【GIGA×公立】 オンラインでつくる教員の第2の居場所

 

 GIGA端末が整備され、それまで対面だった教員研修や研究会がオンラインへと変わり、新たなつながりを生んでいる。鹿児島県の小学校でGIGAスクール構想の推進に注力する山口小百合教頭は、そうしたつながりについて「教員のメンタルヘルスを支える手段としても期待できる」と指摘する。コロナ禍が長引き、学校現場の緊張感や負担感は限界に達しつつある中、教員の憩いの場として注目されるオンラインでのつながり。「一人じゃないと知ってほしい」と呼び掛ける山口教頭に、教員が最高のパフォーマンスを実現するためのオンラインの活用法について聞いた。(全3回の最終回)

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オンラインが生む新たなコミュニティー
――オンラインの普及は、教員にとってもメリットがあるのでしょうか。

 これまで学校や自治体など狭くなりがちだった自分の世界を広げられる点で、大きなメリットがあると感じています。特に、私のような地方にいる教員にとっては、全国の教育関係者とつながって情報交換ができる点で重宝しています。

オンラインで取材に応じる山口教頭

 コロナがはやる以前は、毎年夏になると、筑波大学附属小学校に研修に行っていました。ただ、私の住んでいた種子島からだと、交通費や滞在費で10万円くらいかかります。鹿児島市まで船で向かい、それから空港まで行って飛行機に乗ってと、時間も労力もかかるため、決して気軽に行けるものではありませんでした。

 しかし今では、オンラインを活用すれば、全国の研究会やセミナーに気軽に参加できます。自分の都合のいい時間に、好きな内容を選んで学べるので、これまで以上に学びの質も高まっているように思います。

 例えば、これまで著書から学ばせていただくだけだった京都大学の西岡加名恵教授や石井英真准教授。同学大学院教育学研究科の「E.FORUM」では、オンラインで両先生のお話を聞くことができます。遠方の講演会に行かなくとも自宅で、リアルタイムで視聴できますし、それ以降もアーカイブ配信で繰り返し学ぶことができます。

 さらに講師の話を聞くだけの一方通行型ではなく、参加者同士が意見を交わし合ったり、気軽にチャットで反応したり、スライドを共同編集したりなど、学びの手段がどんどん広がっていることが楽しくて仕方ありません。

――オンラインイベントやSNSを通じて、さまざまな教育コミュニティーが生まれていますよね。

 これまでは出会うことのなかった教諭、管理職、大学教員、行政関係者など、さまざまな立場の方との交流は大きな刺激になります。教員に限らず、職業も年齢も国籍も異なる人々と学び合うことができるなんて、想像もしていませんでした。オンラインを通して新たなつながりができたことは、教員人生においても大きな財産になると思っています。

『アベンジャーズ』のような仲間たち
――山口教頭は、どんなつながりが持てましたか。

 例えば、昨年度の一斉休校下で、東北福祉大学の上條晴夫教授が主催する「オンライン授業をオンラインで学ぶ会」というグループに出会いました。コロナ禍で児童生徒の学びを止めてはいけないという思いを持った、教員や保護者、塾教師、学生、システムエンジニアなど、さまざまな立場の人々が世界中から集結しています。

 この会では、全国各地の教員がオンライン上で模擬授業を行い、参加者は学習者の立場で授業を楽しみます。多くの授業者のアイデアに触れることで、新たなアプリやクラウドの活用法を知ることができます。

 私自身も社会科や家庭科のオンライン授業に、これまで3回挑戦しました。オンラインツールを活用して情報や考えを比較しながら教科の本質に迫ったり、社会のあらゆる立場の人とつながったりなど、新たな授業の形を探究しています。

――仲間がいることで、ご自身に変化はありましたか。

 東京都練馬区立石神井台小学校の二川佳祐先生が主催される「習慣化サロン」も、私にとって非常に大切な場です。毎週日曜日の朝6時にオンライン上で集まり、この1週間チャレンジしたいことを宣言します。

 ここに集うメンバーは、多忙な中でも自分の目標を掲げ、それに向かって小さな習慣化に挑戦しています。忙しさを言い訳にして、自分だけではなかなか実現できないことも、伴走してくれる仲間がいると違ってきます。私も日々、ダイエットや読書、英語、パソコンなど、少しずつ取り組めるようになりました。

 時には、悩みや弱音を吐露し、それに対してメンバーが傾聴し、アドバイスを送ってくれることもあります。例えばこんなことがありました。私があるオンライン研究会に登壇することになったとき、「習慣化サロン」のメンバーがたくさん参加してくれました。実は私、人前で発表することや、人とスムーズに会話するのが苦手で、当日も残念ながらうまくいったとは言えない発表でした。終了後に悔し涙を流す私を、彼らがオンライン上で励ましてくれ、一緒に涙を流してくれたのです。どれだけ救われたことか・・・…。

