【北欧の教育最前線】子供へのわいせつ行為 デンマークの対策

 近年、子どもへのわいせつ行為に関する事件が多発しており、取り締まり強化を求める声が高まっている。デンマークでは、保育サービスを利用する子どもと保護者、そして保育に携わる者が安心・安全でいられるよう、環境づくりが徹底されている。

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「無犯罪歴証明書」の提出義務化

 1990年代以降、デンマークでは男性保育者の「子どもに対するわいせつ行為」事件が相次いで報道された。そのために世論の不安が高まり、社会問題の一つとして関心が集まった。男性保育者による女児へのわいせつ行為の冤罪を巡る内容を扱ったデンマーク映画『Jagten』(邦題「偽りなき者」)が製作されたり、一部の保育施設で男性保育者に対して、子どもとの身体接触に関する特別な制限が設定されたりするなどの動きが見られるようになっていた。

 例えば、「保育者はオムツ替えや着替えの援助をする時、子どもと二人きりであってはならない」「トイレのドアは開けた状態にしておくこと」「保育者は子どもの写真を撮るために自分の携帯を使用してはいけない」などだ。

無犯罪歴を示す証明書

 こうした流れを受け、デンマークでは保育サービスを利用する子どもと保護者、そしてサービスを提供する保育者自身が安心・安全に保育施設で過ごすことができるように、2011年に、子どもと関わる職業に就く者に対して、無犯罪歴証明書(Privat Straffeattest)の提出が義務付けられるようになった。これは、犯罪歴がある者による再発を防止するための対策である。犯罪証明書は日本のマイナンバーに相当するNemIDを使ってウェブ上で簡単に入手できるようになっている。

現場ではオープンな状況・会話を重視

 しかし、再発防止策が講じられるようになったものの、初犯を防ぐためにはやはり現場の努力が必要である。デンマークでは、「子どもに対するわいせつ行為」を男性だけの課題ではなく、保育者全体に向けられた課題として認識し、保護者や同僚から誤解を招かないためにも、保育の援助はできる限りオープンな状況で行うことを心掛けている。

 また、保育の都合上、一対一の援助が必要にならざるを得ない場合にも、事前に同僚に声を掛けてから援助を行っており、同僚と連携しながら保育を行っている。加えて、施設長から「子どもに対するわいせつ行為」の防止を意識した呼び掛けが日頃から行われている。オープンな会話の中で、保育者がわいせつ行為を未然に防止する意識を高めている。

政策・現場の両輪での対策の必要性

 日本においても、子どもと関わる職業に就く者によるわいせつ行為対策として、日本版DBS(Disclosure and Barring Service:前歴開示及び前歴者就業制限機構)の制度化が議論されている。再発防止への対策が不十分であった日本において、こうした取り組みは重要な一歩だ。

 そして、デンマークの事例からも示唆されるように、初犯を防ぐためにはやはり、現場レベルでの努力が必要不可欠になってくる。特に男性の割合が圧倒的に少ない保育施設においては、施設長や同僚が議題に挙げ難いタブーとして認識されている傾向にあるように思える。「わいせつ行為」についての問題を、保育職全体に向けられた課題であるということを一層強く認識し、現場レベルでオープンな環境での援助を心掛け、同僚間の連携を強化することを、政策レベルでの対策とともに進めていく必要があるのではないだろうか

(上田星=うえだ・せい 関西学院大学大学院教育学研究科博士後期課程。専門は比較教育学、幼児教育史)


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