しかし、吉村教諭が赴任した5年前、学校園は荒地に近い状況だった。「もったいない!」と吉村教諭は奮起し、現在は四季折々の作物が実る豊かな学校園となり、第七小の特色の一つになっている。

 取材したのは、3年生によるキャベツの収穫。興奮が抑えられない様子の児童に、吉村教諭がこう問い掛ける。「みんなはこれから何をいただくのかな?」。「キャベツ」「野菜」などと声が上がる中、一人の児童が「命」と答えた。吉村教諭は大きくうなずき、「そうだね。だから、『キャベツが獲れたぞ、おいしいな』だけで終わらないでほしいんだ。今まで水やりや雑草取りなど、みんなで一生懸命お世話してきたことを思い浮かべて、キャベツの命を『いただきます』という感謝の心を忘れず収穫しましょう」とメッセージを送る。

育てたキャベツを収穫する吉村教諭と児童

 キャベツの収穫は、大盛り上がり。児童は2~3人のグループに分かれ、立派に育ったみずみずしい“命”を力いっぱい持ち上げる。「こんなに根が張っているんだ」と、額に汗をにじませながら命の重みを体感しているようだ。

 収穫したキャベツは吉村教諭がカットし、児童が家庭に持ち帰って家族と一緒に味わうという。獲れたてのキャベツをまじまじと見つめながら、児童は「葉っぱの色が鮮やか」「売っている野菜の何倍もおいしそう」などと感嘆の声を上げる。児童の一人は「種を植えてから、今日まで水をやって一生懸命お世話してきた。お母さんにその様子を話しながら、キャベツたっぷりの野菜炒めを食べたい」と期待に胸を膨らませた。

 野菜の切れ端を集める際、児童が「命さん、ごめんね。ありがとう」とつぶやきながら後片付けをする様子が印象的だった。

食育で自分の命も大切にできる意識を

――先ほどの学校園での活動では、命の大切さを強調されていました。

 学校園での食育で児童に感じてほしいのは、「命を大切にする」という視点です。児童は命を育てて、その命をいただき、自分の命に変わっていくということを実際に体験します。そうすることで、何一つ食べ物を無駄にしてはいけないと気付きます。

 つまり、狙いの一つは「毎日の食事を、なるべく残さず食べよう」につなげていくことです。同時に、命に触れることで「自分の命」を意識し、大切にしてほしいと思います。そうした願いを込めて授業をしています。

 1年生の段階から、授業のたびに、命について話しています。例えば、学級園で植物の種をまくとき、「今から種を配ります。この種は、別の呼び方をすると命です。命を渡すので、『落としちゃったから、もう1個ください』というのはどうでしょう? 私たちの命も同じように、『もう1個ください』とは言えないよね。この命も、大切に、大切に扱ってね」と、声を掛けてから渡します。すると児童は、とても慎重に種を手に取り、植えるときも心を込めて声まで掛けています。植物を育てる過程で、「どの命一つとっても失敗作なんてないし、大事にしなければいけないんだよ」と子どもたちに伝えています。

 低学年はまず「命は大切」という前提に触れて、学年が上がるにつれて発展させながら学びを深めていきます。

 例えば、3年生の道徳の時間では「トマトは命なのか」をテーマに、グループワークをしています。トマトが大好きな女の子が主人公の教材を使って、「彼女が大事に育てたトマトを食べるとき、どんな気持ちだったのだろう?」と子どもたちに想像させるのです。私たちには命があり、トマトにも命がある。地球に生きる仲間としては同じ命だけど、一緒なのかどうかを考えさせます。

 「同じ命だ」という意見もありますし、「違う。だって僕らはトマトの命を食べる。お友達の命は食べないでしょ」という意見もあります。話し合いを進める中で、この世界に生きる命という点で共通すること、命をいただくことは生きる上で必要不可欠だけれど、そこに感謝の気持ちがなければいけないということを、子どもたちはかみしめます。だからいただくときには、感謝の気持ちを持って、なるべく残さず食べようとするのです。

「食育計画表」で教職員のチームプレイ

――そういった食育の授業は、どのように組み立てているのですか。

 授業をするに当たり、担任とのきめ細やかな連携が不可欠です。

担任教諭や管理職の協力があってこそ、きめ細やかな給食指導や食育が実践できるという

 そのため、月ごとに「食育計画表」をつくり、全教員と共有するようにしています。1年生から6年生まで、どの教科でどんな食育の授業が実施されているかを一覧表にしたものです。

