【GIGA×公立】 空間と時間を超えた授業デザイン

 鹿児島県にある全校児童8人の小規模校、阿久根市立尾崎小学校でもGIGA端末の活用が着々と進んでいる。推進役を務めるのは、山口小百合教頭。東京都の小学校とオンラインでつながっての遠隔合同授業や、地元の企業や農家を巻き込んだバーチャル工場見学など、児童の好奇心をくすぐる実践を独自に編み出し、次々と実現している。「山間の極小規模校だからこそ、端末を自分のツールとして使いこなせるようになってほしい」と強調する山口教頭に、具体的な実践内容とその狙いについて聞いた。(全3回の1回目)

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複式学級で重宝されるGIGA端末

――GIGA端末の整備や活用状況について教えてください。

 一斉休校が明けた昨年4月の時点では、市内全小中学校に校務支援システムや校内の無線LANが整備され、本校では児童にも教師にも実質1人1台端末が配備されました。昨年度中は、通信環境が不安定だったり、アプリのインストールの手続きに時間がかかったり、教員間の意識に差があったりと、不自由に感じることも多々ありました。

 しかし、今年度に入ってからは、GIGAスクール構想が本格始動した追い風もあり、だんだんとできることが増えてきました。職員や保護者と共に学ぶ機会が増えたように思います。私自身も、これまで温めていた実践のアイデアに挑戦していくぞと燃えているところです。

オンラインで取材に応じる山口教頭

 1学期は、各クラスでインターネットを使って調べ学習をしたり、カメラ機能を使って撮影したりと、端末に触れる機会をとにかく増やしました。端末が入って便利になったことの一つが、複式学級の学習指導です。本校は小規模校なので複式学級があるのですが、これまでは一つの学年を直接指導している間、どうしてももう片方の学年の児童が、教師の指示待ちになって、学習が止まってしまう場面がありました。しかし、端末が導入されたことで、例えばNHK for Schoolなどの動画教材やドリル教材などを活用して、個別に最適化された学びが可能となりました。

――オンラインを活用して、どんな授業を実践されているのでしょう。

 昨年のコロナ禍では、タブレット端末やZoomを活用して、地域の特産品であるボンタンの生産者や全国各地の消費者、他校の児童など、教室の外の社会とつながる授業を展開しました。

 例えば、同じ鹿児島県の離島、喜界島の小学校とオンラインでつながり、社会科の遠隔合同授業を展開しました。喜界島の特産品であるさとうきびと、ボンタンの特徴や育て方について比較分析したのです。お互いの地域の農業について調べたことを発表した後、「ボンタンは山の斜面で栽培するけれど、さとうきびは広くて平らな畑で栽培している」「どちらも虫や病気から守るようにしている」など、共通点や相違点についてGoogleスライドを共有して書き込みました。

 以前は自分の地域の農業を調べて終わっていた学習が、外とつながって比較することにより、お互いの地域の特性や農家の仕事の営みについて関連付けて、学びを深めることができました。

 さらに、地元の加工工場とオンラインでつなぎ、バーチャル工場見学も行いました。皮も含め果実全体を無駄にしない工夫など、現場で働く人々の生の声を聞くことができました。

 また、Googleフォームを使って、消費者にアンケートも実施しました。生産者さんにご協力いただき、ボンタンの箱にアンケートのURLを示した手紙を入れて送り、消費者に手にした理由や感想を尋ねたのです。「まずこの大きさに驚き、次に良い香りに驚きました」「阿久根市は母の地元で、大好きな場所です」など温かいメッセージをもらうことができ、児童はこれまで以上に地元に対して誇りを持てるようになりました。学習の成果を記録するポートフォリオを見ても、学習を重ねるごとに、地域のことを自分事として捉えるようになっていると感じます。

鹿児島⇔東京のオンライン授業

――東京都調布市立多摩川小学校とも、遠隔で合同授業をしたんですよね。

 同校の庄子寛之先生とSNSでつながったことをきっかけに、昨年6月に実現しました。SDGsの11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」をテーマに、総合的な学習の時間を使って、お互いの地域の課題について考えました。

GIGA端末を活用した授業の様子(山口教頭提供)

 本校の校区である尾崎区と弓木野区には、学校からすぐのところに山や川があり、自然に恵まれています。一方で70歳以上が住民の大半を占める超高齢化社会で、全校児童は8人しかいません。一方、多摩川小は700人以上の児童が在籍するなど、私たちとは異なる環境にあります。

 初めてZoomで教室同士をつなげたとき、画面の向こうに40人近くの児童が3クラスも並んでいる光景を目の当たりにして、本校の児童は圧倒されていました。一方、東京の児童は本校の窓から見える山々の風景に驚きの声を上げていました。

 授業ではまず、お互いの学校や地域が抱える課題を出し合いました。本校の児童からは「子どもの数が少なく、授業中の意見交換ができない」「休み時間にサッカーがしたくても人数が足りない」といった声が上がりました。一方、多摩川小の児童からは「人数が多すぎて、クラス全員で同じ遊びをできない」など、正反対の悩みが出てきて、児童たちは興味津々の様子で聞き入っていました。

