【GIGA×公立】 教育観を変えた米国のリモート授業

 「米国のリモート授業との出合いで、教育観が変わった」――。鹿児島県でGIGAスクール構想の推進に精力的に取り組む、阿久根市立尾崎小学校の山口小百合教頭はこう話す。米国籍の児童を担任したことで知った、米国の学校のオンライン事情。「学習者ファースト」を徹底的に突き詰めたその仕組みに、大きな刺激を受けたという。端末の活用が本格化することで、教員にはどのような教育観のアップデートが求められるのか、山口教頭へのインタビューを通じてその手がかりを探る。(全3回の2回目)

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オンライン研修の増加が後押し

――校内全体でICT化を進めるコツを教えてください。

 鹿児島県では、県内の全公立学校で児童生徒と教員にアカウントを発行して、進学や転校、異動などがあってもスムーズに利用できる体制が整いました。

 さらに教員向けのセミナーや研修の大半が、オンラインで開催されるようになりました。これまでICTに苦手意識があった教員も「やり方を教えてください」「このオンライン研修に参加しようと思う」などと、自分から楽しそうに端末に触れようとしていて、とてもうれしく感じます。

オンラインで取材に応じる山口教頭

 一方で、今年度よりICT環境が一気に整ったことで、対応していかなければならない新たな課題も数多く生じました。例えば、オンライン会議ツール一つとっても、Teams、Zoom、Google Meetなど類似するアプリが複数入ってきています。そうした中、「授業のどの場面で、何をどのように使えばいいのか分からない」「同じような機能を持つものがいくつもあり、それぞれの特徴が分からない」などと、現場が混乱をきたしているという話も聞こえてきます。情報セキュリティー問題や端末の持ち帰りなど、クリアすべき課題がまだまだいくつもある中、児童はもちろん教員も含め誰一人取り残すことなく、普段使いできるようにする役割の必要性を実感しています。

――尾崎小学校では端末導入の過渡期、どのような状況でしたか。

 本校は職員の年齢構成が高く、それぞれが経験と指導力を持っています。GIGA端末を導入する前から、経験に基づいた独自の指導法がある先生も少なくありません。一方で、最初は、私も含めICTに苦手意識を抱く職員がいたことも事実です。それでもこれからの時代を生きる児童の情報リテラシーを育む大切さと向き合い、一からICTを学ぼうという意欲を持ち合わせていました。

 とはいえ、日々の業務に追われ「ICTなんかやっている暇はない」という空気もあったように感じます。小規模校は、児童数は少ないですが、少人数で校務を分担しなければならず、業務改善が課題です。限られた時間内で、クラウドを活用した端末の操作方法や授業デザインなど、多くのことを新たに学ぶために、どのようにビジョンを共有し、校内研修を組んでいけばよいか悩みました。

――どのように改善していったのでしょうか。

 校内研修では、「これが大事」と座学で一方的に情報を押し付けるのではなく、「まず、触ってみましょう」「こんな面白い機能があります」と、ゲーム感覚で学べるようにしました。例えばGoogleスライドやジャムボードを使い、教員同士が共同作業をして便利さを体験すると、活用に向けた意欲がぐっと高まるのを感じました。

米国のオンライン事情

――学級担任も兼務されているそうですが、児童の変化もより身近に感じることができるのではないでしょうか。

 今年の5月までの半年間、米国籍の児童が本校に通っていました。保護者の地元である阿久根市に滞在し、コロナ禍で帰国できなかったためです。彼は現地の公立学校にも在籍しており、リモートでオンライン授業を受けていました。最新のテクノロジーを活用した米国のリモート学習には、大きな衝撃を受けました。

 米国には、自宅で学習するホームスクーリングという制度があります。近年は不登校や病気療養中の子どもだけでなく、学習者の環境や価値観に合わせ、ニーズが多様化してきました。コロナ禍で対面授業ができない中、元々あったホームスクーリング用のカリキュラムを適応させ、オンラインと従来の対面型を組み合わせたオンライン仮想学校の利用者が急増していると聞きます。

 その児童が通っていたのは統一学区運営の公立学校で、授業料は無料。①対面とオンラインのハイブリッド②双方向のオンライン授業③時間に拘束されない、オンライン授業――の3つから、学習者自身がニーズにあった学び方を選択できます。

 学習者は、算数の「IXL」など教育用コンテンツやGoogleアプリなど、さまざまなオンラインツールを活用して学習します。プラットフォームに1週間分の課題が出され、毎週提出することで出席と見なされます。それぞれのペースで、いつでも、どこでも学習することが可能です。また家庭での操作の説明など、保護者へのサポートの機会も設けられているそうです。