 食育は特段、中心となる教科や教科書があるわけではありません。そのため、教職員の間でも「どこで誰がやっているんだろう」とか、年度末に「そういえば、今年度は何をやったんだろう」といったことになりがちです。そこで管理職に提案して、いつどこでどんな食育がされているかが、見える仕組みをつくりました。

 授業の内容は、各学年の先生に提案させていただき、話し合いながら練り上げています。例えば、1年生の担任には「育てているミニトマトの収穫と、雑草抜きをそろそろどうですか?」と声を掛け、お互いの予定を擦り合わせるような感じです。どの教科の授業でやるかについても、教科ごとの狙いなども踏まえ、担任教員とよく話し合った上で決めています。

――最初から、学校一丸となって連携プレーができていたのでしょうか。

 まだ学校栄養職員だった初任の頃は気持ちが先走り、他の教職員と足並みをそろえることに苦労しました。

 当時は「教員」ではなく、あくまで「学校職員」だったので、児童を指導する上でも「教員じゃないのに、どうして教えようとするの?」「あなたは会議に出なくていいよ」などと言われることもありました。休み時間、児童に鉄棒を教えていたら、他の教員に怒られたこともあります。その当時から、「児童と信頼関係を築いて、食べることや命の大切さを伝えたい」という信念があったので、どうしたらいいかと悩んだものです。

 今になれば、そうやって目くじらを立てていた教員たちの気持ちも分かります。例えば、自分の学級の児童に何かあったときに、責任を問われるのは担任教員です。自分の立場や業務のプレッシャーの中で、余裕がなかったのかもしれません。

 そんな経験を通して、もっと他の教員とコミュニケーションを取り、食育や給食の教育効果について理解してもらった上で、児童との距離を縮めていかなければならないと気付きました。学校はチームです。子どもたちに、健康で幸せな人生を送ってほしいというゴールは、どの教職員も同じはずです。そのゴールに向けて、お互いの力を合わせて、チームで動かなければいけません。

新メニュー試食会が給食指導を変えた

――具体的に、他の教員にどのように働き掛けたのでしょうか。

 例えば、新作メニューを出すときは、事前に試食をしてもらっています。メインで給食指導するのは担任なので、まずはその意見を聞くことが、私にとっても大きなヒントになっています。

 昨日の給食では、新作の「オムレツのクリームソース掛け」を出しました。これも事前に、教員に試食をしてもらいました。試食で出したソースは、生クリーム、牛乳、バター、とろみを米粉で付けたものと、隠し味にチーズやトマトを加えてうまみを効かせたものの2種類です。そのときのフィードバックが、後のレシピ開発に役立つことも少なくありません。

 担任も試食することで、どんな味かを知ると同時に、私がどんな思いや狙いを持って作っているのかを事前に理解でき、児童たちへの指導がしやすくなります。

キャベツを収穫した児童ら。命の尊さをかみしめていた

 「吉村先生、今日の献立はめちゃくちゃ気合いを入れて作っていたよ」「このソースの隠し味、何だか分かる?」といった具合に、事前の情報があるから子どもたちへの声掛けもしやすい。私が毎日、全学級を回るのは不可能なので、私の思いや伝えたいことを担任から児童に伝えてもらえるのは、とても助かります。

――給食指導も、学校がチームとして一丸となって行うことが大切なんですね。

 もちろんです。それこそ初任の頃は「自分がやらなきゃ、頑張らなきゃ」という思いが空回りし、給食の時間になると毎日、全学級を回っていました。そして、勤務が終わると、「自分は何をやっているのか…」と、とてつもない疲労感を覚えるようになっていました。

 今思えば、担任の仕事を奪っていたし、チームで取り組むという視点があまりにも足りていませんでした。反省ばかりです。

 給食指導は担任にとって、相談できる人が周りに少なく、悩みを一人で抱え込みやすいことにも気付きました。そのため、毎日なるべく各クラスの残菜を見るようにして、「昨日より減りましたね」「野菜がほとんど残っていませんね」などと、できているところを伝えるようにしています。

 今は担任や管理職と協力して、給食の時間や食育の授業を一緒につくっているという手応えを感じる機会が、以前より増えました。


(板井海奈)


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【プロフィール】

吉村康佑(よしむら・こうすけ) 1986年生まれ、静岡県出身。静岡県立大学卒。子供時代病弱だったことがきっかけで、管理栄養士を志す。大学卒業後は精神科病院で栄養士を経験した後、学校栄養職員として都内の小学校で勤務。2016年に栄養教諭の免許を取得後、武蔵村山市立第七小学校に赴任。「児童に本物のすばらしさを伝える」をモットーに、ユニークな食育の実践に取り組み、児童の食と健康を支えている。

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