 教員が安心して弱音を打ち明けられる機会や場は、なかなかありません。一緒に働く同僚や先輩だからこそ、配慮して言えないこともあるでしょう。だからこそ、オンラインに信頼し支え合えるコミュニティーができつつあることは、これからの教員の働き方を変えるきっかけになるのではないでしょうか。

 私の場合、職場や人間関係にも恵まれ、楽しく働いています。ただ、何かを変えよう、動かそうとするときはどうしても一人で空回りしてしまい、悩むこともあります。教員の中には一人で思いつめ、職場が合わずに、孤立していることも少なくないと聞きます。

 しかし、私たち教員には目の前の児童生徒の幸せを実現するために、やりきらなければならないことがあります。そのために、日常はそれぞれがそれぞれの学校で頑張る。誰かがピンチのときは、オンラインで集結してヒントを出し合ったり、エールを送り合ったりする。世界各国に散らばったヒーローたちが集結して世界のピンチを救う、映画『アベンジャーズ』のようなイメージかもしれません。そんな心強い仲間が、学校ではない第二の場にいることで、安心していろいろなチャレンジができるようになったと思います。

公立を諦めたくない
――あるオンライン研究会で、山口教頭が「公立校、頑張ろう」と呼び掛けていたのが印象的でした。
GIGA端末を活用した授業の様子(山口教頭提供)

 昨年の初め頃は、オンラインで全国の先生とつながればつながるほど、私立校の革新的な実践に触れ、公立校とこうも違うのかと焦りを感じたこともありました。そんな中、公立校の優秀な教師たちが次々と辞めていく実態も知りました。

 一方で、公立校を諦めたくないという思いが、どんどん湧き上がってきました。私たちの未来を託すのは、目の前にいる子どもたちです。自分のやりたいことも大切ですが、公立校に通う児童生徒たちのために、「まだまだやれること、やるべきことはたくさんある」と前向きに捉えるようにしています。

 スムーズに進まないことがあると、対立的に物事を捉え、悲観的になりがちです。しかし、対立からは何も生まれません。GIGAを子どもたちの学びにどう生かせるかをしっかりと示して、自分だけの学びで終わるのではなく、理解を得られるように周りに働き掛け、一緒に協力し分担し合って進むことが必要ではないでしょうか。日本の教育の情報化は、海外に比べ遅れているのですから。

――熱心な教員ほど自分一人で重圧を背負い、苦しみがちなように思います。

 「一人じゃないよ」と伝えたいです。特に私たち教員は、学校にいる日中は業務に追われています。コロナの影響で飲み会も開けませんし、職員室でじっくり語り合う時間もなかなか取れません。私が新任の頃は夜遅くまで先輩や同僚と、理想の教育や悩み事について語り合う時間が持てていました。その時のコミュニケーションの中で学んだことが、今の私の基盤になっているように思います。

 しかし、今の学校現場ではなかなかそうはいきません。教員同士の関わり合いが希薄になりがちで、特に若手にとっては深刻な問題です。先輩や同僚との間に信頼関係が構築できていないがために、困ったことや悩みがあっても一人で抱えてしまい、表面化したときには深刻な事態になっているケースが増えていると聞きます。

 ネット上で信頼できる仲間とつながり、語り合い、悩みを吐露できる空間をつくることができれば、教員のメンタルヘルスを支える新たな術としても、オンラインは大きな役割を担うように思います。コロナ禍やGIGAスクール構想の波で、教員一人一人の教育観の違いが表面化して、孤立している先生が全国にはたくさんいるように思います。学校の中で「おかしいな」「違うな」と違和感を持っていても、何もできずに苦しんでいる先生は少なくないでしょう。そうやって一人で苦しくなっている人に、「オンラインで一緒に語って、一緒に学びませんか?」とお誘いしたいです。

 「諦めず腐らず焦らず、へこたれず」。例えすぐには結実しなくとも、私たち一人一人の教員が学びを進め、力を蓄えていることは決して無駄になりませんし、それが生かせるタイミングや場は必ず巡ってきます。諦めずに学び続けていれば、その姿を誰かが見てくれているし、何より子どもたちが見ています。そのことを全国の先生、特にこれからの学校教育を担う若い先生方に伝えていきたいと思います。


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【プロフィール】

山口小百合(やまぐち・さゆり) 鹿児島県阿久根市立尾崎小学校教頭。鹿児島大学大学院教育学研究科専攻修了。1994年、西之表市立榕城小学校で教師生活をスタート。鹿児島大学教育学部附属小学校文部教官や、西之表市立現和小学校を経て2019年から現職。18年度、鹿児島県優秀教職員表彰。他にも19年度、日本アカデミア教育研究助成個人部門を受賞。『今、先生ほど魅力的な仕事はない!』(協同出版)、『ゼロから学べるオンライン学習』(明治図書出版)などを分担執筆している。

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