――学習内容はどうでしたか。

 内容も、学習者自身に選択させることに徹底的にこだわっていました。日本が目指している「個別最適な学び」を体現したシステムだと思える要素が、たくさんありました。

 プラットフォームの中に「料理をしましょう」「リーディングをしましょう」など、さまざまな課題が入っていて、学習者はどれに取り組んでもいいのです。

 例えばリーディングでは、「Raz-Kidz」というオンラインライブラリーを使います。AからZまでさまざまな分野の読み物があり、その中から自分の興味関心や読解力に合わせて選択して音読します。分からない単語が出てきた場合は、そこをクリックすれば発音や意味を教えてくれる機能が付いているので、一人でも学習が進められます。

 読み終わった後は感想だけでなく、「どのような問いを持ったか」を紙に書いた画像や、自分の考えを述べる動画を投稿します。インプットとアウトプットを繰り返す学習が特徴的です。他のクラスメートの作品も視聴でき、お互いの考えや問いをシェアして、さらに学びを深めることもできます。

――個人の学びやすさを尊重しつつ、学び合う環境も整えているんですね。

 そうですね。通常は個々のペースで学習しますが、週に1回ほど全員が集まり、ディスカッションする機会が設けられています。トークだけでなく、図やスライドをシェアしながら、子どもたちが自分の考えを表現しやすいよう工夫されていました。

 例えば、ソーシャルスタディーの課題では、「地方と都会を比べよう」というテーマが設定されていました。プラットフォームに参考になる動画や資料が置かれていて、学習者はそれらを視聴し、シンキングツールを活用しながら自分の考えをまとめていきます。

 ディスカッションでは正解が一つではない問いや、正解のない問いについて、「考える」ことを重視します。

 米国の先行実践を見ると、学び方の違いを感じます。最新テクノロジーを学習ツールとして使いこなし、多様性を認めるフレキシブルな教育を具現化していました。米国のリモート学習との出合いは、GIGAスクール構想を推進していく中で、新しい授業の在り方を具体的に考えるヒントを与えてくれました。

「先生、考える時間をください」

――山口教頭自身の教育観に影響はありましたか。

GIGA端末を活用した授業の様子(山口教頭提供

 教育観が、ガラリと変わりました。特に、教員のスタンスの違いには、刺激を受けました。GIGAスクール構想が推進されてハード面が整っても、教員の授業観や頭の中がそのままだと、これまでの授業の再現をするだけだという指摘がなされています。私自身も、変わらなければならないと頭では分かっているのですが、実感させられる日々です。

 米国から来ていたその児童に「先生はインフォメーションが多すぎる」と指摘されたときは、正直、グサッと来ましたね。彼からは「僕に考える時間をください。ヘルプを出したときだけ助けてください」とも言われました。教師としての在り方を問う貴重な言葉をもらったと、今でも事あるごとに自分に言い聞かせています。

――具体的に、これまでの授業と変わったことはありますか。

 例えば、板書の活用方法が変わりました。

 従来までは、児童の発言を書いてまとめたり、教科書の大事なポイントを抜き出して比較したりといった板書をしていました。黒板の前にいるのは常に教師、黒板は教師のものだったように思います。

 しかし今では、黒板がコミュニケーションの一つになっています。児童は必要なときに前に出て来て、文字や図、ときにはイラストを描いて、自分の考えを表現するようになっています。児童が、「先生、ちょっと待って」と席を立って黒板に出て来て、説明してくれるのです。時には、タブレット端末を使って説明してくれることもあります。このように児童が必要に応じ、自身でツールを選び使いこなしているのです。

 自分の頭の中にあることを相手に伝えるのは、難しいものです。しかしタブレット端末を用いて、シンキングツールや動画など多様な表現方法をツールとしてうまく活用することで、理解も深まります。そこにまた誰かの思考も重ねれば、学びはさらに深まるのです。

(板井海奈)


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【プロフィール】

山口小百合(やまぐち・さゆり) 鹿児島県阿久根市立尾崎小学校教頭。鹿児島大学大学院教育学研究科専攻修了。1994年、西之表市立榕城小学校で教師生活をスタート。鹿児島大学教育学部附属小学校文部教官や、西之表市立現和小学校を経て2019年から現職。18年度、鹿児島県優秀教職員表彰。他にも19年度、日本アカデミア教育研究助成個人部門を受賞。『今、先生ほど魅力的な仕事はない!』(協同出版)、『ゼロから学べるオンライン学習』(明治図書出版)などを分担執筆している。

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