 さらにもう一歩踏み込んで、それぞれが抱える課題に対して解決方法を提案し合う活動にも挑戦しました。本校の児童からは「曜日ごとに遊びを決めて取り組めばいいのではないか」「東京では芸能人に会えるかもしれないし、博物館や図書館にもすぐに行ける」などの意見が上がりました。

 一方、多摩川小の児童は、各自のタブレット端末でストリートビューを使って阿久根市の観光名所を見たり、特産品について熱心に調べたりしていました。さらに、「阿久根市のまちおこし」というテーマで、一人一人がアイデアをワンペーパーにまとめてくれたのです。ボンタンのキャラクターを考案して、みんなで頭に被るなどユニークな提案もありました。

 「人が多ければ多いなりに、大変なこともあるんだ」「山や川がすぐそこにあることは当たり前じゃなく、恵まれたことなんだ」など、子どもたちは新たな視点で自分の住む地域のことを見ていました。全く違った環境の人と意見を交わし合うことで、これまで知らなかった課題を知って自分事として向き合えたり、逆に自分の環境を違った視点で捉えられたりします。

 GIGAスクール構想が進む中で、これまで教室の中だけで完結していた学びが、空間や時間を超えて広がっていると実感しています。

オンライン授業が埋める中1ギャップ

――小規模校で、学校外とのつながりを持てるツールがあることは大切ですよね。

 鹿児島県には26の有人離島があり、そこにある学校の多くが小規模校です。陸続きの過疎地域の場合は合併することもできますが、離島ではそれもできません。ですからコロナ禍以前から、遠隔授業の必要性がありました。

 そのような小規模校では複式学級が多く、児童が1人しかいない学年もあり、多様な他者と対話しながら学び合う機会が多くありません。コミュニケーション能力や学力に差が生まれないように、学校現場で工夫改善を続けているところです。そんな環境下でGIGA端末の活用は、課題となっている距離や時間、労力、費用などの軽減につながると期待しています。

――山口教頭自身も、そうした課題を実感されているのでしょうか。

 特にコミュニケーションの面では、かなり感じています。これまで1000人規模の学校や、10人にも満たない学校に勤務しました。小規模校ならではのよさと共に課題を感じています。

 小規模校ではクラス替えがなく、基本的に1年生から6年生まで同じメンバーで学校生活を送ります。全学年の児童や教師と毎日触れ合い、一人一人を大事にする温かい環境がある反面、人間関係が固定化したり、自分の考えを最後まではっきりと伝えなくても分かり合えたりするという場面が多くなります。そうすると、自分の意見を伝えたり、他者の意見と比べたりして学び合う機会が少なくなってしまいます。

 いくつかの小学校から生徒が集まる中学校に進学すると、いわゆる中1
ギャップに悩む生徒も出てきます。中には、友達との意見の違いにショックを受けたり、他者の考えを尊重しながら自分の考えも主張していく折り合いの付け方が分からなかったりする子どももいるようです。

 私は教師とのやりとりだけで学ぶよりも、多様な他者の多様な考えと触れ合う対話的な学びが必要だと考えます。例えば、道徳の授業だと一つの問いに対して、答えが一つとは限らなかったり、対立する立場や考えが、どちらもよいものだったりする機会を体験させたいのです。そして、それぞれの価値観の違いや、多面的・多角的な見方・考え方に気付いてほしいと思います。

――GIGA端末がその課題を解決する一助になり得るんですね。

 その通りです。GIGA端末は、いろいろな可能性を秘めています。専門性、多様性、協働性を生み出し、住む場所に関係なく、新しい授業展開ができます。

 オンライン授業を始めて最初の頃は、画面の向こうの知らない人に戸惑う児童もいます。せっかく接続先の学校の児童がいろいろと質問してくれているのに、画面に向かってではなく、担任に話し掛けてしまう子もいます。そんな姿を目にすると、デジタルスキルを身に付けることはもちろん大切ですが、小規模校特有のコミュニケーション能力の課題を解決するために、GIGA端末は必要不可欠だと痛感します。

 オンライン授業でさまざまな人との交流を積み重ねていくと、確実に児童たちは変化していきます。それまでは声の大きい子の考えに流されて、自分をうまく主張できなかった児童が、だんだん自分を出し始めるんです。そうやって児童の自信が生まれる瞬間に立ち会えると、心から感動しますし、GIGAスクール構想の可能性を実感できます。


(板井海奈)


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【プロフィール】

山口小百合(やまぐち・さゆり) 鹿児島県阿久根市立尾崎小学校教頭。鹿児島大学大学院教育学研究科専攻修了。1994年、西之表市立榕城小学校で教師生活をスタート。鹿児島大学教育学部附属小学校文部教官や、西之表市立現和小学校を経て2019年から現職。18年度、鹿児島県優秀教職員表彰。他にも19年度、日本アカデミア教育研究助成個人部門を受賞。『今、先生ほど魅力的な仕事はない!』(協同出版)、『ゼロから学べるオンライン学習』(明治図書出版)などを分担執筆している。

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